マイルドヤンキーな先輩たちから由緒あるダンジョン攻略クランの総長を押し付けられた俺が七代目として頑張るようです~頼れる仲間たちと現代ダンジョン攻略クランでプロを目指す~
第3話:七代目山童はソロで潜り、レアドロップと出会う
第3話:七代目山童はソロで潜り、レアドロップと出会う
「せっ」
眼前で振り下ろされるレッサーミノタウロスの一撃を半身ずらしでかわしつつ、がら空きの胴を刀で薙ぐ。抵抗なくするりと刃は抜けて、小柄なミノタウロスは光となった。新しい武器が手になじんできたという感覚、自分の意識と挙動が合ってきたのを確かめながら、刀を納める。
一人ため息をつきつつ、魔力で生成した水を飲みながら小休憩。ダンジョンへソロで潜るのはいつ以来だろうか。
なんだかんだ流されているなと思いつつ、探索を再開する。魔力反応によってほのかに光るダンジョンをゆるゆると歩きながら。正直、久しぶりのソロは寂しい。なんでこんなことになったんだっけとまた同じことをぼんやりと思い返す。
――遡ること、数日前。
「つーわけでイットー、これが山童総長の証な」
そう言われて、ポンと渡されたのは初代山童総長が稼ぎの大部分をつぎ込んで作成した刀――"礎和(そわ)"。代々受け継がれる際に、総長が手を入れる伝統がある武器だ。おそらく当初から考えられないほど希少な鉱石が追加されており、精霊か何かも憑いている気配がある。持つだけで能力の向上を感じるのは、それだけ礎和の武器格が高いということ。
試しに少しだけ刃を引き出すと、息を吞むほど美しい魔力で覆われている。感じる加護も相当数――これほどの逸品は、生きていていくつも見たことがない。ここまで来ると、武器そのものの存在感からして圧を感じるほど凄まじいぐらいだ。
「でーじ先輩が持っている時から思っていたんすけど、これ国宝級では…? そこらへんのローカルクランが持っていて良いものじゃないし、そもそも俺が持ち逃げするかもしれないっすよ。なんで渡しちゃうんす? もしかしてバカっすか?」
「持ち逃げする奴はそんなこと言わねーよ、お前はでーじバカだな」
「簡単に代替わりをする先輩にバカって言われたくねっす」
「はー? ぐちぐちうっせーやっさー、今後も色々手伝ってやるから今日からお前はもう七代目! さっさとクランメンバー見つけて連れてこい! でーじしなすぞ!」
「うわー、パワハラっすね~。わかりました……とりあえず、七代目(仮)として頑張ります……マジ不承不承っすけど」
という会話があった。納得しきれていないが、あったのだ。
その後に少し代替わりの手続きなどをして、ようやく今日ダンジョンに潜っている。階層の浅いところで武器を試しつつ、自分の動きを慣らすためだ。ある程度行けそうであれば、潜れるところまでは潜る。最近にできたこのダンジョンはそこまで深くないので、おそらくソロで踏破できそうな気もするし。
「切れすぎるし、軽すぎるし、便利すぎるし……良い刀だ、礎和。俺が持つには格が高すぎる気がするぐらいだな……」
ここ数日確認しているだけでも、自動修復・軽量化・魔力吸収・生命力吸収・頑強・汚染防止・身体能力向上など果てしなく加護が付けられているのを確認した。
魔力を流すことでさらに加護起動ができるようなのだが、正直この刀はやりすぎだと思う。強化していく伝統を続けてくれた先代たちに感謝しかない。まだ仮だけど、七代目を継ぐなら俺も何かしら強化を入れたいところだ。
しかし、まあ、とりあえず、今日のところは。
「よっ」
見かけたレッサーオークを抜き打ちで切り倒す。最下層のダンジョンボスとかから良いアイテムがドロップしないかなと願いながら、一人ぼっちのダンジョン探索を進めよう。
■
それからもなんにも苦労せず、サクサクと探索が進んでしまった。
正直、ダンジョンが出来て日が浅いからかまだまだ出てくる魔物が弱い。あるいは立地のせいか。
ダンジョンは人の欲に応じて生まれ、成長していく。ここら辺は正直貧困地区なので、欲と言っても知れている。ドロドロした金持ちが多いエリアだとおそらくこうは行かないだろう。
感覚からして、もうダンジョン最下層だ。特有の雰囲気や魔力の密度がある。これまで感じていなかった気配だ。ワクワクしてくる。ダンジョン攻略は魔力汚染のリスクに見合うリターンを得たい。強い魔物やボスを倒せば、それだけ暮らしが楽になる。自分の欲を満たすというのは、それはそれで生きる上で大事なことなのだ。
「ここまでケガもなく、楽だけど……儲けは薄いからな~」
今のところ魔石も小さいのしかないし、純度もそれなり。ぼちぼちのメシは食べられそうだが、貯金や活動に回すには物足りない。相手が弱いとはいえ、油断すればケガぐらいはする。うっかりすれば死ぬこともある。魔力浸透のリスクも懸念事項だ。
なので、もうちょっと稼ぎは欲しい。だけど、今のところはおそらく3万円ぐらいあるかないか。潜った時間は3時間。時給1万円は悪くないが、結局換金手数料や使った装備の調整などの経費で手元に1万円残れば良いかなという見込みだ。
「あ~、ダンジョンボスが良いもの落としてくれますように! レアドロップしてくれよ~」
ある程度歩いたら、最下層のボス前お約束の扉を発見した。蹴って開けたらそこは大広間。部屋の中央に立ち、こちらを見据える大きな鶏めいた魔物はすぐに臨戦態勢に入った。雰囲気からして、これがおそらく最下層のボスだろう。
「コカトリスという訳でもなさそう…亜種か? あ、でも魔眼持ちか」
相手からの視線に込められた術式に抵抗し霧散させる。そこまで位の高い呪いではないが、すぐにぶっ放してこられるのは面倒。連続使用はできなさそうなのが救いか。あとは近接して強さを測ってみるとしよう。
「よし、お前を倒したら今日は絶対チキン食べる」
それにしても、このダンジョンは発生の欲望元が食欲か。牛やら豚やら鶏やら、そういう魔物しか出てこないぞ。最近は何かと値上がりしているから、欲望としてよく発生するのだろうけども……なんとも言えない気持ちが湧いてくるな。
「ケアアアアアアッ!」
羽を広げながらの突撃から、接近するやいなやで放たれるくちばしによる連撃。早いが、動きは見えている。それでは俺には届かない。スピードは想定内、この感じからだと最初の魔眼に頼るタイプの魔物のようだ。
ひとまず、簡単な分析を瞬時に済ませ、相手の攻撃終わりにくちばしを刀で弾く。体勢が崩れたところへ、さくっと胴へ一太刀を浴びせる。手応えは絶叫と血しぶきで返ってくる。相手がたまらず身体をのけぞらせたところで、止めを刺すべく一歩踏み出す。
「悪いな、これで終わりだ」
先ほど斬った箇所へ同じ軌道で斬撃を入れると、鶏は真っ二つとなった。悲鳴が上がり、地面に崩れ落ちる音が響く。礎和を見ると、刃こぼれ一つなく、それどころか血汚れすらもない。やはり名刀である。
「よし、これでダンジョンは攻略完了っと」
あとはダンジョンコアを破壊してしまえば、このダンジョンは崩壊する。残すという選択肢を取り、ダンジョンの成長を待つのも手ではあるが、このダンジョンは街中にあるので残さないことにした。間違って子どもが入ると、間違いなく死ぬ。それは、山童の理念としてそぐわない。よって、このダンジョンはすぐに崩壊させる。
方針を決めたところで、二つに切り裂かれた鶏の魔物が強く光った。お、これはまさか、魔石以外も出てくるレアドロップか?
ダンジョン潜りで一番嬉しい瞬間だ。レアドロップは金になるし、役に立つものも多い。ボスからというのも嬉しいポイントだ。俺が扱えるものだと良いけど……。欲を言えば、宝石とかが良いな。加工素材にも使えるし、金になるのは間違いないし。
光は強くなり、一瞬視界の全てを奪う。
――唐突に訪れたのは、強い魔力反応――そして、光が収まると、そこには女の子が膝を着くように着地していた。着地の勢いで、ふぁさりと銀の髪と白いコートが揺れる。表情は見えない。
お、これがレアドロップか。ラッキーだったな……。女の子はこれまでドロップしたことがなかったけど、高く売れるかな?
「は? いやいや、ちょっと待て、なんだそれ。ありえないだろ、それ」
その女の子の後ろでガランと鳴る金属音を聞きつつ、俺は呆然とするのだった。
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