38話『神噛み殺し②』【滝夜SIDE】


 僕がその姿を見て、真っ先に感じたのは圧倒的な神性だった。


 何一つ個性のない、普遍的な黒色から鏡のように光を反射するほどの銀色の光沢に変わってしまった髪の毛で編まれたポニーテール。


 白1色でまるで死に装束のようだった和服は、黒い円板やオダマキのような花があしらわれた豪華絢爛な、黄金の衣装に変わっている。


 まだ幼い少女のように見えた小柄な体躯は、美しく肥大化した胸と神秘的に光る妊婦のように膨れ上がっている腹によって、変わってしまっている。


 顔の下半分だけに、般若のような仮面を付けており、それがより蠱惑的な妖艶さを引き立ていた。

 銃はいつの間にか、形容しがたい奇妙な模様の扇子に変わっている。


 少女は、女は、胸と腹を揺らしながら囁く。


「久し振りに起きたわい・・・・・・さあて、どれどれ」

 滝夜姫は、僕を見て口角を釣り上げた。

 それはまるで、死にかけの鼠を追いかけている猫のような。


「海原藍斗、と言ったな。貴様がわらわへの新たな供物か。喜べ、神の血肉になど、そうそうなれるものではないぞ」

「供物――供物? 人類は宇宙に、月にまで辿りついたことを、知らず生きている?」

 それも、僕からすれば大昔の話だ。


「神に供物を捧げる時代はもう無い。現代は科学に捧げる時代。君の血肉も、科学の礎になる」

 惑わされてはいけない。どれだけ美しい見た目でも、化学式の美しさに比べれば所詮、人間の美しさだ。


「若い、のう。わらわの好みではないが――」

「【ⅠWS・ソルジャーダイブ】」

 『ZINBEi』の背中の砲門が開く。砲門からは砲口が、その標準は滝夜に。

「発射」

そして、砲口からは蒼い光が。

 何百もの光線が、薄暗い街を照らした。

 

「死・・・・・・否、生存」

「――嫁にさせろと言う者も居るじゃろうな」

 滝夜の周りには、どこから生まれたのか目を無理に付けた肉塊の円盤のようなものが無数に浮き、彼女を守っていた。円盤は役目を終えたとでも言わんばかりに、煙のように溶けていき女の仮面に吸われていく。

 科学では説明のつかない、魔の法。

 全ての煙が吸われ、滝夜が喋り出す。


「それにしてもおもしろい。貴様の技、能力ではないな?」

「・・・・・・僕の能力『青魚機構』の正体は水の分解。水を水素と酸素に分ける能力」

 その水素と酸素を結合させれば、化学エネルギーが電気エネルギーとして取り出せる。

 生み出した電気エネルギーは装備――『ZINBEI』を十全に作動させることが可能だ。


「ククク・・・・・・面白い。人の知恵か・・・良いものを見せてもらった礼に、褒美をくれてやる。喰らえ」

 女は扇子を開き、扇ぐ。

 するとどこからともかく鰐と赤子が混ざったようなエイリアンを、何十体も現れ、僕に襲いかかってきた。

「遅い」

 引っ掻いているようだが、装甲には傷一つ付かない。

 この程度の攻撃性能では、『ZINBEI』の装甲に傷をつけることなど不可能だ。

 それどころか、逆に攻撃して殺すことすら。


「【ⅠWS・ソルジャーダイブ】」

 この攻撃は、一つ一つが家屋を破壊するエネルギーを持った弾を、秒間三十発放つことができる。

 怪物の群れは、その攻撃になすすべもなく、一瞬で粉々に破壊された。


 怪物の残骸からは、先ほどの肉塊と変わらずに黒い煙が湧き、滝夜の仮面の元に集まり、消えていく。

 全ての煙が消え、女は――微笑んだ。

 妖艶な笑みだった。

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