第3話 最後のメンバー
墜落した場所に近づくと、子どもと四足の動物の姿があった。一人と一匹は互いに身を寄せ合っているようだ。しばらく観察していると、子どもの方が起き上がりキョロキョロと首を動かし始めた。動物に触れながら、周囲の状況を見渡している。
「声かけるの?」
「当たり前でしょ。一人じゃ危ないわ! その為に来たんじゃないの?」
私はドラセナの答えを聞かずに、駆け出した。相手がこちらの存在に気が付いたようで、身構える。私は速度を落として両手を上げる。
「私はエリカ。調査隊のメンバーよ。あなたの仲間だから近づくわよ」
「はい!」
意外にも快い返事がすぐに返ってきた。私は無理なく会話が出来る距離までゆっくりと近づく。一人と一匹の正体は少女と狼だった。お揃いの灰色のローブを纏っていて、少女は綺麗な桃髪の三つ編みを、狼は青黒い長毛をそれぞれ覗かせている。
「はじめましてネリネです。こちらはルガティ。無暗に噛みついたりしないので安心してください」
「よろしくね、ネリネちゃんにルガティくん?」
彼女たちからは微かに魔力を感じる。ヘドロから感じるものと同じ魔力だ。隊長からは最後の一人は非魔法使いと聞いている。だから、この地に散乱しているヘドロの魔力にあてられて、魔力を帯びてしまっている状態と考えて問題は無さそうである。非魔法使いが強い魔力源の側にいると体に魔力を帯びてしまうことはよくあることだ。
「それはそうと、なかなかに凄い落ち方だったわ。こう涎がドバドバっと──」
「あ、あの! それ以上は聞きたくないです」
「そうだよね……、ごめん。ドラセナくんも出ておいでよ。あなたも穴からネリネちゃんが落っこちてくるの見てたでしょ。絶対に仲間だよ」
私が彼を呼ぶとすぐに隣に姿を現した。こんなに近くで盗み聞きだなんて趣味が悪い。彼は自分の名前だけいうとすぐに姿を消した。どうせ呼んだら答えてくれるのに、わざわざ姿を消したり現したりする彼の姿が何だか愛らしく思えた。私は少しからかってみることにした。
「あれ?私とはちゃんと自己紹介してくれたんだけど、もしかして狼くんがこわいのかな」
「ドラセナさん、怖がらせてしまったのなら申し訳ありません。ですが、ルガーは噛みつきませんよ」
私の意地悪に対してネリネは真面目に対応する。ドラセナは姿を消したまま私に軽く肘打ちをした。和やかな雰囲気を作れたのだ。何も悪いことはない。
自己紹介を終え、ネリネに状況の説明を済ませながら拠点へと戻った。今は落ち着く場所。自分の工房で各々が準備をしている所だ。あと少し経ったら調査についての作戦会議が行われる。私は特にすることはないので、ベッドに横になる。
戻って早々、隊長には勝手に別行動をしたことを咎められた。隊長はそれだけではなく、ルガティくんに刃を振るった。何ともならなくて良かったけど、開始早々仲間割れなんて御免だ。だけど私はネリネちゃんの肩を持ちたい。初対面からあの隊長の印象は悪い。
「はぁ……」
ふいに溜息が零れる。まだまだ陥没穴へ来たばかりだというのにもう帰りたい気分だ。首に下げたネックレスを握りしめる。
「私も魔法使いというよりはさ──」
意識は沈む。
♦
仮眠のあと、予定通りに会議へ参加するために小屋からでる。拠点のすぐ横の空き地に移動する。私が着いてまもなくネリネとルガティ、ローズがやってきた。ローズがあまりに不気味に姿を現すとネリネがお手本のような悲鳴を上げた。魔力を感知できればすぐに気配が分かるが、彼女には無理な話なので仕方がない。
キャッキャと三人ではしゃいでいると、隊長が歩いてきた。私たちよりも遅かったくせにイライラとしていた。全員揃っていないことが不満なようだ。すると、ドラセナが姿を現した。彼は隊長が来る少し前には居たが、顔を見せてはいなかった。
「もういい! あいつのことはほっと置いて作戦を伝える」
内容ははこうだ。
一日をソロ調査とペア調査の時間に分ける。ソロ調査はあくまでペア調査に向けての下調べ程度で身の危険を感じたらすぐに引き返すこと。それぞれに制限時間を設けて時間内に帰ってこない者がいれば全員で探しにいくこと。隊長は緊急の際以外は拠点を動かないこと。大体こんな感じのことを言っていた。
「目的はこの陥没穴が出来た原因を突き止めることだ。それ以外に関係しないことは伏せても構わない。おそらくここに奉仕の精神で来たものは1人も居ないだろうからな。では明日からせいぜい死なないよう情報を持ってくるように」
これは暗に共有すべき情報を自分で精査していいということだろう。わざわざ危険な陥没穴への調査を名乗り出るくらいだから、何か目的があるのは全員が同じということだ。かくゆう私もボランティアで来たわけではない。
隊長が去っていくのを見送ると、私たちは解散した。明日からの調査に向けて今日はじっくりと休むことにする。
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