2章:七代目山童と竜城
第11話:七代目山童は竜城へ潜る
ディールの希望を聞いてやってきた街――北谷町美浜は、12月ということもあってクリスマスムード一色。
街を行く人々は、カップル、外国人、観光客、老若男女問わず。時刻は午後三時頃。非常に賑やかなムードに包まれている空間だ。
だが、一角にはバリケードが張られた箇所があり、そこだけはピリピリとした雰囲気が立ち込めている。それは、美浜で長く存在するダンジョンの付近である。
さまざまな武装で固めたパーティーは準備を進めながら、沖縄屈指の未踏破ダンジョン「竜城」を見ている。
ある一定区間からの難易度は高く、危険はあるが、ある程度稼ぎも出せる点が攻略者の心を掴む。完全攻略までは行かなくても、定期的に潜るパーティーが多い人気のダンジョンだ。
俺たち七代目山童も、せっかく近くまで来たので浅い階層を潜ることにしている。終わったら、ディールが行ってみたいという店で食事などをし、場合によっては映画なども一本見て帰ろうかという雑な予定だ。
「イットー、このダンジョンの特徴とかって知ってるの?」
俺の横でサングラスをかけた黒人マッチョことディールが質問をしてくる。もうお互いに慣れつつあり、自然にやり取りもできるようになっていた。
なお、中部は米軍基地から来るアメリカ人も多いのでディールもそんなに目立たない。ただ、南部のダンジョン行くとちょっと目立つかもしれないなという感じであった。
「竜城は、その名の通りドラゴン系の魔物が出てくる場所だ。今のところ確認されている攻略記録は八階層。さらに底がありそうと言われているな。ま、三階層まではドラゴン系とは名ばかりでほとんど爬虫類系だ。だが、四階層からはドラゴン系が出てくる」
未踏破の理由として、ドラゴン系が出てくるからというのが大きいだろう。命のやり取りをよりシビアに感じるようになる。神経も磨り減るし、ダンジョンも深い。長く攻略されないのは仕方がない部分もある。
「なるほど……ドラゴンは魔術耐性高いから嫌いだな~。どうにかできるけど、倒すの疲れるんだよねぇ」
「この前の切り札とかか?」
「いや、あれはちょっと魔術耐性高い魔物には効かないね。切り札じゃなくて、一般的な方法でどうにかはなるよ」
一般的となると、召喚系か創造系。ドラゴンと戦える物理持ちを呼べる・ゴーレムを造れるということだろうから、なかなかスキルが高い。
「ま、今回は三階層までで気楽に攻略進めよう。まずは慣れだ。ここは長く未踏破で難易度も高いしな」
「了解了解。メンバーも揃っていないし、気を付けていこうね」
「ああ、あとこのダンジョン特有での問題がある――ここは徘徊する暴君という通称を持ったドラゴンがいる」
「あ、ヤバそう」
「そうだ。このドラゴンは強く、さらに階層を跨いでくる。そして、どこにでも不定期に現れる。見かけたら全力で逃げるぞ」
徘徊する暴君――灰色の鱗をしたドラゴンであり、階層問わず現れる厄介者。
強さはおそらく八階層相当、あるいはそれよりも強いとされる。時に透明化を使い、不意打ちでの即死を試みてくるのが厄介だ。もし姿を見かけたら何はなくとも一目散に逃げる必要がある。
竜城を潜る攻略者への注意喚起はされているが、注意があろうと、死人は毎年出ている。確か、去年は六つほどパーティーが襲われ、死亡者数は二十人を超えたはずだ。
「あまり見過ごせないから、どこかで始末はしたいが……」
そもそも勝てるのか、出会えるのか、移動する個体のために運が絡む点も面倒だ。なかなか討伐されない理由でもある。
不意打ちそのものは、俺がいればなんとでもできるのだが、戦力も揃っていない七代目山童ではまだ時期尚早と言ったところか。
「いいね、イットーは誰かが困っているから倒したいんだね。そういう志、素敵だよ」
「できるかどうかはわからんが、まあそうしたいものだ。だが、過信はしていない。今回は出会ったら基本的に逃げの一手だ。二人ではおそらく厳しいだろう」
準備が完了し、ダンジョン攻略を開始する。まずは肩慣らしだ。
■
竜城はまさに洞窟といった様相で、湿気を感じて足場が悪い。いつも通り、ダンジョン内が魔力光で暗くないのだけ幸いだった。
七代目山童は、一階層に入ってからすぐに次の階層へ移動するべく、足早に進む。事前に三階層までの地図データはたたき込んであるので問題ない。
移動の途中に出てくる魔物は、ロックリザードやファイアリザードなど属性を持ったものばかりであった。イットーがすぐに感知し、ディールがそれらを苦手となる属性の魔法ですぐに処理していく。そのため、道中ほぼ支障なく足を進めることができている。
ダンジョン発生から百年ほど経ち、戦闘方法は洗練が進んでいる。現代ダンジョンでの戦闘設計は非常にシンプルである。
危険を徹底的に排除し、安全に進行できる点が最重視されているのだ。すなわち、有利状態からの先制攻撃・確殺を前提とした十分火力・範囲一掃攻撃で取りこぼしをなくす、これを徹底するのがモダンなダンジョン戦闘といえる。
イットーは優れた探知を持ち、ディールは優れた範囲火力を持つ。そのため、基本的に相手が気づく前には魔術が叩き込まれ、あとには魔石が残るばかりである。
「あー、めっちゃ楽。索敵が素晴らしいから。もし取りこぼしあっても、カバーも安心」
「俺も同意見だな。一掃できる魔術を各属性使いこなせるのは一等上等だ」
連携も以前に比べて取れるようになっており、七代目山童としての戦闘もまた洗練されていく。竜城の攻略は順調に進んでいった。
■
(それにしてもイットーの索敵はクオリティが高い。魔力探知以外でも、音とかでも探知できているのかな? あと数もわかるし、距離感もある。壁越しでもわかるし、他だと熱源探知までやっていてもおかしくない)
ディールはそんなことを思いながら、竜城の攻略がスムーズに進む要因たるイットーの背中を眺めていた。
連携を取るため、色々と情報の開示をお互いに行っているが、詳細を伏せている部分もあるので、こうして不足部分を想像することが必要だった。
今やクランメンバーではあるが、全部の持ち札を細かく教えあうというのはしないのが一般的である。他のクランからの引き抜きや個人情報の売買で、その攻略者の情報が明らかになりすぎるためだ。
ダンジョン攻略者には、秘密は命を守るという格言が広く浸透している。秘密の保持は原則行いつつ、クランの結束が高まるにつれ、お互いが完全に理解しあう流れが推奨なのだ。
(別にイットーを信頼していない訳ではないけど、まあこれは癖だね。こうしないとダメって教育、メチャクチャ受けたもん)
だが、イットーは完全にクランメンバーに隠しきるという形ではなく、それとなく情報を示してくれている。その発信を受け取っていけば、理解を深めることは難しくない。それはイットーの気遣いだと、ディールは感じていた。
一方で、イットーもそれは同様だった。
(苦手な属性はないという情報は貰っていたが、ディールの範囲攻撃や扱える属性は想像以上だな。属性ごとの変換効率も良い。この年齢で既に卓越した魔術師というのを改めてわからせてくれる)
魔物の探知を済ませ、情報の共有を行った瞬間に、圧倒的な速度で組み立てられて放たれる魔術の数々は美しかった。魔術が通り過ぎたあとに、わずかな時間だけ飛行機雲のように残る魔力の残滓を見るのも楽しかった。
(こうも見ていると、俺も魔術の勉強をしっかりせねばなという気持ちになるな。高みにいるものの技を見ると、やはり自分の魔術をより成長させたくなる……ああ、俺も爺様の考えに染まってしまっているのだ。良いものを見たら、そうしたくなる。うむ、憧憬憧憬)
お互いの理解が深まりつつ、竜城の三階層へ到達した。歩みは以前よりもスムーズだった。
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