Story.08―――洗礼、霊への反逆者
私達は、荘厳な雰囲気に包まれながら、特大のステンドグラスから放たれる色とりどりの光を浴びていた。この光は、太陽の光ではなく―――精霊が放つ、光である。
そう。私達は、今、教会にいるのだ。教会とは、洗礼を受けたり、ミサをしたりする場所のことであり、精霊信仰の中心地と言える。まあ、教義的にはもう一つ上の存在である「神」もいたりするのだが。しかし、その神だって、どちらかと言うと精霊ありきな存在の仕方だし、実質的には精霊が最高位の存在であると言えるだろう。
―――と、そんな事を考えていると、どうやら司教の長ったらしい話が終わったらしい。もう、ほんとに退屈だった。神がどうとか、精霊がどうとか。そんなのには一切興味がない。そもそも、魔術的には精霊というのは、あまりにも弱すぎる存在なのである。少し魔術に踏み込んだものは、二度と精霊を信仰しなくなる―――というのを、この身体の記憶から読み取ったことがあるが、それは本当だったようだ。精霊は、多少魔術は扱うことができると言えど、所詮は魔力の塊。あまり魔術を使いすぎると自らが消滅してしまう。しかし、彼らには魔力切れに気づく知性がなく、どちらかと言えば魔術師は精霊より妖精の方を重要視していたりする。
例えば、祭祀用の剣を鋳造するのも妖精。幼い頃に魔術の才を授けてくれるのも妖精。魔術で困った時に助けてくれるのも妖精。妖精妖精妖精……と、こんな風に魔術で困った時は妖精頼みが常識だからである。その証拠に、一流の魔術師である師匠も、一匹妖精を飼っている。その妖精は、決してイヤイヤながらそこにいるわけではなく、ちゃんと面白そうだから、と言う理由でいるらしい。そもそも、妖精を縛り付けることなど、不可能に近い御業なのだ。
「さて、では、次に神から授かった
「はい!」
おっと、始まったようだ。司教が何かブツブツ唱えながら、少年の頭に手を乗せる。―――なんというか、小説とかでよくある鑑定スキルとかはないのか? この世界。そのほうがとても楽だと思うのだが。と、思っていると
「君の
その言葉を聞いた瞬間、少年の顔がぱあっと華やぐ。『黄金剣技』。確か、
さて、少しここで
そしてその
「次の子、どうぞ前へ」
「はい!」
隣から元気な反応が聞こえる。私は、視線をカナリアの方に向け、小声で言う。
「頑張って!」
そう言うと、カナリアは、私の言葉に気づいたのか、そっと微笑み、司教の方へと歩いていった。
教会の中を
数十秒が経った時、司教は言う。
「ふむ、君は実に精霊に愛されている! 君の
……なんだか、彼とは話が合いそうな気がする。そう思って私は、教会の石造りの段を登る。師匠からもらったローブが、段を上がるたびにこすれる。しかし、それはなんだか大きなドレスを着ているようで……楽しかった。
「さあ、始めよう。では、少し失礼します」
そう言って、司教はにこやかに笑って―――私の頭の上に手を置いた。……その瞬間、少し悪寒が走った。別に、この人はそこまでキモくもないし、ブサイクでもないし、どちらかと言うとイケオジと言う感じなのだが……。なんというか、その―――初めて師匠の魔力に触れた時のような、師匠の飼っている妖精と初めて会った時のような、そんな感触がしたのだ。なんというか―――そう。この表現が一番あっているかもしれない。それは、初めて魔術を使った時のような、である。
もしかすると、人より魔術に触れてきているため、こういった魔術で付属する他人の魔力には少し不快感を感じる体質なのかもしれない。
と、そんな事を考えていると、司教が先程から唱えている呪文が聞き取れた。それは―――
「―――洗礼
という内容だった。最後に神より精霊が来るというのは、やはりこの宗教が精霊信仰を中心としているからだろう。聖人、というのは精霊に祝福されたもの、ということか。なるほど、やはりこの世界には私が未だ知り得ない話もあるのだろう。私は、一層興味が湧いた。
だが、途端に司教は顔をしかめた。何か悪い
「……君、これは冗談が過ぎるというものだ。まさか精霊に祝福されながら、精霊を敵に回すような
え、嘘―――でしょ? もしかして私、とんでもない
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