マイルドヤンキーな先輩たちから由緒あるダンジョン攻略クランの総長を押し付けられた俺が七代目として頑張るようです~頼れる仲間たちと現代ダンジョン攻略クランでプロを目指す~
第10話:七代目山童はダンジョンを攻略した
第10話:七代目山童はダンジョンを攻略した
「勝ったぁー! あぁ~、めっちゃ疲れた~! 魔力だいぶつかっちったよ……甘いもの食べたいし、風呂入りたい、あと炭酸飲みたいなぁ~」
床に寝転び、ディールは大声で叫ぶ。一連の戦闘に加え、最後の切り札で消費した魔力が多く、疲れ切っているようだった。
俺も正直なところ、かなり疲れていた。久しぶりにユニークスキルを使ったので反動がデカい。
強力だし、汎用性も高いが、あまりに疲れるのでできるだけ使いたくなかった。目が痛いし、身体も未来視に合わせて動くからバキバキだ。ひとまず座り込むが、あちこち痛みが走ってくる。しばらくダンジョン攻略は控えることになるな。
「だけど、ゴブリンキングがあんなに強いなんてな、侮っていた。切り札使わないと死んでいた可能性もあったな……」
未来視と相手の攻撃や防御を自分有利の状況へ誘導する秘伝剣術「百二十手一手」を使っても、決定打を与えるまで相当の手数がかかった。動きが見えていてもなお、手順を誤ると致命傷を負いかねないタイトさがあったのだ。あまり強くない種族として知られるゴブリンでも、上位クラスともなれば、あれほどの強さがある。
勝てはしたが、それなりに課題もあった。ユニークスキルの活用を控えていたが、錆びつかないように訓練する必要がある。
「でも、とりあえず、今回は私たちの勝ちだから誇ろ。これぐらい強い相手に2人でやれたし、一応結果としては怪我もほとんどなく圧勝だし。魔力はだいぶ使ったけど、一応ね、まだまだいけるよ……なんとか」
言葉が尻すぼみになりつつも、ディールは勝利の余韻に浸っているようだった。事実だけを見れば、確かにネガティブになることはない。
「そうだな、それは間違いない。あと大儲けだ。見ろ魔石を。これだけあれば、かなりの額になるぞ」
ゴブリンキングの魔石はイレギュラーとも言える大きさだった、また呼び出した一連のゴブリンたちも魔石となり、床に見たことないほど転がっている。リスクに見合う分の金額になることはおそらく間違いない。
ただまあ、正直ここまでの戦闘は予想外だったのだが……。やはり、ダンジョンの攻略は過信しすぎず、リスクとのバランスが大事と改めて痛感する。
「最高だねぇ。ね、過信ダメだけどさ、私たちってまだ2名だよ。これでフルメンバーになったら、プロでもなんでも、それこそ世界に轟くグローバルクランにもなれるかもね。それぐらいになったら、もっと色々助けられるクランになるよ」
身体を起こしたディールは、俺に満面の笑みを浮かべながら、夢みたいな希望を口にする。悪くない未来ではある。できないという気もしない。なんとなくでしかないが、可能そうという直感が俺の中にもある。
「そのためには、名前を売りつつ、スカウトとかもしていかないとな。まあ、とりあえず、俺とディールはお互いの理解もまだまだだ。そこからきちんと始めてもいく必要もあるな……」
予想外の死線を一緒に潜り抜け、信頼は十分だ。波長的に、次の困難があってもこいつとなら切り抜けられるだろうなという感覚もある。実力も、一緒に戦うのに心強さしか感じない。
なんというか、メチャクチャな出会いからここに至るけど、結果として山童に入ってくれて良かった。感謝である。
「そうだね、イットーはけっこー謎が多いよね。あのゴブリンキング倒す時も見たことないぐらいカッコよかったよ。約束組手みたいに、強い魔物をあんな風に倒せる人がいるなんて思わなかった。あれ切り札でしょ、見せてくれてありがとうね」
ディールはそう言うが、それは俺も同じ気持ちだった。ゴブリンという種族のみを滅する広範囲の魔術――おそらく、種族指定ができるのだろう。隙の多い詠唱に見合う強力な魔術だった。あれは見たことがない。謎という意味であれば、ディールも大概だ。だが、出し惜しみなく使ってもらえたことにまず感謝したい。
「こっちこそだ。ディール、切り札は本当に助かった。今回の報酬、ほぼ全部持っていくと良い。それぐらいの活躍だった。俺は装備のメンテ代とかだけで十分だ。あとお前は今後の生活整える上で必要だろう」
実際、ディールが放った魔術があって道が拓けたのは紛れもない。あれがなければ、他の方法を俺が使って進むことになり、ここまでスムーズには出来なかったはずだ。功績の第一等は間違いなくディールである。
「ダメダメ。クランの戦利品分配は均等が一番。命賭けてるし、そこはちゃんと守ろ」
ちっちと指を振りながら、ディールは俺を諭す。意見は真っ当で、特に反論はない。なんというか、思い上がりを感じさせない人間性だ。
「その意見はもっともだ。だが、今回はそれだとやはり不公平感があるんだがな……本当に良いのか? 俺は持って行っても気にしないぞ。ディールが本心から望むのであれば、もちろん反対はしないが……」
実際のところ、事情がある奴なので、これで生活が安定する方が安心でもある。
お金は大事だが、仲間が困らないようになるなら、別に多少の損をしたところで気にはならない。というよりも、稼ぎを渡して問題解決すると今後の憂いが少なくなるので得なのだ。少なくとも今回は間違いなく。
「んー、これは私的にも譲れないところだからねえ。あ、じゃあ特別報酬ちょうだい。私、お願いしたいのあるからさ」
にやりとした笑みを浮かべ、ディールは銀髪を揺らす。小首を傾げながらのお願いごととは非常に器用なものだ。
「ほう。このゴブリンキングの魔石とかで何か作るか? そこに宝箱もあるからそれの中身は全部持っていくか?」
かなり質の良い魔石なので、装備を強化するのも作るのも問題なさそうだ。宝箱はまだ開けていないが、ある程度の強さを持つボスからは良いものが落ちやすい。使えるものがきっとあるだろう。
「ははっ、そういうんじゃないよ、もっと簡単で私が喜ぶものだね」
何言っているんだこいつ。謎かけか? とんだスフィンクス気取りか? あいつは謎を解くよりも斬る方が早いぞ。
「ほう? そんなのがあるなら、それにしよう。なんになる?」
「言ったね、守ってよ? 絶対だよ?」
人差し指を立て、真剣な表情で念押ししてくるディールから強い圧を感じる。だが、俺は守れる約束は守る男だ。守れない約束はそもそもしない男でもある。
「叶えるのが不可能な約束以外なら、約束は守るぞ。俺に二言はない」
俺の返事を聞いて、ディールはこれ以上ないほどの笑みを浮かべた。えくぼが浮かび、銀の髪もつられて揺れる。笑顔も非常にパターンがあるものだ。表情の豊かさに感心してしまう。さてさて、いったいどんな特別報酬か……。
「――じゃ、イットーはその口調で今後は統一ね。少なくとも私には絶対その口調で接してね。私には親しみある下っ端口調禁止だからね!」
特別報酬は理解しがたいものだった。ディールはなぜ満面の笑みでニコニコとこんなことを言うのか、理解できない。
「ほう……ほう? えっ、お前そんなのを特別報酬にするというのか? ディール、俺は良いが、これが特別報酬になるのだろうか……?」
なんとか理解しようとしてみたが、やはりよくわからなかった。口調だけだぞ、しかもこれは元々の俺の口調で何も努力する必要がない。親しみやすい口調の方が良くないか。けっこー良い線いけてる口調だと思うのだが。
「うん! だってその口調の方が私は好きだもの。今の口調は悪くないけど、正直顔に合っていないっていうかぁ~。うん、そう、やっぱり口調は大事だね。服も口調も似合うものが一番。いやぁ、今の口調で接してもらえるなら命を賭けて良かったなぁ!」
くるくると回りながら、ディールは愉快そうに両手を挙げる。……まあ、なんかその理解しがたいところもあるが、良い仲間を得たということにしよう。俺はただ口調を戻すだけだし、別にそれぐらいならいくらでもしても良いし。
「よーし、じゃあダンジョン潰して外に出ちゃおう! 今日はガンガン飲み食いして休もうね! チョコパフェ食べよ! あと明日お買い物付き合ってね! 私けっこー買いたいものあるから案内してほしい!」
「おう、構わんぞ。そんぐらいなら全然。メシは良いところあるから、今日はそこに行こう。チョコパフェもあるし。買い物も、必要あれば付き合うから好きなところで買うと良い。どこでも案内するぞ」
ダンジョンコアへ向かって歩きながら、返事を返す。クラン七代目山童、現在は押し付けられた俺と頼れるディールで構成員2名。引き継いでちゃんとやっていけるかは不安だが、これから新しい功績を積み上げて、高みを目指していきたいところ。
ただ、今日は勝利の余韻に浸って、美味いものでも食べながら次のことを考えたいと思う。大広間の奥にあったダンジョンコアへ礎和を振るい、光に包まれながら俺はそう思った。
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