第55話『最終決戦』【緋衣SIDE】


 なぜ魔法変身を使うと服装が変わるのだろうか。

 俺の『血濡れの英雄』は頭が赤い虫みたいになるだけだが、蛍火先輩の『魂蟲装甲』は全身が鎧で覆われるし、さっきまで戦っていた滝夜姫の『卵射卵撃貞葬巫女』は姿形がまるっきり変わっていた。


 美翠水蓮の魔法変身もまた、例にもれず全身が変わっている。

 もともと着ていた白いパーカーと短パンは影も形もなくなり、代わりに黒いセーラー服を着ていた。


 頭にはウサギの被り物が付いている。


「・・・・・・さびしいと死んじまうってことか?」

「そうですね。なのでこれは、寂しくならないための能力です」


 水蓮はおもむろに手を地面に付けた。


 その動作を、俺は見たことがある。

 だがありえない。あれはあの人の――。


「『噴火鰻』」

 布をビルに伸ばし、かろうじて攻撃を避ける事が出来たのは、あの人の技を動画で何百回も見てきたからだろう。


 赤黒い柱が、俺に突っ込んできた。

 否、あれは柱ではない。沸騰する溶岩を身に纏う、龍だ。


「自分で使ってみてわかりましたけど、あの時って滅茶苦茶手ぇ抜いていたんですね・・・・・・こんなスピード出るとは思いませんでした」

「テメエ・・・・・・! それは・・・・・・!」

「煙託さんの能力ですよ。前会った時、あこがれているとか言っていませんでした?」

 



 美翠水蓮の魔法変身は、コピー能力だという事がもう分かった。

 しかも煙託さんの能力をコピーできていることから、故人かつ、魔法変身を会得する前に出会っている人間の能力でもコピー可能という事もわかる。

 相手の手札が何枚あるかはわからない。コピーしている札が『噴火鰻』だけか。他にもあるのか。

 でもそれはぶっちゃけどうでもいい。

 どれだけ多くの手があっても、それを万全に使いこなせるとは限らない。まして今発動したばかりの魔法変身、使いこなせるのは多くても4~5個の能力が限界。

「いきなり目覚めた能力なんかで、勝てると思うなよ」

 結論は簡単だ。最速。あいつが能力を完璧に使えるようになるよりも早く、あいつをぶちのめす。


「【縮地砲】!」

 視界が飛んだ。

 布を伸ばし、縮ませ、切り離す。俺の体はパチンコの要領で空中に放たれる。その速度は、音速すらも凌駕する――。


「下」

 龍が、俺の進行方向を塞いだ。

 もしぶつかれば、それなりに長い間致命的な傷と怪我を負うはずだ。勝敗もほとんどついてしまう。


 当たればだ。

 布で電柱を掴む。電柱に引っ掛かることで俺には急速なブレーキがかかり――慣性の法則の結果として、俺は上空へと射出された。

 当然、龍にはぶつからない。


「よし! このまま――」

 俺は空中から美翠に狙いを付け――愕然とした。


「居ない・・・・・・!? だと・・・・・・」

 龍の後ろに居たはずの美翠水蓮は、その場から居なくなっていた。

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