47話『リアルドリームワールド・セルフカバー』


 あー何言っているんだろ私。

 今際の際で、なんでこいつを苦しめてんだろう。


「そ、それは――友達の、私の大事な友達の金庫坐さんを、殺してほしいってことですか!?」

「そう・・・・・・だよ。私は、お前に、あいつを殺してほしい」

 こいつは、裏切られたと理解してもなお、金庫坐を友達だと思っているのだろう。

 でも、だからこそ。


「今ここであいつを殺せなかったら、いつかあいつは滝夜やこれからできるお前の仲間、そしてお前を殺すぞ」

 水蓮の動きが止まった。


「そ、そんなわけ」

「私の腹をぶち抜いて、お前にも攻撃した時点で確定だろ。解釈の余地なんかあるわけがねえ」

 暗い顔だ。私が死にかけていることを抜いても、まだ覚悟ができていないのだろう。


「私はさ、死ぬのはつらくねえんだよ。一終にいに会えるし、もうこれ以上罪を重ねずに済むからな。でもさ」

 腹から吹き出る血が、言葉を遮る。


「大丈夫ですか!?」

「ゴホッゴホ・・・・・・でもさ、私はさ」

 血も命も、どうでもいい。今は言葉だけに全てを込める。


「お前に死んでほしくないんだよ」

「な、なんで! なんでそこまで!」


 なんでだろうか。

 なぜ、わざわざ残酷で、厳しくて、苦しめるようなことを言っているのだろう。


「なんで? 笑わせんなよ」

 私すらわからない、その言動に一つの答えがあるなら。


「友達には、生きていてほしいだろ」

 この前であったばかりの、ただ一緒に酒を飲んで、歌って、命を賭けて共に戦っただけの奴だ。

 十分だった。十分救われた。


「そうだ、どうせ最後だし、景気づけになんか歌ってやるよ。士気上げといたほうがお前も強いだろ・・・・・・なにがいい?」

「・・・・・・最初に歌ってくれた、リアルドリームワールドを」

「カッハハ! あれか! いいぜ、歌ってやるよ」

 肺が痛い。腹が痛い。全身が痛い。

 歌わない理由には、足りない。


「あ、あー。私達の、未来、夢幻だと、しても――」

 酷い歌だ。声は痛みで震えて、力なく、情けない、途切れ途切れの聴いていられないような歌だった。

 でも、楽しい。


「世界は、絶望ばかりだとしても――私達の、未来は――希望は、夢は、現実だと」


(そうだ。私、歌うのが好きなんじゃなくて――歌を聴いて、楽しんでいる人が好きなんだ)

「世界へ、告ぐ。無為も、無意味も、無駄も無価値も、夢幻みたいな私達の現実に」

 最後に気付けて、よかった。


「そんな言葉は・・・・・・」

 息ができない。力が抜けていく。歌を紡げない。

(最後まで、歌えねえのか)


 ああ、もう少しなのに。

 朦朧とする意識の中、目の端に水蓮の姿をとらえた。

 自殺のような、くだらない人生だったが、人にだけは恵まれた。

(勝てよ。勝って――生きろよ。親友)


 最後の友達を想い、私は歩む。

 暗く深く熱い、地獄へと。








「話は済んだ?」


「ありがとうございます。待ってくれて」

 後ろから聞こえる声は、友達の敵で、私の友達だ。

「覚悟、出来ました」

 友達を殺す覚悟は、親を殺す覚悟の何倍も重かった。


「容赦すると、思わないでくださいね」

 私は振り向く。


「・・・・・・そっちこそ」

金庫坐さんはそこに居た。

「もう戻るとは、思わないでよ」


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