48話『聖戦』

「ところで、カス赤ミイラはどこ行ったんですか?」

「君を追いかけているとき、姫ちゃんにばったり会ってさ。ノーモーションで魔法変身使ってきたから、二手に分かれることにしたんだ。さすがに逃げながら君を追いかけることは出来ないし」

 姫ちゃんは裏切りのことも何も知らないはずなのに・・・・・・まあ性格だろう。


「まあ、そういうことなら――仕切りなおして、よーい・・・・・・どん」

 手を鳴らす。


「四人」

「【外出血】!」

 金庫坐さんの能力『葡萄酒色のパンファザーテイスト』は血液の操作。

 そして【外出血】は血液圧縮によるシンプルな狙撃。デメリットが少なく牽制を成立させる程度の火力はある。


「効かないです」

 だが私及び私の分身には【気陣】と【皮流】がある。十分な時間圧縮してから撃っているならともかく、速度火力共に半端な【外出血】では脅威足りえない。

 むしろ、私にとっての真の脅威は近接戦。分身の攻撃が届く位置にある。


「【内出血】」

 分身が一体、一撃で粉砕された。


 体内の血を動かし、体全体を無理やり高速で駆動させ、とてつもない身体能力を引き出す技【内出血】。

 【気陣】で見切れても、【皮流】で受け流すことのできない純粋な重さと速度。


「でも、そんなのは所詮、無理のある技です」

 血液で引っ張り身体を無理やり駆動させる。

 そんな真似をすればいくら頑強な魔王の一族と言え、血管も筋肉もズタズタになると言うのは容易に想像できることだ。

 金庫坐さんは前に、傷ついたところは血液で固め修復をしていると言っていた    

 そんなのは無茶な荒療治だ。持久戦は不可能だろう。


「不可能が相手にあると言うのなら、不可能を強制させればいいんですよ」

 私の取った策は簡単。分身による一方的なリンチだ。

 前に『十三星座』蛍火六花にやったリンチと違うところは、人数だ。

 

 前回は常に12人フルを出していたが、今回は4~5人程度しか出しておらず、しかも直接殴らせている分身は2体ぐらい。残りは警戒に徹させている。


「なるほど・・・・・・こうされちゃったら、ぼくは分身を一対ずつしか処理できない。本体を殴ろうにも分身が邪魔をして、本体の場所まで届かない。どんな結果にしろ【内出血】を長引かせて無駄に体力を消耗させられるってわけだ」

「【内出血】を解いたら体力は消耗しませんよ? まあそれをするのなら、分身で一方的にボコボコにすることができますが」

 二つに一つ。消耗か死か。


「こんなんで、ぼくに勝てるわけがないでしょ?」

 金庫坐さんがかがんだ。内出血も解いている。

 これはチャンス。分身が金庫坐さんに向かっていき――。


「【外出血】」

 分身の攻撃が空を切っていた。金庫坐さんがいない。


(なるほど)

 私は冷静に空を見る。金庫坐さんが飛び跳ねていた。見ると、足から血が流れている。


(足に血を貯めて、爆発。それをジャンプに組み込むことで爆発的な跳躍力を得ているのか)

 意表を突くことだけを目的にするならいい手かもしれない。だが戦いの場という観点では中途半端だ。


「発想は評価しますが、そこからどうやって次に繋げるおつもりで?」

 足場のない空中では、重力に従い、元の場所に落ちる事しかできない。

落下地点が変わらないなら、その地点で迎え撃ってしまえばいいだけのことだ。ンむしろ状況を悪化させているだけでしか――。


「どう繋げるかって?」

 空気の流れが変わった。明確に狙いを付けた殺気。

 私は店の中に置いてあった、マネキンを掴む。分身で肉壁を作るよりも、こっちの方が早く身を守れると判断したから。


「【外出血・多量】」

 私の額の上を、なにかが走った。肉がクッパリと裂ける感覚が遅れてやってくる。

 マネキンを見る。真っ二つになっている。断面は赤い液体に染まっており、本当の人間が斬られたように見えた。


 分身たちの現状は確認するまでもない。仮に生きていたら元の場所に着地した金庫坐さんを倒してくれているはずなので助かるのだが。


「こう繋げるんだよ」

「一筋縄じゃあいかないですよね。やっぱり」

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