第8話 調査2日目② ブラックアウト

 何者かとの遭遇があり、一度今日の調査は中止になった。それぞれが工房で備える中、拠点は突如として黒い霧に包まれた。


 私はベッドから飛び起きる。見知らぬ魔力を感知したのだ。すでに広範囲を囲うように広がっていったように感じられる。明らかに仲間のものではない。


余程のことがない限りは工房内にいることが吉だ。魔法使いは自身の工房内では無類の強さを発揮するからである。そう考えて外に大きな変化が見られない限りはじっとしていることにした。



 しかし、そう甘くはなかった。私の小屋の中に魔力が流れ込んできたのだ。



「何よこれ!」



 驚く暇もなく、私の小屋に侵入者が現れた。扉がぐにゃりと曲がったかと思うと、そこから黒の外套を羽織った人影が現れた。小屋は崩壊を始め、工房としての機能を失い始めていることが感じ取れる。


 私は残された工房内の機能を発動させる。



「強制退出!」



 私がその言葉を口にすると、体がふわりと浮き上がる。そして工房は浮いた二つの体を外へと吐き出す。途端に視界は黒一色。魔力を帯びた濃霧が体を包んだのだ。霧の影響で魔力感知は正常に働かず敵の位置が捕捉出来ない。



ヒューン!



 風を切る音と共に何かが飛んでくる。濃霧によって奪われた感覚のせいで、一瞬だけ反応が遅れた。何者かによって放たれた矢は私の左腕を捉える。矢はグサリと刺さった後、光を纏う。痛みはない、何らかの準備の為の攻撃だろうか。


 私はネックレスを握り込む。すると、私を照らすように光の柱が出現する。光は収束し、私の背中には純白の羽が生える。さらに、両手には大槌が握り込まれ、肩を守るパットが換装されたが、凄じい痛みが全身を襲う。


先程の矢とは比べものにならない痛みである。私は膝をついてネックレスを必死に握り込む。光の柱はまだ発散されずに降り注ぎ続ける。いつもと状況が何か違うことは明らかだった。


 次第に痛みがなくなり光は発散する。すると、私の下半身は四つ足になっていた。白馬の脚は私の思うままに動く。驚きの状況を飲み込む間もなく、次々と矢が飛んでくる。私はそれらを槌で迎撃する。どうやら左腕の矢を目印にしているみたいだ。



「早く姿を現しなさいよ! どうして魔法使いは姿を消したがるのよ」



 私の怒りなど届かないようで、次々に矢は飛んでくる。今度はの矢は弾くと雷光が発する。ビリビリと武器から手、腕へと痺れが伝わる。次に飛んでくるのは炎を纏っている。腕に力が入らないので、羽ばたいて回避する。


敵の位置は分からないので、一方的に矢を飛ばされ続けている状況を何とかしなければならない。


そう考えている矢先にすぐ近くで工房の強制退出が行われる際に発生する轟音が響く。恐らくローズの工房である。私は一縷の望みを込めてその方向へ駆け抜ける。


 

 自分へと向かってくる矢を飛んだり、跳ねたり、蛇行したりしながら音の方を目指す。近くづくにつれて何かが弾かれる高音が聞こえてくる。これはネリネの盾の音だ。すぐ近くにいるはずである。しかし、進めどネリネの姿は見つからない。



「どこにもいない! ネリネ聞こえる?」



 返事は返ってこないが矢は飛んでくる。この濃霧の中は、調査の時と同じように永遠に道が続いているような気がする。


魔法によって私たちは隔離されてしまっているのかもしれない。


その間にも様々な属性を纏った魔法の矢は私に向かって飛んでくる。矢を相手にしながらこの霧を晴らさなければならない。私は一か八か全力を込めて槌を振り下ろすことにした。



「吹き飛べー!」



私は思いっきり槌を地面に叩きつける。衝撃に伴って光輪が波紋のように広がる。眩い光は私の周囲にも発散され矢と霧から体を守る。光によって霧に小さな穴が開けられる。そこからは桃髪の姿が見えた。しかし、私の背後に現れた外套の敵はその穴へ矢を飛ばす。



「ネリネちゃん危ない!」



 矢に遅れをとった私は叫びながら穴に突入した。私の声に反応した彼女は黄金の盾で矢を弾く。



「私の相手は弓使いなの! でもこの視界の悪さじゃ相手を確認することもできないの! 何か手はある?」



「分かりました! エリカさんに1枚、私のシールドを付与します。とりあえずそれからどうにかしましょう」



 ネリネから一枚の盾が飛んでくる。その盾は飛んできた矢に自動で反応して守ってくれる。



「わぁ、これは便利ね。そしたらとりあえずみんなと合流しない?」



 この濃霧では部が悪すぎるので一旦逃げることを提案する。



「そうしましょう。ルガー、狼に戻れますか!」



 青年は彼女の声に反応しない。私はとりあえず彼を小脇に抱える。



「ネリネ! 何があったか分からないけどとりあえず離れよう。さぁ乗って」


「ええ!!!」


「しっかり捕まっててよね!」



 私はネリネを背中に乗せてとにかく駆ける。四つ足と羽を使って空を駆ける。



「右!」



 彼女が叫んだ方向を見ると倒れている人がいた。黄金の盾のおかげだろうか。濃霧の隔離の影響を受けずに走れている。


 私は空いてる腕で倒れているローズを抱えるとまた走り出した。後はドラセナだ。



「ちょっと、どこよドラセナは!」



 その直後、とてつもない大きさの咆哮が聞こえる。これは飛竜になったドラセナのものだ。私は勢いを殺さずにカーブを描くように方向を綺麗に変えるとその咆哮の主の元へ駆け抜ける。


 剣を持った黒い外套が膝をつく男の子に向かって近づいていた。



「ネリネ! お願い!」




 私は咄嗟に背中の上へ声を発する。



「Sentinel!」



 彼女がそう叫ぶと、少年の前には大きな盾が展開される。そして外套の敵が振り下ろした剣による攻撃を防ぐ。



その隙に彼の元へと近づいてドラセナを回収する。これで私達は見事に全員回収出来た。



「エリカさん、秘密の部屋を知っているんです。行きますよ」



「え?なにそれ!」



 ネリネは私の返答を聞かずに、何かを始めた。背中の上が光った瞬間に視界は明転する。

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