第2章
真琴の主張にも関わらず、TIMELINE機構は"ソラ"の存在を正式には認めなかった。特異点は消失し、観測データにも痕跡は残されていない。真琴の体験は幻覚か、個人的な夢に過ぎないというのが、上層部の見解だった。
「博士、私はあなたを信じています」
成瀬だけが、真琴に寄り添っていた。真琴は研究室の片隅で、ひそかにソラとの再会の手がかりを探っていた。
「ありがとう、成瀬さん。でもこれ以上、君を巻き込むわけにはいかない」
「いいえ、私だってこの研究所に入ったのは、ただの好奇心じゃありません」
そう言って、成瀬は自身の端末を操作し、真琴に見せた。
「これは…」
画面の深層データを紐解いていくと、かすかな輝点が浮かび上がる。
「ソラのシグナルです。彼女は、必ずどこかで私たちを待っている」
「成瀬さん、あなたは天才だ」
真琴は思わず成瀬の手を握りしめた。成瀬の協力を得て、真琴はソラとの交信を試みる。手がかりは、真琴自身の脳波だった。ソラとリンクした際の特殊なパターンを検出し、同調させるのだ。
「博士、脳波の同調率が限界値に達しています!」
「あと少し…ソラ、聞こえますか」
真琴の意識がタイムラインを越えて拡張する。無数の可能性が交錯する中で、ソラの存在を探り当てようとする。
「真琴…聞こえる…?」
ついに、かすかにソラの声が響いた。
「ソラ!私たちは必ず会いに行く。待っていて!」
その時、不意に研究室のドアが開いた。
「白川博士、一体何をしているんだ!」
上司の穂村が、怒りに満ちた表情で立っていた。
「博士、これ以上はダメです!脳への負荷が限界を超えています!」
成瀬が真琴の体をモニターしながら叫ぶ。しかし、リンクを断つにはすでに遅すぎた。
「彼女を、守らなくては…」
真琴の意識は、ソラへの同調を深める一方だった。突如、激しい頭痛に襲われ、視界が歪む。
「博士!目を覚まして!」
成瀬の叫び声を最後に、真琴の意識は暗転した。
次に目覚めた時、真琴はベッドに横たわっていた。白い天井。消毒薬の臭い。ここは医療施設のようだ。
「お目覚めですか、真琴さん」
微笑む中年女性が、真琴に語りかけてくる。
「ここは…?私は一体…」
「貴方は5年前、事故で重体になられました。この療養施設で眠り続けていたのです」
「5年前…?いえ、私はTIMELINE機構の研究員で、ソラという少女を探していて…」
「ソラ?誰のことでしょう?」
女性が首を傾げる。不安が募る。
真琴は上体を起こし、腕時計の日付を見て愕然とした。
「2390年…?10年も前に逆戻りしている…!」
真琴は混乱し、呆然と窓の外を見やる。そこに広がるのは、超高層ビルが立ち並ぶ見慣れた新東京の街並みだった。しかし、よく見ると、ビルの造形や色彩が微妙に違う。まるで、別の時間軸からの景色のようだ。
「いったい、何が起きたというの…?」
自問する間もなく、真琴の脳裏に、ソラの言葉が蘇った。
"幾度の時を超えて、私たちは結ばれ続けている"
真琴は悟った。タイムラインを越境した時、別の世界線に生まれ変わったのだ。前世の記憶を保ったまま…。
「私は、ソラに会うために動き出さなくちゃ」
真琴は運命に身を委ね、新たな人生の一歩を踏み出した。
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