ゲームのラスボスである呪術師になるはずの勇者の幼馴染に転生してしまった。〜「よし、無双までは行かなくても、人生を謳歌したい!」と願えども、無双してしまうのは世の常である〜
Story.10―――入学、そして友と出会う
Story.10―――入学、そして友と出会う
―――入学式が終わり、クラス発表がなされた。
案の定、私とカナリアは剣術系と魔術系とで分けられ、クラスはバラバラになった。しかし、学校自体は小さく、教室同士が近かったので、すぐに会いに行けるのが幸いか。まあ、初等学校から帰ればクロミアにも、カナリアにも普通に会える。
そういえば、これからクロミアは私達が留守の間どうするのだろう。いつもはカナリアがクロミアと一緒にいたし、いないとしてもそんな十時間も放置するわけではない。せいぜい三十分から一時間ぐらいだったと思う。だから―――実は、結構長い時間留守番をするのは、クロミアにとっては初めてなのではなかろうか。……そう思うと不安になってきた。
教室に行くまで、私はカナリアと一緒に歩いた。楽しみだね、みたいな事を話しながら。そして、教室が見えてくると、私を別の緊張と不安が襲う。クラスに馴染めなかったらどうしよう、いじめられたらどうしよう……そんな事を考え、震えた声でカナリアと別れた。
「よし、大丈夫。私は行ける。私は行ける。私は……」
と、呪文のように何回も繰り返し唱えていた。だが、私はそれに夢中になっていて背後から忍び寄る、別の人影に気がつかなかった。そして私は毒薬を飲まされ、気づいたら身体が縮んでいた……とはならなかった。まあ、別の人影には気がつかなかった。
そして、後ろから声をかけられる。
「えっと、ど、どうしたの?」
「うひゃああああああ!」
思わず変な声を出して飛び退いてしまったが……そこにいたのは、一人の美少女。青がかった黒髪で金色の目の、れっきとした異世界人の見た目をしていた。私は、髪が転生前も転生後も変わらず黒いので、髪色に個性があるというのは、少し羨ましかったりする。
見ると、その美少女は少し引いていた。そりゃあそうだろう。何せ、ブツブツとなにかを唱えていたと思って話しかけたら、いきなり奇声を上げて飛んだのだから。でもね、それでも私は思う。人をね、別の生き物のような目で見るのはやめたほうが良い。絶対。
こほん。少し平常心を取り戻して、私は彼女の脳内に接着してしまった汚名を返上するためにしっかりと挨拶をした。
「あ、はじめまして。私はクロム。クロム・アカシック。今日から初等学校に通うことになって―――魔術系のクラスになったんだ。よろしく。あなたは?」
そう聞くと、彼女は言った。
「あ、うん。はじめまして! 私はニーナ。ニーナ・サッバーフ。私も同じ、魔術系のクラスに振り分けられたの。初等学校、少し緊張しているけど……それはお互い様ね。クロムちゃん」
「はははっ! そうだね、そうに違いない!」
バッと驚き振り向くと、そこには背丈の高い男子が。しかも、イケメンである。何だこの世界。美男美女ばっかりか?
「おや、驚いてしまったようだね。自己紹介しよう。僕はフランソワ・カリオストロ。魔術系のクラスに配属されたが……別にそこまで魔術に詳しいわけじゃない。僕はね、あまりにも無能なんだ。だから、勉強だけはしてきたのだが―――まさか学術系のクラスではなく魔術系のクラスだったとは。もっと早く知りたかった事実だよ、それは」
「もうフランソワ。いつも言っているでしょ? 気配隠して後ろに来ないでって。びっくりするじゃない。その技術はすごいけど、もっと有意義なことに使いなさいよ。例えば、ほら―――暗殺、とか」
暗殺、とかっていうパワーワード出てきたんですが。え、暗殺ってそこまで簡単に行われる世界なの、ここって? ―――妥当といえば妥当か。何せここは中世ヨーロッパぐらい。まだ多くの国で貴族階級が残っているし、なんならまだ暗殺なんて当たり前の時代だったからなあ。そりゃあ、訳ないか。
そう考えていると、フランソワが衝撃の事実を言い放つ。
「はは! ニーナ、少しは遠慮してくれ! 暗殺教団の主のお前に言われると、本気としか捉えられなくなる」
そして、その場に一瞬の雷光が轟く。それは、衝撃のまばゆき光。それは―――私の、疑問を象徴したものであった。
「は? 暗殺教団?」
今、なんと? 暗殺教団、と言ったように感じたが……。
「あれ? 知らなかったか。改めて紹介すると、彼女はニーナ・サッバーフ。このサッバーフという家名は、ここ〈カムランの丘〉をずっと南に進んだところにある砂漠で活動している暗殺教団の教主の家の名だ。ほら、聞いたことないかい?
―――ハサン・サッバーフ。伝説の暗殺者で、今まで数々の社会的な悪を殺害してきた暗殺教団の教祖。彼が、まさしく彼女の祖父だ」
「へーそうなんだ〜」
私が、その答えに相槌を打つと―――瞬間、一閃。銀色に煌めく金属が、フランソワの首元に迫る。しかし、それは首元で止まる。刃物を―――ナイフを振るった人物が止めたのではない。彼が、指で挟み込んで止めたのである。
彼は、ナイフを振るった人物―――ニーナを見ながら、言う。
「だめじゃないか、ニーナ。学校で刃物を取り出していいと、誰に教わったんだい?」
挑発に答えるように、ニーナは口を開く。
「そりゃあ、お
「減らず口を叩くものになったものだな、ニーナ・サッバーフ」
「それはこっちのセリフよ、フランソワ・カリオストロ」
そして、二人が向かい合い、神速の戦いが始まる。白銀、しかして鋼鉄の刃がフランソワを襲う。だがしかし、それを遅いと侮るかのようにフランソワは優雅に、華麗に回避し、その隙に手刀を叩き込もうとする。
それをニーナが避け、次は手から金属の糸―――ワイヤーを取り出した。ワイヤーがこの世界にあったのも驚きだが、真に驚くべきは彼女のワイヤーの操作術だろう。自身の倍以上の長さがあるワイヤーを、まるで自分の半身のように自由自在に操っているのだから。
ニーナは、そのワイヤーでフランソワを捕らえる。恐らく一般的な金属を遥かに上回る硬さを誇るであろうそのワイヤーは、十歳前後の子どもの力ではおろか、成人したいい大人でも到底千切ることができないだろう。そのようなワイヤーを巻かれたフランソワは、身動き一つ取れずに諦めた様子を見せ、目を伏せた。
そして、ニーナが持っていたナイフでフランソワを突き刺そうとし、私は思わず声を出してしまった。
「や、やめて! ニーナ!」
「その通り。止めろ、お前ら」
ニーナが、こちらに振り向くと同時に、私も横を振り向く。そこには、教室の扉から出てきた男性(恐らくこのクラスの担当教師)が。そして、この教師、見たことある。―――記憶をたどると、やはりいた。入学式の時、私達のクラス分けをした時に、女の先生の隣にいた男性教師ではないか。
はっ、とした様子でニーナはナイフを振り下ろす手を止め、寸前のところでフランソワは助かった。そして、謎の男性教師は眼鏡のフレームをクイッと押し、私達を再び見る。
「入学早々、元気だなお前ら。まあ、暴れるのは良いが……俺にまで迷惑がかかることはやめてくれ。例えば―――殺人、とかな」
その凍えるような鋭い視線は、私達―――というかニーナとフランソワを、まるで殺さんとばかりに見つめた。イケメンのキレた顔って、まじで怖い。
そして、私を見ると、少し目線が和らいだ感じがする。
「お前、よくやったじゃないか。あの状況で声を出すのは正解だった。でなければ、入学して早々に死人が出るところだった。いつもまあ、数人は出ているんだが……それは不慮の事故ってやつ。でも、今回は違う。故意の事故だ。こんなことが世間に知らされれば、うちの学校はどうなるかは想像のとおりだ」
「は、はい。ありがとうございます……?」
ふと、この人の名前が分からない、と気づいた。いい機会なので教えてもらうことにしよう。
「そう言えば先生、名前は?」
「それは後だ。まずは教室へ入れ。あと数分で遅刻―――入学早々の遅刻なんて、もし進学するのだったら内申点に響くからな」
あ、そうか! ここって、中学校の要素もあるし……高校受験の時と同じで、内申点が高ければその分合格しやすくなるのか。なるほどなるほど……って、やばい!
「ニーナ、フランソワ! 行くよ!」
「あ、ちょっと待ってて!」
見ると、ニーナがフランソワに巻き付いたワイヤーをほどいている。なんだかんだ言って、優しい子なんだな、あの子。うんうん。
そんな風に、生暖かい目で見守っていた私に気がつくことなく、ニーナはフランソワのワイヤーをほどいた。やはり自分が巻いたなら自分でほどけるのか。
「助かった! ありがとう、ニーナ」
「いえ、少しやりすぎちゃったから。これくらい、詫びよ。詫び」
「どうしたお前ら、早く席につけ」
そうして、転生して四年。ようやく私は、青春を取り戻すという願望を叶えることができそうになったのであった。やはり青春最高!
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