ゲームのラスボスである呪術師になるはずの勇者の幼馴染に転生してしまった。〜「よし、無双までは行かなくても、人生を謳歌したい!」と願えども、無双してしまうのは世の常である〜
Story.40―――〈文明異界領ロンドン〉
Story.40―――〈文明異界領ロンドン〉
―――今、ベディヴィエールと名乗ったのか? この騎士は。
「ベディヴィエール……―――って、その名は生き残りの『円卓の騎士』の一人の名じゃねえか! 噂には聞いていたが、本当に生存してたんだな、円卓って」
「ええ。まだいますよ。〈キャメロット王城〉にも、二人ほど残っていたはずです。まあ……皆さんの思う騎士とは違うかもしれませんが……」
まあそれよりも、とベディヴィエールは話を切った。まさかとは思うが……本当に、あのメドラウトという老人は未来を予知していたということか?
「皆さんはもしかして遭難された、ということでしょうか? なら、私が近くにある街に案内しましょう。ブリテンの約半分を治める、人類の街です。諸事情―――というか、私は円卓なので魔術障壁に阻まれて入れないのですが……まあ、道までは覚えてますので。これも騎士の務めです。ついてきてください」
そう言って、ベディヴィエールは歩き出した。この鬱蒼とした森に生える草をかき分け、恐らく整備された道があるであろう方向に行く。
私達は、ベディヴィエールに対して警戒しながら後をついて行った。
森を出た瞬間、そこには青空が広がっていた。遭難した状況から脱出したからだろうか、余計にきれいに見える。
目の前にはきれいに整備された道が通っている。……というか、整備されたというよりも、これは―――あれじゃね? コンクリートじゃね?
私が見ると、そこには黒ぐろとしたコンクリートが敷かれていた。コンクリートの真ん中には白線が引かれており、先を見てみると大きな鉄橋がかかっており、石の塔も見える。これってもしかして―――
「タワー・ブリッジ?」
「おや? もしかしてご存知でしたか? そうです。あれがタワー・ブリッジ。正式名称は高度電子制御型魔力障壁生成装置アナザー・タワー・ブリッジといいます。なんでも異世界人が異世界の技術を持ち込んで作った魔力を電気で補い続ける完璧な〝機械〟型の魔道具なのだとか。……そういえば、今でも帝国って魔導兵器とか作っているんですか?」
「―――魔導兵器…………ああ。今でもまだ製造しているところは製造している。魔弾とか魔銃とか人口魔剣とか……まあ。けど、そんなこと聞いて何になるんだ?」
「いえ別に何にもなりませんけど。けど、昔のことを思い出したんです。〝魔祖十三傑〟の第五座については知っていますか?」
歩きながら話していると、ベディヴィエールの口から出てきた言葉に戦慄した。―――〝魔祖十三傑〟。その言葉に、心当たりがある私とニーナとフランソワ、そして貴族三人衆(ノア、シュトロハイム、ミッシェル)は顔を強張らせた。
そしてベディヴィエールは話を続けた。
「〝魔祖十三傑〟第五座―――〝
「『南光坊天海』討伐が星暦164年。そして龍王国ブリテンの衰退が開始したのが星暦166年。一説では『南光坊天海』討伐が衰退の原因となったというが……」
「ええ。『南光坊天海』はあらゆる傷を瞬時に回復する不死者。噂だけに聞く第四座よりかは不死性は低いですが……それでも並大抵の攻撃で死ぬような奴ではなかった。だから、ブリテンは国の総力を挙げて『南光坊天海』の討伐に向かったんです。その方法は―――特攻。あらゆる命を賭して、一撃必殺を何度も繰り返していく非道な戦法。しかし条件がありました。それは……特攻には、同意がいること。忠誠心の高い軍人だけが志願しました。そして私達は帝国で製造された魔導兵器を抱えて―――『南光坊天海』に特攻しました。
『円卓の騎士』のほとんどが特攻に参加して、そのほとんどが死にました。しかし、私は他の円卓と比べて体が強い方だったので、魔導爆弾を握っていた左腕を無くすだけに留まりましたがね。けど、ほかはダメだった。悲惨だった。けれども、その悲惨な決死の特攻で、あの『南光坊天海』は討伐されたのです」
歩きながら話す内容じゃないと思いながら、コンクリートを歩く。すると突然ベディヴィエールが弾き飛ばされた。
「ぐおふぉ!」
「べ、ベディヴィエール!」
「……すみません。もう弾かれましたか。では、私はここでお別れです。皆さんの旅の無事を祈ります。行ってらっしゃい。そして〈ロンドン〉―――〈異界文明領ロンドン〉を楽しんでください」
〈ロンドン〉―――〈異界文明領ロンドン〉。イギリスの首都が、なんでこんなところに……というか、周りには草木が生い茂るばかりで周りには何もない。
ベディヴィエールが去っていった後、私達は一歩進んだ。
「な―――」
「なんだ、これ……」
「なに、これ……」
私達が一歩進んだ時、空間が歪んだ。ぐにゃぐにゃと、捻れるように空間が歪んだと思ったら―――目の前には、レンガ造りの建物があった。そして、今まできれいな青色だった空は、文明の象徴である灰色の煙で汚されている。
道路にはレトロな自動車が忙しなく走っており、遠くからガシャンガシャンと鉄を加工するような音が聞こえる。
もしかして、ここは―――
「ここが〈文明異界領ロンドン〉? ずいぶんと趣味の悪いところね。まるで―――自然が壊されていった産業革命のときと同じじゃない」
不意に、ハシヒメが言った。そうか。ハシヒメ・イチジョウ―――転移者だから、あっちの世界の産業革命とか、そこらへんの知識があるのか。
しかし、言われてみればそうだ。ここは、現代のロンドンではない。現代のロンドンは、霧の都ではあるが、その霧は自然由来のものだ。このような工業由来ではない。しかもその霧も冬にしか発生しない。今の季節は夏だ。夏に霧が出るのは、おかしい。
「……ああ、そうだな。この煙は異常だ。帝国の工業地帯よりも遥かに排煙量が多い。―――異世界では、こんなに工業が進んでいるのか?」
「ええ、そうね。けれど、今はもっと進んでいるわ。自然も大切にしているし、こんなに煙は出さない。光化学スモッグだなんて過去のものよ」
そう言いつつも、ハシヒメの目は変わらない。ただ、この世を、世界を憎んだような視線は、変わる様子を見せない。
しかし、その視線は何も〈文明異界領ロンドン〉だけに向けられたものではない。
「おお、これはすごいなぁ。
「こんなのがあるなんて……〈ロンドン〉って本当に進んでいるのね。煙はちょっと嫌な感じがするけど……それでも、憧れるわ」
「―――なんか、あの時を思い出すな。僕にとっても、懐かしい感じがする」
「……そうですね。少し怖いですけど……やっぱり、ロマンがありますよね」
この〈異界文明領ロンドン〉に向けて憧れを抱くものにも、その視線は向けられていた。目の圧、というものがすごい。その視線は、まるで自然の代行者のようで―――。だがしかし、私に視線を向けた途端、その圧は消えたように思う。けれど、彼女の視線は〈異界文明領ロンドン〉に向けられると、すぐに圧を取り戻した。
と、ここでニコラ先生が口を開く。
「さて、お前ら。〈異界文明領ロンドン〉にはやってきたが……何しろ、こんなところ俺の想定外なので何の計画も立てていない。幸い、帝都一のスラム―――〈ウォール街貧民区〉に似ているが、そこの住人よりかはマシなようだから、宿もすぐ見つかるはずだ。全員、総出で〈ロンドン〉で寝泊まりできる宿を探せ! 条件は団体宿泊可! では、捜索開始!」
そうして、宿探し―――もとい自由行動が始まったのであった。
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