Story.07―――師匠からの贈り物
―――師匠から呪力をもらい、そして、馬鹿みたいに強化した広範囲爆撃魔術を師匠の魔術工房で放ったあの日より、実に数年が経った。その間にも、私は師匠のもとで魔術を学び、さらに呪術を学んだ。これで、大半の呪術はマスターしたはずである。
例を上げるとするならば、初歩的な呪術である『第一呪・風水開放』。これは、元来運勢など目に見えない事実がどうかわからない要素なのだが、それを事実にするという呪術である。これを上手く使えば、相手に不幸を与えることも、逆の位置にいれば自分が幸運を得ることも可能である。また、これ単体では意味がない場合が多く、大体の場合『第二呪・陰陽制定』と『第三呪・五行顕現』を併用する事が多い。なぜならば、風水というのはあくまでも陰陽五行思想など何か土台となる思想がないと発生しないためである。それが特性として現れているのが、なんとも面倒くさい。
まあ、そんなことはどうでもいいとして。私は、今ルンルンである。どんなほどかと言うと、もう、歌の一つでも歌いたいような気分である! フハハハ!!
「いや〜ずいぶんとご機嫌だねぇ。そろそろ、
「はい! 私も、師匠と出会えて良かったです! ……ところで、師匠って何歳ぐらいなんですか?」
師匠は、首を傾げてひーふーみーよーと数えているが……途中でこちらに向くと、気持ちの良いぐらいの笑顔で
「うん! わかんない!」
「あ、そうですか」
と言ってきた。すると、今度は師匠が問いかけてきた。
「君は……確か今、十歳ぐらいだったっけ?」
「ええ、まあ」
「んじゃあ―――そろそろこっちの方も安定してきたかな?」
そう言うと、師匠は私の手を掴み―――グッと手を引き上げる。その視線の先にあるものは―――私の『魂の刻印』である『魂の刻印:魔術師の烙印』である。数ヶ月前まで不定期に色が変わり続けていたが、今では黒一色に安定している。
「ふむ……やはり、魔力と呪力が半々の割合で入っているから、『魂の刻印』といえど
そんなものなのか。と、思って魔術薬の調合をする。素材の割合が絶妙なので、ここで寸分間違えると違う魔術薬ができてしまう。もしかしたら危険な薬になってしまうかもしれないので、分量は間違えずに調合するのがミソだ。
そして、魔術薬の調合が一段落ついたところで、後ろを振り返ってみると、何やら師匠がゴソゴソと何かを漁っていた。漁っているなあ。何か捜しているのかな? と思っていると、師匠が突然にバッとなにかを取り出した。
「あったあった! さ、これ、君にあげるために結構遠い街まで行って買ってきたんだよ。着てみてくれ!」
「なんです、これ?」
「これはだね、すっごく貴重な装備なんだよ! 魔力伝導率が高い素材を全体的に使っているから、魔力の節約にもなるし、何より外からの魔力伝導率が極めて低いから、魔術への耐性防具として一級品の―――君への、お祝い用のローブだ。これを着ていけば、君は一目置かれること間違いなし! あと、親友ちゃんの分もあるよ。こっちは全体的に魔力伝導率が決して高いわけじゃないけど、その分魔力保存の質がいい。どちらかと言うと、コートと手袋だ。魔力保存の質がいいと、その分事前に溜めた魔力を放出するなどの戦略の幅が広がる。しかも、魔力を保有している攻撃っていうのはモンスターや魔族に対してとても高い攻撃力を誇るから、そういう観点から見てもとても良い一品だと言えよう! さ、着てみてくれ!」
師匠の激唱を着ながら、私はローブを羽織る。……確かに。結構いつもの服と比べて魔力が流れるスピードが極端に速い。これなら、無駄な魔力を使わなくても良くなる。
と、そう考えていると……師匠が、
「『基礎魔術・
「え? は? ちょっ!」
と急に魔術を放ってきたため、私はとっさにローブにくるまる。ああ、もうだめだ! 師匠は私を殺す気だったんだあああああ! と思っていたのも束の間。一切熱が感じられず、当たった感触もしなかった。
「あ、あれ? 私……生きてる?」
「ああ、もちろんだとも。どうだい? そいつの性能が、よく分かっただろう。―――さて、今日はもう帰ると良い。明日に備えて、今日は早く寝ることだ。もしかすると、少しは良い
そう言われたので、私は、カナリア宛てのコートと手袋を持って、家に帰ったのである。
「ただいま」
「あ、おかえり〜。ご飯できてるから、早く食べよ?」
うんっっ! なんとも可愛い妹なのだろうか。もう抱きしめたい! というか抱きしめる! ぎゅぅ〜〜! という間にスーーーッとクロミアを吸う。まるで猫を吸うように。この数年間で、結構大きくなった妹の身体は、その重みだけで成長を感じられる。そして、なんというか……その……私が六歳の頃よりも……なんだか、うん。何がとは言わないが、大きい気がする。―――負けた!
「もう、どうしたの? 早くこっち来て。ご飯にしましょう」
「あ、うん。それもそうなんだけど……」
「どうしたの?」
私は、異空間から先程師匠にもらったカナリア宛てのコートと手袋を取り出して(ついでに自分のローブも)、カナリアの前に差し出す。
「これは? すっごくカッコいい!」
「お祝いだってさ。師匠からの。ほら、明日私達アレじゃん? それで、お祝いだって」
へ〜と、少し流してコートと手袋に夢中になっているカナリアを横目に、私はローブをもう一度羽織ってみる。うん。結構着心地が違う。
「じゃーん! どう? どう? 似合ってる?」
「うん! クロム結構似合ってる! 私は?」
「うんうん! 似合ってる!」
そんなキャッキャワイワイをしていると、こちらを見る一つの視線に気づく。見てみると、そこにはクロミアが物欲しそうにこちらを見つめている。
「どうしたの?」
「……お姉ちゃん達だけもらってて、ずるい。私も欲しい!」
と言ってきた。しかし、こういうのは対策済みである!
「ふっふっふー! そんな時は、私にお任せあれ!」
「え?」
私は、そう言うと魔力を流し、魔術を発動させる。ちょっとした魔術ならば、無詠唱でもできるようになったため、無詠唱でいかせてもらおう! 『発展魔術・
私が『発展魔術・
「はい、これあげる。これは、私の魔力の塊なの。きれいでしょ?」
「……うん! すっごくきれい! お姉ちゃん、ありがとう!」
んんんん! 悶絶するほどに、その攻撃はお姉ちゃんに効いたのだった。
―――翌朝。私は、ウキウキしながら準備をしていた。だって、そりゃあそうなるでしょうとも! 何だって、今日は―――!
「洗礼、そして初等学校入学の日!」
洗礼とは、教会に行って、精霊たちに十歳となれた事を祝福してもらう、大人になるための重要な儀式なのである。この儀式の中で一番魔術的に重要なところは、「祝福を受ける」と言うところである。この祝福は、魔術的にも大きな意味を持ち、祝福を受けた魔術道具などは、全てがワンランク上にアップする、などという研究結果もあるぐらいである。
「おーい! 早く行くよ、クロム!」
部屋の外から、カナリアの呼ぶ声が聞こえる。私は、これからに向けた大きな期待を胸に、そのドアをゆっくりと開くと、左足をドアの外へと―――。
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