マイルドヤンキーな先輩たちから由緒あるダンジョン攻略クランの総長を押し付けられた俺が七代目として頑張るようです~頼れる仲間たちと現代ダンジョン攻略クランでプロを目指す~
第5話:七代目山童総長は少女を信頼するとした
第5話:七代目山童総長は少女を信頼するとした
「とりあえず、私は東京の方でダンジョン攻略していたよ。元々の生まれは北海道なんだけど、まあ色々あってね」
食事を終えた俺たちは、とりあえず互いの自己紹介を改めてざっくりと行う。
込み入った事情はあえて聞かない。ダンジョン攻略関係者は、その本人のみならず、クランや血縁など含めて秘匿情報がある。
ざっくりとした情報で済ませた方が良いものも多いので、間合いを見切りながら話を進める必要があるのだ。
「なるほどっすね。それでダンジョン攻略中に転移してと。とりあえず所属していたクランとかには連絡取れそうっすかね」
「ああ、それなんだけどさ、取らなくていいや。私は自由になった喜びを堪能したいしね~」
……こういう感じで、事情持ちがいるのも普通。クランの形も色々あるので、踏み込まない。
山童のようにクラン内が助け合いをするところもあれば、奴隷のように使われるところもある。
特に血縁が絡むクランの場合、例えば分家は本家に逆らえないから、だいぶ好き勝手に扱われることもあるのだ。
他にも、所属クランの方針が嫌になったなど、まあ理由なんていくらでも。命も金銭もかかるこの仕事は、なかなか綺麗ごとばかりではない。
「了解。尊重するっす。手持ちの資金は多少なりあるっすか?」
「ん~、カードとかはあるけど、使うと居場所がバレるから現金でって感じ。一応、2万ぐらいはあるよ」
「心もとないっすね、じゃあこれ持っていくと良いっす」
さっき換金して得た報酬が入った封筒をディールに渡す。少し色がついたので、10万程度はある。
「え、いやいや……ここまでしてもらうわけには。だってさっきダンジョンで会ったばかりだし、すでにご飯奢ってもらってるし、お世話になってばかりだよ?」
「まあ、うちのクランは困っている奴は助ける方針なので問題ないっす。遠慮せずに受け取るといいっす」
封筒を返そうとする動きを手で押しとどめて、とりあえず理由を話す。ディールは「そうなの? いやでもこれはさすがに……」と悩んでいる。
基本的に己の利益確保を最善とするダンジョン攻略者にしては善良なことだ。
「クランの成り立ちからして、相互自助を中心に据えているので気にせずっす」
山童は貧困地区に生まれ育った子ども達が、住んでいる地域の暮らしを良くしたいという願いを持って生まれたクラン。
命をかけてダンジョンに潜り、やがて得るお金を地区に還元するように活動している。
初代総長はプロになり、今も山童に関わる貧困地区に稼ぎを寄付している。他の代の総長も、生きている人は何かしらで援助。少し理念は拡大し、自分たちが助けられるものや助けたいものは助けるのが今のところ方針として固まっている。
俺も拾われた恩があるし、なんなら今はクランを引き継いでいる(理由は正直ざっくりしか教えてくれないのでどうかと思うけど)ので、方針は守る心づもり。
でーじ先輩達もあれでいて、普段は子どもたちに食事を無料で振る舞う子ども食堂なんかを経営しているのだ。まあ、もちろんたまには自分たちの贅沢もするけど。
「同盟でもない関係性で相互自助するクランなんて、東京でもなかなか少ないよ……優しいクランなんだね、私なんてそもそも会ったばかりなのに」
「困っているのはわかるし、転移してくる瞬間も見ているっすから。嘘とか悪意もない人は、見捨てないもんっすよ。自分もクランにそうやってお世話になったから今があるので、お気になさらずっすね」
ディールはしばらく目をぱちぱちとさせてから笑顔になり、頭を下げた。そして封筒をコートの内側にしまう。
そうそう、それでいい。一度出したものはすっと受け取ってもらう方が嬉しいものだ。遠慮するのもわかるけど。
「本当にありがとね! これで当分は生活できるし、ダンジョン潜って稼ごうかな。魔石買取は非公式もあるでしょ?」
非公式とは、クランカードなどの身分証明をせずに魔石買取が可能なショップを意味する。ディールのような事情ありには助かる反面、足元を見られた安い買取金額や別途のトラブルが起きる可能性があるため、普通は利用されない。
「あるけど、あまりオススメしないっすね。今の沖縄というか、ここら辺での非公式はよそ者に関しては絶対買い叩くっす」
まだ公的な身分証明を得られない地元の子どもならそこまで減額されないが、よそ者であればすぐわかって足元を見られる。
特にディールはここら辺にいない顔立ちだし、見た目が良いのでそれ由来の面倒ごとに巻き込まれるだろう。
「しょーがないよ、自由を得る対価さ。ま、減額買取してくれるところさえあれば、あとは細々暮らせるように頑張る」
やはり色々と経験があるようで、そこも含んでの手段だった。だが、俺としてはこの善良な少女がわざわざそんな道を進む必要がないと感じている。そこまで親しい訳ではないが、助けたくなる部分が大いにあるのだ。
「ディール、開示できる情報だけで良いけど、どれくらいのダンジョンに潜れるっすかね? わかるっすよ、けっこーディールは強い奴ってことぐらい」
「お世話になった人には嘘つかないから、真実だけね。まあ私ほぼプロみたいなもんだよ。けっこーというか、かなり強いし潜れるよ。びっくりした?」
やっぱり、そうだよな。実際のところ、ディールの装備している白のローブコートを見るだけでもかなりのものだ。
練り込まれている魔術糸の質の高さ、付与されている加護はざっと見るだけでも相当数ある。おそらくだが、ディールは相当良いクラン、あるいはかなり名家の一族に連なるのだろう。それも結構重要なポジション。
剣を握るように見えないし、後衛、魔術師か僧侶に関するところか。この装備からすると、相当大事にされているな。
そして装備は使いこなせないと意味がない。このローブコートは、自動で防御もするだろうが、手動で発動させる必要がある魔術も付与されていると見える。使いこなせれば、鉄壁と化すだろう。ある程度の技量があれば。
ダンジョンで話しながら見ていた感じ、感じ取れる魔力量や魔力の安定感からなんとなくわかる。ディールは俺と同い年だが、腕前はかなり高い。お飾りではなく、戦力として数えられてこの装備をしているのだろう。
「いや納得っす。後だしなので信用してもらえないかもしれないっすが、なんとなくわかるんで」
俺の回答に、ディールはえくぼを作る。ダンジョンでも見た、びっくりするぐらいの満面の笑顔だった。こいつ表情筋が笑顔に特化しているのだろうか。
なんというか、うっかり間違うと人間関係のトラブルを引き起こしそうなぐらい素敵な笑顔である。
「信用するよ、だってイットーはかなり強いもんね。私もなんとなくわかるよ――あとさ、嘘をつくような人ではないと、もう信用しているんだ私」
まったくもって爽快な言葉と良い笑顔だった――よし、決めた。俺もお前を信用しよう。
「ディール、ちょうどうちのクランに空きがあるので、しばらく所属しろ。行動は自由で良い。魔石の換金は俺が代わりに行おう。不正なきよう、契約魔術を結ぶのも約束する。ピンハネはせず、お前にそのまま手数料引いた手取りで渡すぞ」
「――」
「なんだぽかんとして、どうした」
「いや口調……えっ、ていうか急だけど、それ本気ってことだよね? イットーには何の得もないじゃん」
「どうでもいい。損得じゃない、俺はお前を信用すると決めた。お前が俺を信用するなら、それで良い。十分だ。お前を助けたい、そんなもんだ理由なんて」
俺の言葉に、ディールは目をパチパチとさせる。
「もっと理由が必要なら、そうだな。最初にあった時にお前は俺に一目惚れしたと言ったな。俺もそうだ。これで問題ないか?」
「わお……そうだね、イットーは運命の人なんだった。じゃ、ここは甘えてクランに所属させてもらおう、かな」
顔を少し伏せながら、遠慮がちなトーン。だが、俺としては目的が果たせるので問題ない。あとはまあ、ディールが今後どうするかを考えながら手助けできれば。別にうちのクランにずっといなくても良い、
「そうしろ、手続きはするし、それが終わったらクランが管理している拠点の一つで生活すると良い」
貴重品管理などをしている拠点は難しいが、いくつかのダンジョン付近には攻略をするための拠点なら問題ない。
山童は長く続くクランであるため、こういった拠点はそこそこあるのだ。あとクランOBがたまーに後輩たちのためと、拠点を確保してくる。
プロも何人かいるし、別の仕事ついていても、代々の先輩たちはクランを大事に思ってくれているのだ。
「……ほんと、何から何までありがとう。イットー、私頑張るからダンジョンを一緒にガンガン攻略していこうね」
ぐっと両手を握りながら、銀の髪を揺らして笑顔を作るディール。実際の実力はわからないが、俺一人よりも攻略は進むし、とりあえずクラン総長としてメンバーがいる方が色々と良いだろう。
「助かる。ちょうどうちのクランも今代替わりでな、人間関係とかもそこまで気にしなくて良いぞ。今は俺しかいないし」
以前の所属クラン、推測だけど人間関係で逃げ出したっぽいディールにも安心だ。まあ、細かいことはわからないけども。
「これ新手のナンパとかじゃないよね? いやまあ、とりあえずお世話になります……よろしくね、イットー」
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