Story.12―――魔力の形
―――と、ニコラ先生に「魔術礼装に着替えろ」と言われたから着替えたわけだが……魔術礼装って、本当にこの師匠からもらったローブで良いのか? もっと、ほら、なんかアゾット剣……とかそんな感じのモノを想像していたのだが。
しかし、見てみると意外とこういう衣服だけのパターンが多かった。まあ、中には例外もいるようで―――。
「ねえ、なんかすごい格好しているやつがいるんだけど。誰?」
そう問うと、ニーナが苦笑いを浮かべて、言った。
「ああ、アレはね……」
「ふふふ、ふーっはっはっっは! 諸君、ひれ伏せ、崇め、讃えよ! この僕、いや、
「……なるほど。十分、いや十二分に理解したね。あいつは―――」
それに同調するかのように、ニーナが私と言葉を重ねる。それはある一人の男の名。先程まで一緒にいた、感じの良い男子生徒。
「「フランソワ・カリオストロ」」
そして、ニーナは苦笑いをさらに強め、肩を
「あいつ、昔から貧乏な家庭で育ったから、魔術礼装をもらえたことがとても嬉しかったんでしょう。それが原因と言うか何と言うか……気づいたら、こんな崇拝を求める哀れな邪神のような異物が生まれてしまったのよ。それも、あいつの魔術礼装―――〝
「魔術礼装……」
今更だが、魔術礼装について簡単に解説しよう。
魔術礼装とは、魔術師が魔術師たらんとするための道具や装備のことである。例えば先程挙げた礼装であるアゾット剣。
これは、魔力を流して同時に錬金術を扱う魔術の一つ―――魔術的錬金術の最高位の儀式を行うのに必要不可欠な礼装で、このアゾット剣を依り代として悪魔を潜ませることで、魔術武装としても使用可能な万能礼装である。
「んで、あの〝
「ん、ああ、あれはその名の通りに、嘘や虚実の判別ができるの。けど一応制限はあって、それが『絶対に怪しいと疑える決定的な証拠がなければ嘘を見れない』というもの。だからあまり役に立つような礼装ではないんだけど……まあ、そっとしておきましょ?」
「よし、準備は終わったか?」
ニコラ先生が、私達の方を見て言う。察するに、私達の会話が終わるのを待っていたのだろう。……なんだかなぁ、すごい皮肉屋?みたいだなぁ、と私は思った。
そして、ニコラ先生が説明を始める。
「では、今回の魔力測定について説明する。今回の魔力測定は、奥に見える円形の魔術器具―――『魔力測定器』を使用する」
なるほど、先程から気になっていた謎の構造物は魔力測定に使用するものだったのか。納得納得。
「そしてこの『魔力測定器』は、あらゆる行為を数値化し、表示する。魔力を使用して行われたものならな。だから単純に魔術の威力を試しても良いし、回復魔術を施しても良い。得意なものをぶつけてみろ」
言い終わると、ニコラ先生は、こちらを―――私の方を見て、挑発するかのように言った。
「まぁ、破壊しても良いが……出来るか? アレを破壊出来るのは
なんだあいつムカつくなぁ。許せんなあ! そうして、怒りのまま私はニーナに振り向く。
「私、絶対あれぶっ壊すはんで! 見といてな! やったるけん!」
「あ、う、うん。頑張って……?」
「最初……まあ、席順でいいか。よし、それじゃあ最初はクレメンス。本気をぶつけてみろ。では、はじめ!」
私がごちゃごちゃ言っている間に、魔力測定はスタートした。一番手はアレクサンドリア・クレメンス。この初等学校在学中に『分類別一級魔術』を習得すると豪語した若き天才、というべきか。なにせあの年で『上級魔術』を習得しているのだから。
実際、私が『上級魔術』を習得できたのは、前世の記憶があったからというのも一つの要因である。この魔術というのはあらゆる事象を魔術という一つの結果に収束して頭の中でそれらを整理する、というのが第一段階であり、それができなければ魔術を扱うのことはできず、また一番難しいのもこの部分である。
十歳というのはまだ思考や頭脳がはっきりと出来上がっていない頃なので、整理と把握が困難な部分がある。ましてや『上級魔術』など、その年頃の子供たちにとっては未知の領域にも等しい。しかしそれをしているというのが、彼を天才と私が評価する
しかし、妙なのが風。ひゅうひゅうと後ろから吹き付ける、風である。強風と言ってもいい。それが彼の方へ集まっていく。……無詠唱で風系統の魔術を操っているというのか。
「圧縮詠唱―――
「―――ッ!」
圧縮詠唱! 風系統の魔術を同時に発動させ、自らの代わりに発音させるテクニックで、本来二段階の詠唱が必要な
そして、クレメンスが放った『上級魔術・
しばらくすると煙が止んできて、前が見えるようになった。しかし、私が初めてその光景を見た感想は。
「……信じられない」
そう思うのも、無理はないと言えよう。なにせ、あの『上級魔術・
そして、『魔力測定器』に数値が表示される。その数値は「8!」。……この「!」はもしかすると階乗、と言う意味だろうか。それなら……えーっと……40320、ってこと!? もしや圧縮詠唱でやったから表示がバグって階乗とかいう面倒くさい数値になってしまったのではないだろうか。
「ふむ……上出来、どころではないな。やはり天才だよ、お前。その年でそれほどまでの精度の圧縮詠唱。お見事というほかない。評価は高いぞ。では、次! そこで変になっているフランソワ!」
「ふっ、吾輩にかかればこんなこと造作もない! 呪文詠唱―――天より、地より降りて被れ、我が従霊たちよ!―――『分類別二級魔術:降霊魔術・
なるほど、彼は『降霊魔術』を得意としているのか。もしかしたら性格が豹変したのも『降霊魔術』を無意識下に行っていたから……? そんなわけないか。
そうして、地面から這い出る死者の霊は、そのまま彼らの持つ羽を使って標的―――『魔力測定器』に突っ込んでいく。それは激しい衝撃を伴い―――計測結果が出る。
その値は「32093」。やはり一万は超えるのがこのクラスの常識なのだろうか。分からない。
「ふむ。前のやつよりかは見劣りするが……それでも高得点であり、そんなにいないのには変わりない。評価するに値するだろう。その態度さえ直せばな。次、アリス!」
「は、はい! ……じゅ、浄化詠唱―――神よ、我らが精霊よ。汝らのその哀れみで、かの者達を赦し給え。願わくば、その者達に大いなる祝福を―――『神聖魔術・
緑とでも、明るい光とも判断しづらい眩いエフェクトが現れる。そして―――『魔力測定器』に測定結果が表示される。
その値は『20012』。やはり一万超え。すごいのか、すごくないのか……私には判断しかねる。いやだって、こんなにポンポン一万超えを出されるとさ。ね、分かるでしょ?
「ほう。なるほど……これは確かに。聖女になるには申し分ない。大聖女には……なるには少し物足りないがな。まあ、頑張れよ。次! ニーナ・ザッバーフ!」
「はい! ……さて、やるわよ! 接続詠唱―――
瞬間、ニーナの姿が消える。否、闇へと溶けたのである。その間の一瞬だけ、私は
人から見えなくなる、ということはそれ即ち人の認識範囲から存在ごと消える、ということである。故に、見えぬ人は忘れ去られ、人々から認知されなくなる。―――師匠が語る、透明人間と不可視人間、そして非存在的透明人間の定義である。
ハッとして『魔力測定器』を見る。すると、そこには一瞬のうちに移動したニーナが、ナイフ片手に飛びかかっていた。
そして彼女はナイフで『魔力測定器』を斬り刻む―――のかと思いきや、突然に何も無い空間から複数のナイフを取り出し―――それを使って斬り刻む。
一発二発、三発四発……そのナイフは、確実に的確に、人ならば急所である場所をついていく。もし相手が人ならば、今頃バラバラに裂かれていたに違いない。しかし、そのような技を食らっても、いまだ『魔力測定器』は健在である。
そして、測定結果が表示される。値は『39281』。やっぱりおかしいって、ねえ! ほんとに! ねぇ―――!
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