Story.19―――魔術クラス殺人事件/真

「―――さて、あなたが犯人だったなんて」


 彼は答えない。


「あなたはあまり喋らないけど、ちゃんとした人だと思っていたのに」


 彼は答えない。私の目をハッキリと、鋭い眼光で貫かんとしたまま。


「もはや逃げる意味など、あなたにはない。私は、あなたの魔力情報を知っているから、どこへ逃げようとも絶対に追い詰める」


 そうして彼はようやく口を開く。鋭い犬歯をのぞかせながら、ゆっくりと。


「よく俺の正体に気づけたものだ。そこだけは褒めてやろう。しかし―――貴様らは、俺を捕まえることなど到底できない。なぜか? それは……貴様らと俺とでは、実力に雲泥の差があるからだ」

「―――さあ、始めようか、████████!」


 ―――時は遡り、数時間前。教室にて。

 私は調べ忘れていた魔力情報の照合を行おうと、ニーナとフランソワを呼んで照合しようとしていた。


「ねえ、クロム」

「何? ニーナ」

「……本当に、このクラスに犯人がいるの?」


 ニーナは不安げな表情をして、私に尋ねた。

 無論、魔力情報が反応しているため、このクラスの誰かが犯人である可能性が高いだろう。だがしかし、魔力情報があっているからといって、犯人だとは限らない。もしかしたら、以前訪れただけかもしれない、という可能性も捨てきれないからだ。

 だから、私はニーナに言った。


「わからない。けど、可能性は高い」

「……そう、そうなのね。この中に、青春の―――否、神と精霊の裏切り者が―――」

「案ずることはないさ、ニーナ。僕たちは、反逆者を殺すのが仕事だ。だから今は、そいつを殺すことだけ考えよう」


 そうして、私は視界に魔力情報を投影する。

 ポツポツと浮かび上がる、紫色のシミ。それを注視して―――その痕跡をたどる。

 ずっと続くその道は、ある一つの席を指していた。


「まさか―――」

「嘘でしょ―――」

「……マジか―――」


 まさか犯人が、


「グノーシス、あなただったなんて……―――」


 ―――そうして、私達はグノーシスを追った。時刻は夜の一時。真夜中も良いところだが、これまでの殺人からこの時間帯が一番行動を起こしやすいという事を突き止めていた。

 何かが起こる予感を胸に抱きながら学校内を捜索していると―――いた。彼は、いつもの服装で、いたって変わった様子もなく、しかし異様な時間帯に学校に並立されている教会に入っていった。

 その中を覗いてみると、中にはサターン神父がいた。


「危ない!」

「クロム?!」


 その時には、私は気づけば走り出していた。

 グノーシスが、神父へとゆっくりと近づく。その差は十メートル、五メートル、一メートル……と徐々に近づいていき、最終的にサターン神父との距離は大体十センチぐらいになっていた。

 そこから、何かを取り出そうとするグノーシスを取り押さえるために、私は魔力回路から魔力を流す。


「間に合え―――『発展魔術・噴き出す熱、その加速アクセル・ターボ』!」

「な、なに?!」


 間一髪のところで、私はグノーシスをサターン神父から離すことに成功した。

 と、ここでサターン神父が私達の存在に気づく。


「おや、こんな時間に何をしにきたのかね、君たち」

「それどころじゃないです、神父。今、こいつはあなたを―――殺そうとしていました」

「ほう。まあ、だがしかし彼に私を殺す気はないと思うがね」


 サターン神父は能天気なことを言い、全く警戒しようとしない。

 そしてグノーシスが、私に飛ばされた反動から起き上がる。教会の椅子の角にぶつけたのか、頭からは血を流している。

 その光景を見て、私は言う。

 ―――はじめから。


「―――さて、あなたが犯人だったなんて」


 グノーシスは答えない。


「あなたはあまり喋らないけど、ちゃんとした人だと思っていたのに」


 グノーシスは答えない。私の目をハッキリと、鋭い眼光で貫かんとしたまま。


「もはや逃げる意味など、あなたにはない。私は、あなたの魔力情報を知っているから、どこへ逃げようとも絶対に追い詰める」


 そうしてグノーシスはようやく口を開く。鋭い犬歯をのぞかせながら、ゆっくりと。


「よく俺の正体に気づけたものだ。そこだけは褒めてやろう。しかし―――貴様らは、俺を捕まえることなど到底できない。なぜか? それは……貴様らと俺とでは、実力に雲泥の差があるからだ」

「―――さあ、始めようか、グノーシス!」


 すると、ニーナとフランソワがこちらに駆け寄ってくる。


「大丈夫か、君!」

「怪我はない? クロム」


 その時だった。私は、見逃さなかった。グノーシスが大きな魔力を練るのを。私は直感で気づいた。―――グノーシスは、なにか大きな一撃を放ってくる、と。

 二人に振り返り、叫ぶ。


「来ちゃだめだ、ふたりとも!」

「残念、もう遅い! 呪文詠唱―――破棄、そして実行ノン・コール・スルー―――『邪道魔術・解、全てを焚く火炎ツァーリ・ボンバ』!」


 そこに現れるは、全てを焼く業火。私の元いた世界において、人類史上最も高い威力を誇った核兵器の名を冠するその魔術は、辺り一帯を消失させるほどのエネルギー量を持つ。

 それに対抗するように、無意識下で私は魔術を使用していた。


「ふふふ、ふっはははははは! 粋がっていたのも束の間、結果は明白だったが、まさかここまでやらないとは! 呪術師とやらも堕ちたものだ……ん?」

「はー、はー……」

「き、貴様! なぜ生きている! なぜ、俺の『邪道魔術・解、全てを焚く火炎ツァーリ・ボンバ』を食らってもなお、その身を保っている―――ッ! ……そもそも、この教会がなぜ焼失していない?!」

「―――タネは簡単。魔術だよ。―――『分類別一級魔術:守護魔術・角形の守護星スター・ガーディアン―――十三梯タイムズサーティーン』」


 床を見れば、多角星が何重にも重なったような図形が、淡く怪しい光を放ちながら描かれている。

 それは、私達を守る結界。その星は、最大で数えれば十三ある。そう―――十三の結界を、私を中心として張っているのである。


「クククッ……まさか、まさか人類がこの俺の攻撃を耐えるとは―――なんとも、実に興味深い! そして、面白い! 良いだろう、名乗りを上げようじゃないか。

 ―――俺の名はグノーシス。グノーシス・ヴァン・ヤルダバオト。……人類を否定する魔族を統合する、十三柱の魔族―――〝魔祖十三傑〟の第一座たる魔王の後継者。即ち、〝貴公子〟だ」

「〝魔祖―――十三傑〟?」


 どっかの本で読んだことがある。人類と、その歴史と存在を否定するべく生まれた人類と同等の種族―――魔族。それを率いる十三の魔族―――それが、人間社会では『獣を冠する愚者たちサーティーン・フール』と呼ばれ、魔族の間では―――魔族の祖となった英雄、英傑。その敬意を込めて―――〝魔祖十三傑〟と呼ばれる、と。


「ちょっとしたスパイとしてここに潜入し、数人を殺害して実験用の魔力サンプルを採ってこいという命令だったが……貴様らのせいで台無しだ。貴様らさえ気づかなければ、あとはこれを届けるだけで済んだのに。そうすれば―――これ以上、犠牲者が出ることはなかったはずなのだがな」

「―――ッ! グノーシス!」


 ニーナが走り出す。体表にまで浮かび上がる魔力回路は、膨大な魔力が流れていることを意味している。

 その予感の通り、膨大な魔力が放たれる。


「接続詠唱―――暗殺解禁セット因数人体分解起動ターン・オン―――『系統別魔術:紛暗魔術・斬り刻む、其は聖義エンジェル・リッパー』!!! 滅びろ、悪め!」

「……そうか、その程度か」


 そう言って、グノーシスはニーナの攻撃を軽くいなす。

 そして拳をニーナの腹にめり込ませ―――吹き飛ばす。


「がッ―――!」

「ニーナ! くそっ、この外道が――――――! 来い、〝誑かす虚像を覗く者フェイク・ピーカー〟!」


 フランソワは、自らの礼装―――〝誑かす虚像を覗く者フェイク・ピーカー〟を呼び出そうとする。しかし、グノーシスは恐ろしい速さで接近し―――魔力をまとった手のひらを、フランソワに密着させ―――吹き飛ばす。


「ふん、口程にもない」


 そして、グノーシスは私に近づく。


「終わりだ」


 そして、グノーシスは私に手刀を向ける。

 彼は私の頭蓋骨めがけて手刀を振りおろす―――!

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