39話『神噛み殺し③』【滝夜SIDE】
「ふう・・・・・・なるほど、硬く、強い・・・だが、所詮カラクリの武器じゃ。使い続けることは出来ん。いつかは燃やすものが無くなり――」
これがただの兵器であると誤解しているらしい。それは容認できない。
「暴力と防御。それだけならば君もいつか来る力が尽きるのを待って、僕を殺すことができる。しかし残念。『ZINBEI』の力が途切れることは無い」
水素と酸素を結合させれば、水が生まれる。
僕の能力はその水もまた、分解可能だ。その水を分解することで電気が作られる。
そうして造られる永久機関は、僕が生き続ける限り、決して途切れることなく動き続ける。
無限の燃料。その大きいアドバンテージを科学と組み合わせれば、どれだけ強力か。
攻撃には一昨年フランスとドイツが共同開発した精密指向性粒子砲を採用している。周囲に一切の被害を出さず、狙った場所だけに集中的な攻撃ができる破壊できるエネルギー砲だ。
本来兵器として運用するにはあまりに壊滅的なエネルギー効率は、僕の能力で補える。
装甲には複数の金属を多重構造で組み合わせて圧倒的強度を持つようにした超金属、イナレワコ合金を独自改造してさらに強度を高めた物を使っている。これによって薄い装甲でも完全な防御が可能。
この装甲を一切の通気口を持たず、完全に密閉させ、毒などによる攻撃での突破も防ぐことができる。酸素は僕の能力でほとんど無制限の供給が可能。
攻撃、防御、そして持久力。『ZINBEI』は全てを備えている。
「もう一度言う、滝夜姫。君が勝てる確率は――0・01%」
「この小娘はどうだか知らぬが・・・・・・わらわは底など、見せておらぬわ」
「【KMS・ジェットダイブ】」
最も攻撃力の高い、一撃必殺の超集中攻撃。殲滅範囲は大幅に落ちるが、それ御補って余りある貫通性能。
防御は確実に不可能。これで確実に仕留められるはず──。
「貴様は確かに賢く、強く、正しく、素晴らしい英雄なのじゃろう」
「・・・・・・最悪だ」
なぜ殺せていない。
道理が無茶苦茶で、破綻している。
「だが、この小娘に喧嘩を売るのは――このわらわに戦いを挑むのは愚策じゃったな・・・・・・貴様との相性が、あまりにも悪かった」
「まだです。まだ、手はあります」
【UTB・ハーミットダイブ】による変速奇襲。
【MNT・インパクトダイブ】による二段階攻撃による崩し。
正面突破ができないならできないでいい。小細工も搦め手もいくらでもある。
どっちみち、彼女が僕本体を攻撃をすることは不可能だ。時間はいくらでも――。
「わらわの子は死んでも死なぬ。殺された恨みを晴らす為に。二度と殺されぬ為に。形を、力を、一つの機能に特化させる。貴様の攻撃によって死んだ子は、決して貴様に殺されぬように硬くなる。そして貴様を殺せずに死んだ子は」
滝夜が扇子を振う。
そこに現れた存在は、赤子を歪に狂わせ、無理矢理に化物に変えたような、悍ましい怪物。
英雄省に入ってから、精神は鍛え続けたはずなのに――それでも、吐き気が。
「貴様を食らう為、牙を研ぐ」
僕が吐き気に耐えるために、『ZINBEI』の中で口を押さえた一瞬で怪物は僕の目の前まで接近した。
(問題は一つもない。この装甲は核爆弾が直撃しても、耐えきれ――)
ゴボッ、と、何かが、口から、噴き出た。
口いっぱいに広がるドロドロとした酸味。
血、だ。
まるで自分と言う存在がこの世の外に流れて言っているかのような感覚が、僕の体を包む。
力が入らずに辛うじて眼だけが動いた。
眼の付いたミミズのような怪物が何十匹も群がり、僕の腹を喰い破っていた。
その怪物は、外から現れて――壊れるわけの無い装甲に穴をあけて、侵入してきている。
僕は咄嗟にその怪物を引きちぎるため、無防備に手を出し――一瞬で手のひらには無数の虫食い穴ができた。
「お、わり?」
そうだ、いくら再生能力が高い魔王の一族と言えども、ここからどうやって戦えばいいのか。
切断されたわけではないので失われた部位を接着、再生させることは出来ない。
『ZINBEI』を動かす為の腕は、ズタズタに食い破られて使い物にならない。
僕にできることは、何もない。
「神の慈悲じゃ。遺言だけは聞いてやろう――好きなことを言え」
「・・・ぼくが、だめでも、科学は――科学はいつか、お前を殺す」
僕は死んでも、科学は死なない。
きっといつか誰かが――科学の力で、きっと、平和を――。
「ぶっあっくっしょん!」
酷いくしゃみをして、姫は飛び起きた。
神様が消え、姫が起きることになったのだろう。
目の前には穴があけられ動かなくなった兵器が置かれている。
「痛い・・・・・・体中の激痛、どうにかしてほしい・・・・・・」
島の連中に回された時に比べてもそこそこ辛いし、吐き気がする。
「でもまあ、死ぬよりいいや・・・・・・死ぬよりは・・・・」
いっそずっと神様が乗っ取っていてくれれば、楽なのに。
そんなことを考えているとピピピピピピピピ。と通信機が鳴った。
「あー・・・・・・美翠お姉ちゃん」
この体調では、一般の人に五人ぐらいで囲まれたら死んでしまう。早く皆と合流して、守ってもらわないと。
「それにしても・・・・・・棺さんは何をやっているんだろう。魔王軍最強クラスのあの人がサボって――なんで姫が苦しんでいるのかな・・・・・・?」
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