46話『たった一つの冴えないやり方』

 道理がなってない。唐突過ぎる。伏線がほとんどない。なんでこんなことに。酷すぎる。心の安否。状況、有利不利の逆転。選択をミスしたかもしれない行動、発現。


 無数の思考が頭を駆け巡り、暴れる。

 そうして私の出した結論は――。


「っ・・・ううっ! 今、助けます!」

 凪音さんを庇っての、全力の逃亡だった。


「させると思っているの?」

 金庫坐さんが私へ拳を向ける。【内出血】。体内にある血液ごと身体を動かし、高速かつ超重量の打撃を繰り出せる技。

 修行で身に付けた、殺気を感じる技能と物理攻撃を滑らせる技能――変態殺人鬼曰く、【気陣】と【皮流】と言う名前らしいの技を使い、間一髪で避けることができた。


 私は一切勢いを殺すことなく、滑るように心の元まで足を運ばせる。


「まだ、ぼくの攻撃は終わっていな――」

「起爆。12人!」


 緋衣に向けていた分身を全員処理して、金庫坐さんに差し向け、最大人数で時間を稼ぐ。

 数秒でいい。数秒あれば逃げて、猶予ができる。その時間さえあれば、助かる可能性が生まれるはず。


「ゲホッ」

 心は苦しそうに血を吐いた。

 体の右側に拳大ほどの穴が開いている。得体のしれない内臓がはみ出ていて、血がドバドバと流れている。


(肉片が粉々になって吹っ飛んでいるから、いつもみたいな肉と肉を無理やり癒着させるやり方の再生は無理。肉が生えてくるのを待つのも、血がドバドバ流れて魔王の一族から人間に近づいている今の状態じゃ――)

 止血が最優先。どこか、布がいっぱいある――アパレルショップみたいな場所に行かないと。


「待ってて・・・・・・。必ず助けるから――」

 金庫坐さんと緋衣を背にして、私はT都のビル街を駆ける。




 T都M黒区にある巨大ショッピングモール『Tミッドシティ』。

 そこの服飾エリアに、私たちは居た。


「ごめん。治療のために服を剥がさせてもらうね」

 思いっきり、人によっては襲っているようにしか見えないような勢いで心の服を剥いだ。


「これは・・・・・・!」

 胸の紋がかなり薄くなっている。血が流れ過ぎて魔王の一族から普通の人間に戻ってきているんだ。


「ま、まずジャージを破って――」

 あくまで冷静に動かないと、助けられるものも助けられない。

 結び、絞める。私にできることは少なかった。


 そして――私には心さんの傷を治すこともできなかった。

 傷口を布で絞め、塞いでも血が止まることは無く、いまや胸の紋はほとんど消えていた。


「心、心・・・・・・凪音さん、ごめんなさい。ごめんなさい」

「うるっ・・・・・・せえな」

「うっ、うう・・・・・・え?」


 凪音さんが、言葉を発した。


「凪音さんっての・・・・・・うぜえからやめろって言ったよな?」

「凪――心! 治ったの!?」

 私の祈りが神様に通じたのだろうか、現実はただ残酷に動き、奇跡を起こすことは無かった。


「いや、違うな――私はもう無理だ。助からねえ。正直、話すだけでしんどい」

「な、なら休んで! しんどいなら話さなくても」

「いや、駄目だ。私はお前に、伝えなきゃ、いけないことが、ある」

 とぎれとぎれに、言葉が紡がれる。


「なんでしょう。私に、なにを?

「あいつさ・・・・・・金庫坐。あいつ、裏切ったろ?」


 裏切った? そんな馬鹿な。


「金庫坐さんが、金庫坐さんが私を裏切るわけがないじゃないですか!」

「お前はそういう反応をするって、思ってたよ。でも諦めろ。敵の能力で操られている線は、無い。操られていたら、恐竜に襲われた時に私達を見捨てたはずだ。すぐ前までは揺れていて――今、腹をくくったんだろ」

 信じられない――否、信じたくないだけなのだろう。

 死線を通って、掴んだ絆が嘘だったなんて最悪を、考えたくないだけなのだろう。


「それでもいい。私が間違っているだけかもしれない。でもさ、それでもさ、私はさ」

 心は、恐ろしいことを言った。


「お前に仇を取ってほしいんだ。水蓮」

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