54話『覚せい罪と魂の震え』
「あ、あああ」
姫ちゃんの身体の全ての機能が、何も動作していない。完全に死んでいる。
「うわああああああっ!」
煙託さんも、心も、金庫坐さんも、そして姫ちゃんまで。
私が求めた全てが、失われた。
絶望だけがそこにある。
「ああああああああああああ!!」
「哀れだな、お前」
緋衣の触手が私を襲う。抵抗する気も起きない。いまの私には、姫ちゃんの献身や、心の願いに報いるための精神力は残されていない。
目の前には、死が広がっている。
(姫ちゃん、心。本当にごめんなさい。私はもう、戦えません。誰かが居なければ、私は戦えない。みんなが思っているよりずっと、私は弱いから)
緋衣の布がもう対処のできない距離に迫っている。
(みんなの元へは逝けないけれど、せめて私も――)
『おい。俺の娘』
時間が止まったような気がした。
違う。本当に時間が止まっているだけなら、こいつの声が聞こえてくるはずがない。
これが、かの有名な走馬灯と言うやつだろうか。
脳裏に浮かんでいるのは面のいい、しかし冷酷な顔の男。
私の父、美翠水銀だ。
『お前が消えたって話を聞いたときは、普通に格夜務組かなんかに拉致られたんだと思っていたんだがな――俺に牙を向けていたとは驚きだ』
あの日、携帯電話をかっぱらって組の隠れ家から逃げた後、匿名で父たちの居場所を警察に密告したのを覚えている。
『お前は最悪の愛娘だよ・・・・・・無数の警察がガサ入れに来てる。だが、俺は逃げられねえ。俺に付き合ってくれた仲間に義理を通さなくちゃいけないからな』
父は死ぬのだろう。まだ5歳だったが、察することができた。
『チャカだのドスだの遊び相手のチンピラだの、お前には今まで色々与えてきたが、これが最後のプレゼントだ、よく聞いとけ・・・・・・死体を背負え。腐っても、朽ちても、背負い続けろ。そうすれば、そいつはお前を助けてくれる』
言葉の意味を考え、どういう意味か訊き直そうとしたときには、電話は既に切られていた。
父はその後、アサルトライフルで警察官を九十九人殺した後、警察に包囲されてハチの巣にされて立ったまま死んだ。他の組員は全員海外へ逃げたとのことだ。
ネットで父は、現代の弁慶と呼ばれたらしい。
私は、知りたかったのかもしれない。父の言葉の本当の意味を。
死体を背負いたくなるような、大事な存在を。
「答えは、知った」
後は、昇華させるだけだ。
自分の絶望と渇望を、自分に欠けたものを埋めてくれるなにかに。
「魔法変身」
三つのなにかが、私の体に入り込む。得体のしれない異物が入っていると言うのに何か心地良かった。
この力に、名前を付けるとするなら。
「『
『
基本ルール一覧
①能力を発動するときは手を叩き、出す能力を言わなければならない
②能力を使うには通常の分身を80体分浪費する
③能力を使うには友の遺言を叶えなければならない
④魔法変身を維持できる時間は一日三分間だけである
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