第4話 調査1日目① 空はどこまでも青く

 調査1日目の始まりである。


 今日集まったメンバーは私とネリネとローズとドラセナの4人だった。ライラックは何故か自分の工房から出てこないし、隊長はそもそも参加する気がなかったのでこれが実質フルメンバーということになる。ソロ調査はそれぞれが、別の方角を見に行ったのだが得られた結果は同じだった。



 枯れ果て変色した大地に、広がる青空ばかり。木の一本どころか雑草の一つも見つからない。永遠と続く同じ景色。調査し続けていると気がおかしくなりそうなくらいに殺風景であった。


やっかいなのは地面に散乱しているヘドロだ。これらが魔力を発しているせいで、常に自身の魔力をコントロールして身を守らなければならない。私は細やかな操作が苦手なので一苦労だ。このヘドロに対してローズはこんなことを言っていた。



「魔力の残滓には触れてみたかしら?」



 どうやら触れると、何かが見えるらしくヘドロについて猟奇的に語っていた。ネリネのことを使者と呼び、残滓と同じ魔力を感じるといいながら彼女に飛びかかる始末で大変な思いをした。


 しかし、狂気じみたローズに隠れたドラセナは興味深いことを言っていた。



「僕は空から探したんだけど、ある一定の高さまで上がると天井にぶつかるみたいな感触がしたんだ」



 これが本当であるならば、陥没穴は何者かが作り出した空間に繋がっていると考えることもできる。もしくは領域内。魔力によって閉ざされた空間で囲まれているのかもしれない。ただ、そんな芸当ができるのはこの世界に……。





 ♦︎


 ペア調査はそれぞれが指名式で行うことになった。


 私はドラセナの情報を精査するためにネリネを指名した。彼が偽の情報を言っている可能性を考慮しての指名だ。ローズよりかはネリネの方が言うまでもなく信頼できる。運良く私と彼女はお互いを指名しあったので、調査時間を2倍貰うことができた。



 最初の時間は思いっきり南の方向に足を伸ばした。ネリネの狼くんがへばるくらいには駆け抜けたのだが、やはり壁は見つからなかった。彼女たちの疲労度を考慮して、私は次の提案をした。



「私が空を飛んで確認してこようと思う。だけど私の固有魔法の一端を見せる事になるから何かネリネちゃんも秘密を教えてほしいな」


「分かりました。教えます」


「うん! 交渉成立だね。私からまず使うからその後で必ず教えてよね」



 これは私に利しか無い交渉だ。魔法使いの命とも呼べる固有魔法を明かす。一端だけでも最大限のカードを切ったと理解してくれるだろう。


 私は立ち上がり、ネックレスを握りこむ。そして祈りながら、適当にそれっぽい単語を呟く。何でもいい。ぶつぶつと言葉にする。


すると、私の体を照らすように光の柱が発生する。光は収束し発散する。私の背中には純白の羽が生える。


 私は驚くネリネにウィンクをしてから大空へ一気に飛び上がった。先程の身体強化を施した全力疾走とは比べようが無いほどの速度。体には生身の人間が到底耐えることの出来ない負担がかかっているはずだ。


重力に真っ向から逆らう垂直飛行を続ける。それでも天井なんて確認できない。それどころか本当に進んでいるのかすら怪しくなるほどの同じ光景。私は諦めて地面に降り立った。流石に息があがってしまう。



「──天井はなかったよ、ずっと空だった。明らかに落ちてきた距離以上、飛び上がったけど、限りがなかった」



 彼女は上から世界を張る。つまりは誰かがこの空間に領域を貼り付けているのではないかという考えを落とした。



「エリカさん私も一つとっておきのカードを教えますね。私に向かって攻撃してきてくれませんか?」


「え?」


「魔法でも良いですし、物理攻撃でも良いです。明確に殺意がある攻撃をどうかお願いします」



 彼女はそう言うと、私から距離を取った。今から何をするのか分からなかったが、あまりに自信満々な態度だったので、どうにかなれの気持ちだ。私は翼を生やす時と同じ方法で右手あたりにハルバードを生成する。



「いくわ!」



 私は強く地面を蹴って、彼女の正面へ近づく。彼女の体を真っ二つにするつもりで、ハルバードを振るう。


 カーン!


 しかし、体にハルバードが当たる直前。遠心力を伴った一撃は何かによって弾かれる。その衝撃に本能は距離を取ることを叫ぶ。私は彼女から逃げるように後ろへ引き退る。



「この子が私のとっておきです」



 彼女の側には半透明で金色の盾が浮いていた。あの盾に私の渾身の一撃は防がれたのだ。盾から強い魔力を感じる。ヘドロなんかよりももっと重く強い魔力だ。私は驚きを必死に隠すように振る舞う。



「ショックだなー。結構力込めたんだけど防がれちゃったね。そんな凄いの持ってるなら私が庇ってあげる必要なかったね」


「いえ、とても感謝しています。エリカさんのお陰で全員に知れ渡ることは防げましたから」


「でもさ、その盾って魔法じゃないの?」


「これは魔法ではないです。私が魔法使いではないのは本当です。難しい話ですけど、良い呪いと呼ぶのがいいですかね」


「よくわからないけど、そういうもんなのね」



 私は奥歯を噛み締め、拳を握り込む。そして大事なお願いをした。天井がなかったという事実を隠してもらうことだ。私はこの後ドラセナに指名されているので、こちらで天井の件を直接確認したいからだ。もちろん、彼女の能力についても他言しないことを約束した。



「じゃあ、帰ろっか。狼くん、ネリネちゃんをしっかり連れ帰るんだよ!」



 私達は拠点へ帰った。さて、次はドラセナとの調査だ。

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