第6話:七代目山童はダンジョン攻略をスタートする

「いったん仮ですが、新しいクランメンバーを追加したっす!」

「でーじ早くない!? イットーが選んだなら良いけど、どんな奴? スキルとかポジションは?」


とりあえず、ディールの生活準備をざっくり整えてクランへの加入も済ませた俺は、でーじ先輩が運営している食堂「めしでーじ」に来た。


開店前だが、注文OKとのことなので、俺の目の前には今Aランチが置かれている。あとテーブル挟んで、料理を作ったでーじ先輩も着席している。


「相変わらず、先輩のAランチは美味そうっす。いただきます」

ご飯・マカロニサラダ・ハンバーグ・とんかつ・目玉焼き・スパゲティ・ポテトフライがワンプレートに盛られていて、まさにオールスターだ。別添えの味噌汁も嬉しい。身体動かす仕事をしていると、このボリューム感は本当にありがたくて涙が出る……。


そして何よりもどれも手作りで手間暇かかっていて、味も抜群。作りたてのアツアツを嚙み締めつつ、お腹が急速に幸せで満たされていく。


でーじ先輩は、でーじ料理が上手。食べるたびに尊敬の念が深まるばかりだ。


「食べながらで良いから説明しろな、これはタダでいいから。精力的に頑張っているお前は偉いからな、ご褒美だ」


頬杖をつきつつ、コーラ片手にでーじ先輩は問う。お言葉に甘えて、食べながら説明させてもらおう。うわ、味噌汁めっちゃ美味い。最高。


「まず、訳アリっす。俺がダンジョン攻略している際に突発転移で現れたんすよ」


ひとまずは現れた経緯とある程度の概要的なところから。おぅ、このハンバーグ、なんでこんなジューシーなんだ?


「は? お前と一緒やっし。なんか、山童の加入条件を突発転移経験者だけにするつもりだば?」


早晩、成立せずに消滅しそうなクランになりますよね、それ。違います。あ、とんかつサックサクでありがたい。


「それはフルメンバー揃わねえクランになっちゃうっすよ。まあ、行先がないというか、戻るのも嫌だそうなので、うちでしばらく預かることにした訳っすね。なので、現時点では本加入ではないっす。仮っすよ」


「あーはん? それ大丈夫か? 信用できるからだと思うけど、心配やっさー。いくらイットーが賢くても間違いはあるもんだしなぁ」


「それ、先輩が言うんすか……」


同じような状況で、俺を拾って世話を焼いてくれ、そのままクランにも加入させてくれたのは、でーじ先輩なのに。う、やばい、米がちょっと足りなくなりそうかも……。


「俺は後悔しないタイプだからいんだよ……おい、米お代わり入れてくるから皿貸せ」


やっぱりでーじ先輩は、でーじ最高の先輩。



「天国っす……」


腹が満タンである。美味すぎたので食べすぎた。ズボンが悲鳴をあげていて食い込む、俺も悲鳴をあげてしまいそうだ。


「そうか、メシに満足したなら良かったわ。一応こっちも話聞けたし、まずはお前の判断を尊重しよう。線引きはできているようだから大丈夫っぽいしな」


苦笑しながら、前総長のでーじ先輩から承諾を得た。基本的にここまで必要な情報や行った対応は包み隠さず伝えている。あとは、ディールのスキルやポジション、その他の特徴等を伝えれば終わりだ。


「外見はそうっすね、かなり魔術的に高度そうな白いローブコートっすね、あと銀髪でセーラー着ているっす。年齢は俺と同じぐらい女の子っすよ」


「は? "いなぐ"だば? てっきり"いきが"だと思ってたんだが?」


驚いた様子の先輩。そうだよね、女の子というのは多分想定していなかったと思う。俺もそういう予定はしていなかったし。


「そんな格好していて男だったら、面白いっすけどね。女の子っす。東京で攻略やっていたみたいで、まだちゃんと実力を把握してないんすが、見る限りはかなり腕利きっすね。魔術は普通に俺より上手いと想定しているっす」


この相談終えたら、今日中には手近のダンジョンで一緒に潜って確かめるつもりだ。多分外れないと思うけど。


「お前の目がそう言うなら、信用できそうだな……。ま、俺はもう引退した身だ。相談は乗るけど、お前のやることにはグチグチは言わん。ただ、困ったら絶対相談こいよ。後輩は遠慮しないのが美徳だかんな」


……でーじ先輩は、本当にでーじ最高の先輩なんだよな。改めて偉大さを感じいる。ちゃんと山童の運営頑張っていかなくちゃいけないな。


そのためには、まずクランメンバーをしっかり揃えて、名前を売っていくように攻略を進めていく必要がある。



食堂めしでーじを失礼し、約束の場所へ歩いていると少し腹はこなれてきた。目的の時間に目的地にギリギリ着くと、木陰でディールが休んでいるのが見えた。


「やあ、イットー。やっぱり沖縄は暑いねぇ……今12月なのに夏みたい」


スポーツドリンクを飲みながら、こちらに気づいたディールが手を挙げて迎えてくれる。確かに暑い。だが、それは間違いなく、別の理由もあるだろう。


「こんな亜熱帯気候でコート着ているからじゃないっすかね? 沖縄は2月と3月以外、ずっと暑いっすよ。ここは夏と冬しかない二季っす」


一張羅だし、かなり高度な装備なので仕方なくコートを着ているのはわかる。それに、日常とダンジョンをそのまま行き来できる装備というのは便利だ。


昔はいかにもゲームで見るような装備が好まれ、ダンジョン攻略で使われていた。だが、魔術系アパレルの開発技術向上に伴って、デザイン性と機能性の両立をしたものが人気なのだ。


より軽く、より丈夫に、より耐性を。洗浄魔術が付与されていれば洗濯いらず。普通の服では無理なあれこれも付け足せるのが最大のメリットといえる。金があるなら、誰しもがオーダーメイドやセミオーダーメイドなどで装備を作るのが一般的となっている。


俺も適当に動きやすい服装だが、じゅんに先輩が代表を務める魔術系アパレル「アルハンブラ」で作ってもらっている。


ディールのセーラー服からも魔力を感じるので、こいつは全身しっかりとダンジョン攻略をする恰好といえる。でもセーラー服は珍しい。東京だと、学校帰りとかにでもダンジョン攻略しているのか。


「コートとセーラー服には暑さ軽減付与しているけど、ちょっと足りないね……寒さの軽減と同じぐらいに今度調整しなくちゃ……」


「せっかくだし、帽子も作った方が良いかもっすね。遮熱の帽子とかオススメっす」


「あ~いいね~、お金溜まったら作ろ」


ディールがスポーツドリンクを飲み干すのを待って、ダンジョン攻略の説明を始めることにした。


「とりあえず、今日潜るダンジョンは新規ダンジョン。出来てまもないのを子どもたちから教えてもらったんで、まだ手つかずのダンジョンなんすよ」


地元ネットワークで伝わってきたので、まだ誰も未踏。手つかずは何かとやりやすくて、教えてもらえるのは助かる。情報が集まりやすいのは、ひとえに山童のこれまでの功績のお陰だ。


「オッケー、ようやく実力を見せられそうでほっとするよ……あ、そういえば拠点もありがとうね、丁寧に掃除されていたし、日用品全部揃っていて助かったよ」


まだお客の身分とも言えるので、それぐらいは丁寧にしておく。これは山童のおもてなしルールにおいて常識なのだ。


「あとさ、近場のスーパーとか食事できる場所とかのマップもありがと。お店の絵とか紹介文、上手だね! 見てたら、あちこち行きたくなって逆に困ったよ~」


「知らない場所は、調べる手間や外れの可能性考えるのが嫌っすからね。まあついでにまとめただけっす」


とはいえ、褒められれば嬉しいものだ。でーじ先輩の店にあるメニュー表にイラスト描いた時も褒められて嬉しかったのを思い出す。


はー、イラストでメシ食えるようになれればな……。山童を八代目に引き継いで引退するまでには、もっと練習して仕事を得られるようになりたいものだ。


ふと気が付けば、じっとディールに見られている。何か言いたげな表情である。


「なんすか……あ、鼻毛でも出ているっすか?」


「違うよ! 出てない出てない! あのさ、口調戻ってない?」


「対人においてはデフォルトこれっす。育ちのせいで、元々の口調が偉そうなんすよ。いらないもめ事を引き起こす可能性があるんで、こういう口調で通しているっす」


下っ端口調とか言われていたのを思い出す。そうかな、親しみのある後輩っぽい口調として考えたし、先輩たちにも「お前がそうしたいなら良いと思う……」と了承いただいたから問題ないはずなのだが。でも、俺はこいつの後輩じゃないから違和感があるのかな?


「ふぅん、たいそーなこだわりがあるんだね……」


「なんすか、物言いたそうな感じっすね」


この口調でもイマイチだとすると、もっと良い口調というのを考えるか調べなくてはならない。けっこー気に入っているんだが、仮とは言えクランメンバーからの直訴であれば、一回考慮するのがクラン総長たるもの。自分の過ちは意外と自分で気づけないしな。


「んー、まあそこまで重要じゃないから今は良いかな。とりあえず、暑いからささっとダンジョン潜っていきましょ」


「そっすね、何はともあれ、ダンジョン攻略していくのが最優先っす。話はあとでしっかり時間取るので、よろしくっす」


話を終えて移動し、やってきたのは街はずれにある新規ダンジョン。さて、七代目山童の初攻略戦だ。気合いを入れていこう。

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