第30話『どっちあっちこっちさっち』

「北、西、上空からの南西、攻撃。次は北北と――ゴホォ!」

「違うよー、北北東へのパスはフェイントで本命は避けようとする君へのパスー。攻撃に負けずにー。気を抜くと集中砲火で死んじゃうー」


 最初は少しだけ舐めていた部分があることは認めねばなるまい。字面のドッヂボールと言う言葉に慢心していたことを認めねばなるまい。


 この修行、想像以上にキツイ。


 次々に来る攻撃への対処、どうしても避けられない攻撃への急所から逸らすための的確な防御、砲丸を投げてくる強力なAIとの読み合い。

 どれだけ的確に読み合いを制して受けても、ロボットの相手とは違って一応化物といえど限界のある有機生命体である私とでは、根本的な処理スペックや体力が違う。


「グハッ! ゴホ! ガァッ!」

 痛い、痛すぎる。思考が回らない。思考が回らない。思考が回らない。

 思考が回らないという情報が思考を巡る。


「はーいドクターストップ。さすがにまずいから」


 お久しぶりの登場の鵺泣クルルさんの声もかなりぼやけて聞こえてしまう。どの攻撃の何が原因でここまで苦しんでいるのだろうか。学がないものだからわからない。

 鵺泣さんが停止命令をロボットに使うと、ロボットたちは一瞬で活動を停止した。


「ゴフッ、ゴホゴハ――こんなことやっていたら死ぬんじゃないですかね、私」

「自分で志願した修行のくせに何を言っている? 私は棺悟と違ってサディスティックな面は無い。本来はこのような光景を見るのは医者の矜持に反するが、お前がやりたいと言うのだから付き合っているんだぞ」

「すみません・・・・・・強くなりたいんで」

「ほら、昼食だ。BLTサンド」

 差し出されたサンドウィッチを奪い取るように掴み、ガツガツと胃に収める。無難に美味い。


「鵺泣さん優しいですね――私の友達になりませんか?」

「棺悟でも誘え。私は早死にしそうなやつとは友人になりたくない。死んだとき悲しい」

「え? 私早死にしそうですか?」

 悲しい。長生きして友達をいっぱい作りたいのに。


「しょうがないですね。縁がないとは思いませんので、また今度誘います」

「もう誘うな・・・・・・。友達と言えば、この前お前が友達だと主張している金庫坐が、英雄省の奴を取り逃して減給されたらしいぞ」

「え、マジですか?」


 私が修行をしているうちにそんなことがあったなんて――。

 最近は家に戻ったら泥のように眠ることしかできていない。そろそろちゃんと修行を終え、友達と交流せねば。


「金庫坐葉染は、義親がまあ愚かな男だったからな――義娘とはいえ影響も出るだろう」

「金庫坐さんの悪口言いました?」

 さすがにそれは聞き逃せない。どうせ治るし骨の何本かは貰いたいところだが。


「まさか――流石にいくらファザコンでもあんな真似はしないだろう。あいつは聡明だしな。親父ほどはバカじゃない」

「金庫坐さんのお父さんが一体何を――おっと、また後でにしましょう」

 サンドウィッチを丁度40本飲み込んだところで、タイマーがバイブした。私はまたダイバースーツを着始める。傷がふさがっていることを確認し、立ち上がる。


「では、また修行を始めますか」

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