第56話『最終決戦②』【緋衣SIDE】

 俺はまず、たった一つ最低限確認する必要がある物事だけを見た。

(あそこから隠れられそうな場所は一か所だけ――地下鉄駅)


 着地し、見る。

 低空に浮いている龍は動いていない。

『噴火鰻』の維持条件は本体が龍の腹の中心から45M以上離れない事、龍の操作条件は視界の中に噴火鰻の頭を視界に収めていること。


 この条件とあいつがあそこから一瞬で消えたことから、あいつはやっぱりあそこに隠れているのは間違いない。

 問題は何でそんな真似をするか。


(閉所で強みを発揮する能力か策を持っている可能性がある――って事しかわからねえな。あそこは普通の地下鉄。そこまで戦闘に有用な武器があるとは思えない。コピー能力だから可能性は無限にあるし、極論あいつ自身の分身も閉所で有効っちゃ有効――)

 こうして考えさせることこそが、真の狙いであると考える事もできる。深読みをさせて、行動を封じ、能力を起動させるまでの時間を稼ぐと言うのも定石の一つだ。


 だから、選択の時間はない。

 この場で選ぶべき技は二つ。


「これで行く・・・・・・! 【縮地砲】」

 もうひとつ。

「【電気布陣】!」

 【気陣】と俺の能力を融合させた【気布陣】。これはそれに海原の【NMZ】を組み合わせることで、殺気を検知した瞬間俺の意志に関わらず脊髄反射で相手を捉え、電流を流すことができる。

 さらに【縮地砲】を使う事で目に負えない程の超高速で移動し、美翠から俺の策を隠す。


 視界が溶け、崩れ、吹き飛んだ。


 俺が状況を認識した時、全てはとうに終わっていた。

 最初に、美翠に俺の布が巻き付いていることが分かった。


 次に、電気の残量が5%減っていることが分かった。


 そして――美翠を殺せていないことも分かった。


 美翠の体が、塵のように、バラバラになって消えていく。


「分・・・・・・身・・・・・!?」

 俺が呟くのとほとんど同時に地下鉄の中に爆音が響いた。

 美翠の分身の爆発だ。隠れているわけですらない。あいつは俺から逃げている。


 俺から逃げる奴自体は何度か見たことがある。今この状況で選ぶ戦法としてもベストでないにしろベターな選択だ。能力を使いこなせる確証がなかったのかもしれないし、俺を倒せると確信できる札が無かったのかもしれない。


 だが。


(あいつが、俺から――仲間の仇から逃げるなんてことがあり得るのか?)


 俺はあいつと会話をしたことはほとんどない。同じ空間に居た時間すら、3分にも満たないだろう。

 それでも、あいつが俺から逃げると言う選択を取る人間ではないという事は、明白だった。


(何か俺を貶める策があるのか――いや関係ねえ。結局、俺のやることは変わらない。全身全霊、最速最短でぶちのめす)


 どんな策を持っていようが、どんな狙いがあろうが、それを達成させる前にぶちのめせばそれで終わりだ。

 あいつは、ここで止める。

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