ゲームのラスボスである呪術師になるはずの勇者の幼馴染に転生してしまった。〜「よし、無双までは行かなくても、人生を謳歌したい!」と願えども、無双してしまうのは世の常である〜
Story.17―――魔術クラス殺人事件/破
Story.17―――魔術クラス殺人事件/破
「―――そいつに会っても、敵討ちをしようだなんて思うな。絶対に、絶対に逃げろ。そして、その情報を我々教職員に伝えるんだ。良いな?」
そう言われてから数日、私はニーナとフランソワと学校の食堂に来ていた。この学校には学食があり、それも帝都で腕を磨いてきた凄腕のシェフが作っているとか。なんでも、この村の出身らしく、村に恩返しがしたいと帰ってきたのだそう。
私は、なぜかこの世界にあるハンバーガーセットを食べ終わり、今はストローでズズズと残っているドリンクを吸い取っている。……おそらくだが、他の異世界人がこのハンバーガーセットや他の洋食、ファストフードを伝えたのだろう。私としては嬉しいことだが、この世界の健康を乱してほしくないというのも事実である。
「―――で、クロム。私達を集めた理由は何? できれば早めに聞いておきたいのだけれど」
「ん、そうだね。僕も早めに把握しておきたいところだ。こちらは教団の活動でも忙しいのでね。……その教団の主たるニーナの前でこんな事を言うのも何だがね」
そうフランソワが言うと、ニーナが素早い動きで腕をフランソワの後ろに移動させ―――手刀を食らわせる。恐ろしく早い手刀、私でなきゃ見逃しちゃうね。
その手刀を食らったフランソワは、ゴフッと一瞬悶絶した後、安らかに頭を机にゴンッとぶつけた。おそらく、気絶したのだろう。……と思ったが、一瞬で戻ってきた。
「いやはや、とても痛かったが……それでもまだまだだな。僕を本気で殺すにはあと数年はかかるかな?」
「舐めないで、フランソワ。今のは殺す気じゃなかったから。本当なら、今のあなた、首から上消し飛んでるわよ?」
「ほう? やる気かな、ニーナ・サッバーフ」
「望むところよ、フランソワ・カリオストロ」
「ストップストップ! ストーーーーーーーーーーーップ!」
あわや大惨事になるところを、私が急いで止める。この二人が喧嘩を始めると、本当の殺し合いになりかねないのである。
……鮮血を見る前に、止められてよかったと、心の底から安堵する。
「おっと、そうだそうだ。まずは話を聞かねば。これはお預けだ、ニーナ・サッバーフ」
「ええ、そうね。まずはクロムの話を聞かねきゃね」
「あのさぁ……私は今二人に頼もうとしていたのに……。頼む前から仲間割れしてどうすんのさ」
こほん、と咳払いをして、私は本題に入る。
「実は、君たちに頼みたいことがあってね。それが―――今回の事件の犯人探し」
「「犯人探し?」」
「うん。私の見立ててでは、多分、教職員、または生徒の中の誰かが犯人だ。うちには制服なんてものはないし、しかも殺されているのは全てが『
そして、これらの上位の力を持つ人物を知るのは学校の中の人物だけに限られる。教会がもしかしたら知っているかもしれないけれども、それはおそらく
だから、私は学校の中の人物が犯人だと思った」
二人は、驚いたような顔をし、二人で顔を見合うと、突然に笑い出した。
「む、何がおかしいのさ」
「ふふふ、いや、だって―――私達に頼むのが暗殺でもなくて犯人探しなんだもの。そりゃ、誰だって笑ってしまうじゃない!」
「全く、そのとおりだ! あっははは! 僕たちは暗殺教団。神―――精霊の理を破るものを殺すもの。そんな〝殺す〟専門の僕たちに、まさかの調査! 別にできなくはないけれども、多分遅くなるよ? 僕たちもそんなに暇じゃないし」
……考えてみればそうだ。この二人は、公にはしていないが暗殺教団という一流の
〝殺すもの〟と〝それを裁くために見つけるもの〟―――決して相容れないどころか、もはや〝『殺すもの』を殺すもの〟と言い換えられなくもないのか。探偵と暗殺者の関係というものは。
とは言え、この二人に頼る以外に、今回の事件を解決させる方法はない。私には、聞く以外に捜索するすべがない。
「それでも良い! だから、頼むよ……。これ以外に、この事件を解決する以外に、クレメンスを弔うすべは、私にはないんだ……」
二人は、私の気迫に驚いたのか、黙りこくって―――
―――そして、口を開いた。
「……良いでしょう。その依頼、承りました。依頼主様」
「はい、我々暗殺教団―――」
「「その依頼、必ずや達成してみせましょう!」」
「暗殺教団教主・ニーナ・サッバーフと」
「暗殺教団諜報部長・フランソワ・カリオストロ、そして―――」
「我が祖父、暗殺教団教祖・ハサン・サッバーフの名にかけて!」
二人の決意。それは、暗殺教団という大きな一組織の看板を背負った大仕事。それを最後までやり遂げるという決意である。
しかし、ここまで勘ぐるのは無粋だろうか。
「ちょっと、声大きくない?」
「良いの良いの大丈夫。なにせ、私がさっき『守護魔術・
なるほど。だから少しばかり魔力が流れる気配を感じたのか。
そう言うと、ニーナはパチンと指を鳴らすと、結界を開く(結界は、閉じる・開けるの表現を使う)。
「さて、学食も食べ終わったし、そろそろ教室に戻ろうかな―――」
「―――あれ? 姉さん?」
ふと、聞き覚えのある声が聞こえた。少し私に似てハスキーボイスが混ざっているような、しかしハッキリとしているような、そんな不思議な声。そう、それは数ヶ月会っていない我が妹。
「クロミア!」
「やっぱり! やっぱり姉さんだった! わーい、姉さ〜んっ!」
うーん、尊い。こんなに元気にはしゃぐクロミアを何ヶ月ぶりに見ただろうか。クロミアが寮生活に行って、カナリアも訓練合宿でいなくなって―――という風に孤独を強いられていた私に差す、一筋の光。孤独からすくい上げる、天のさじ。
ああ、精霊よ、感謝します〜!
「どう? 寮生活。さみしくない?」
「ううん、さみしくはない、けど……」
「けど?」
クロミアは、顔を赤らめて言った。
「……姉さんたちに会えないのは、辛かったかな」
……。
「―――姉さん?」
「―――うおおおおおお! 我が妹よォォォ!」
私は全力でクロミアに抱きついた。マジで尊い。一回お持ち帰りしたい。んで小一時間撫で回したい。
「分かった、わかったからちょっと離れて! 近い!」
「あ、ごめん」
つい夢中になりすぎてしまったようだ。いやはや、我が妹のなんと可愛いことか。これは抑えきれなくても仕様がない。
「ときに姉さん、何の話をしていたの?」
「ん、ああ、それはね―――」
私は、クロミアに事の顛末を話した。すると、それを聞いたクロミアは少しずつ泣き顔になっていって、最終的には涙目のまま、私を見つめてきた。
「そんな事があったなんて……。私にできることがあるなら、何でも言ってよ。姉さん」
「そう、ありがとう。それじゃあ、一つ頼もうかな」
「何を?」
「学術系のクラスに色々聞き込みして、この一連の事件についての情報を集めて欲しい。できる?」
そう言うと、クロミアはちょっと笑って。
「うん! 私も、この事件について調査してみるよ。だから姉さん、待っててね! なにかあったらカナリア姉さんに相談するから」
「あ、その件なんだけど……」
「ん? 何?」
「―――今、カナリアちゃんいないんだよね。なんでも武術系のクラスで訓練合宿に行っているとかなんとか」
「そうなんだー残念。んじゃあ、この事件は私だけで聞き込みしてみるよ」
「うん、お願いね」
そうして、私とクロミアは別れたのであった。
―――廊下にて。私達は、教室へと戻っていた。
薄暗い通路、それはまるで墓地に迷い込んだかのような気分にさせる。最悪の気分だ。
……そして、そこから感じる空気は、これからの事を暗示していたのかもしれない。
今日もまた一人、遺体となって発見された生徒がいた。
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