ゲームのラスボスである呪術師になるはずの勇者の幼馴染に転生してしまった。〜「よし、無双までは行かなくても、人生を謳歌したい!」と願えども、無双してしまうのは世の常である〜
Story.42―――仮初の夏、真実の秋。
Story.42―――仮初の夏、真実の秋。
「さ、案内してあげるわ。お客さん、着いてきてらっしゃい!」
運良く宿を見つけた私達は、ウリスさんに連れられて宿の中に入っていく。
―――〈Hotel Another London〉。そう書かれた看板を見て、心のなかで
続々とみんなが〈Hotel Another London〉に入っていくので、私も門を
すると、〈Hotel Another London〉のすぐ真正面から、バリバリと空間が張り裂けるような轟音と、異様な魔力反応を検知した。
振り返ってみると、そこには文字通り空間の亀裂が走っている。その亀裂の中に、何人かの人影が見えた。シルエットからして男性だろう。私は、臨戦状態へと精神を切り替えた。ここは異郷の地。いつ、何が起きてもおかしくないのである。
そうして、私が亀裂の中にいる人影叫んだ。
「―――出たな魔族?! ……って」
「……おい。先生に向かって魔族とか。ふざけてんのか」
「―――うえぇ……これ、絶対にやりたくない」
「……
「ええ。そうでしょう、そうでしょうともね……」
―――出てきたのは、なぜか男子陣だった。なんで空間の亀裂から出てきたんだ。
すると、私の先程の魔族というワードに引かれたのか、女子陣も〈Hotel Another London〉から出てきた。
「クロム! 魔族はどこだ?!」
「クロム、神敵はどこ?」
「は? 魔族ですって? 何勝手してんのよ! ……って、なんだ、男子陣じゃない」
「なんだとはなんだ」
……非常にうるさい。というか、ここは町中―――しかも〈文明異界領ロンドン〉とかいう大都市の中心部である。そんなところで騒ぎを起こすなんて、自殺行為にもほどがある。
私は、彼らに非難するように冷たい視線を送った。……もしかしたら、これ、私が最初に魔族だ、なんて言ったからかもしれないが。いや、多分そうだなこれ。
そんな私達の様子を見ていたウリスさんが、〈Hotel Another London〉の戸から出てきた。
「あれ? クロムちゃん。この人達って、もしかして知り合い?」
「はい……知り合いも何も、今回の探索の仲間です」
多分、宿泊費を払うのもあの人ですよ、と私はニコラ先生を指差して言った。
「え、そうなの! もう歓迎しちゃう! ほらほら、そこの男子たち、入ってきなさいな!」
『え、あ、はい』
そう言って、私達は再び〈Hotel Another London〉へ入っていった。
なにか疑問に思ったのだろうか。ニコラ先生がこっそりと耳打ちして、男子陣の代表として聞いた。
「なあ、クロム。ここって何なんだ?」
「えーっとですね……ここは宿です。名前は〈Hotel Another London〉。ここのオーナーはあちらの女性でウリス・ノエル・オニールさん。異世界人です」
「……異世界人、か。なら、問題なさそうだ」
私は、その言葉に疑問を持ってしまう。……なぜ、異世界人なら大丈夫なのか?
「異世界人なら大丈夫って、どういうことですか?」
「ん、ああ……そうだな。厳密には、まあ大丈夫じゃないやつもいるっちゃいるんだが……若い異世界人は、大層この〝世界〟が気に入っているようだ。理由はわからんが、なんでも帝都の知り合い曰く『あっちの〝世界〟ではラノベとか流行ってたからね』だそうだ。らのべ、とやらが何かはわからないが、こちらの〝世界〟に似たような世界が描かれている小説なんだとか」
「ああ、そういう……」
だから、ニコラ先生は若い異世界人は大丈夫という風に言ったのか。確かに、今やラノベ―――特に異世界転生系や転移系などは、海外でも知名度が高く、日本の一文化としての地位を確かなものとしている。渋谷かどっかの街で外国人に「日本の文化とはなんですか?」とか、そのように聞けば百人中三十人ぐらいは「サブカルチャー」や「オタク文化」と言うだろう。
「……まあ、とりあえずは宿を確保したということか。それで、マダム・ウリス。ワルキア硬貨は使えるかな? ブリテン島はワルキア帝国の一部分だから、ワルキア硬貨が使えるはず。そうでなければ、俺、手持ちねえよ」
「そうですねぇ……ウチ、ワルキア硬貨で取引していないんですよ」
ニコラ先生の望みはすぐさま一刀両断された。
―――ん? この展開、マズくないか? ワルキア硬貨が使えない、ということは帝国が支給した探索費用を使えない、ということだ。と、なると今あるワルキア硬貨はただの金属となってしまう。……詰んだのか?
「ああ、でも。両替所なら知ってますよ。あそこなら、ワルキア硬貨からポンドに替えたりできるので。けど、一つ注意なんですけれど、一応この世界にも為替っていうのがあって、それでワルキア硬貨とポンドの価値の重さが変わってきます。今日は……―――はっ!」
何か思い出したのか、ウリスさんは妙案を思いついたときのような、悪い顔をしていた。そしてそのまま営業スマイルをかます。
「今日は、ワルキア硬貨を扱いましょう! そうしましょう!」
「……どうしたんです? 急に」
「いえいえ、私はお客様に満足していただくために……」
「うそ、やね」
シュトロハイムがジト目でウリスさんを見つめる。
その鋭い眼光は、瞬く間にウリスさんの営業スマイルを剥がして―――焦り顔へと持ち込んでいった。無論、冷や汗ダラダラなのは言うまでもない。
「分かっとるよ、
「ハイ、ソウデス」
「いや、責めとるわけやない。同じ商人として、それは納得できるからな。
おお……シュトロハイムが、聖人ムーブしてる。いや、聖人か。聖人だったわ、こいつ。
「それじゃあ、お部屋にご案内しますね、お客様」
そう言って、ウリスさんは、何事もなかったかのようにケロッとした表情で、私達を部屋まで案内したのだった。……さては、説教が効いてないな、ウリスさん。
―――そうして、夕食も摂り終わり、シャワーにも入った。……当たり前だが、生前は浴槽を使っていたので、あのユニットバスとか言うやつ。結構使いづらかった。
シャワーにも入って、ベッドに潜った。別に、その時点ではなんともなかったのだ。
そう。その時点では、だ。
―――今、私は、あるアパートの一室を訪ねようとしていた。
「……どこだ、ここ」
しかし、私の直感がここを開けてはいけない、と悟る。
それに反し、体は言うことを聞かない。ドアノブを回し―――その扉を開けた。
中は、なんてことない空間だった。なんてことない、なんの問題もない、ただの、私の家。ずっと住み続けていたから分かる。手前の冷蔵庫には食材が。その奥にあるリビングにはテレビがあったはずだ。
そして―――私には彼女がいる。そうだった。それで、仕事を終えて帰ってきたんじゃなかったのか?
彼女は本当に可愛らしい。しかし生まれつき体が弱いため、働きにはでられない。昨今の世の中は多様性、という言葉がそこらで蔓延していたため、私と彼女は同棲を始めた。
「ただいま」
「おかえり、クロム!」
そう言って抱きついてきたのが、彼女―――ハシヒメ・イチジョウだ。出会いは数年前。ロンドンに旅行に来ていたとき。体が弱く、ロンドンの霧に上手く馴染めなかった彼女を医療所まで運んでいったのがきっかけだ。
そこから、私達はお付き合いを初めた。
もう何年になるかもわからない。私は、結婚すら考えているが……ハシヒメはどうだろうか。私のことを、本気で求めているだろうか?
そうして食事を済ませ、風呂に入り、ベッドで眠ろうとした瞬間であった。
―――足元で、もぞもぞと動く物体を感じた。
怪しく思って視ると、そこにいたのは―――ハシヒメだった。
「さあ、体を預けて―――」
ハシヒメが言ってきたので、私は従った。なぜかと言うと、そうしたほうが良いと思ったからだ。彼女が言うんだから、間違いない。
―――本当に良いのか? クロム・アカシック。
―――その女はダメだ。この
「……誰だ? ―――って、アレ?」
そこで私の意識は浮上していった。
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