第31話『全面戦争は突然に』
二週間と2日が経過した。
南東東から北へ、さらにそこから西南西に飛ばした後、二連のフェイントをかけてストレートを私へ。
その弾を、私はやはり正面から受け止める。
腕を鞭のようにしならせ、弾の面に擦りつける感覚で弾く。
運動エネルギーをほとんどそのまま残し、弾は上空へ飛んだ。
しかしその膨大な弾速も、超重量の金属で作られている砲丸を天井まで届かせるには足りない。当然の帰結として、重力に従い落下する。
砲丸が地面に着く前に私は思いっきり跳躍して、腕を伸ばし弾を空中で掴む。
すでにどこにどのマネキンが居るかは確認済みだ。最も近場にいる、東のマネキンを思いっきり睨みつける。
危険を予測したマネキンは後ろに飛び跳ねる――予測済みだ。
私はその近く、東北東のマネキンを狙って思いっきり砲丸を放った。
AIに油断と言う概念があるのかなんなのか――もしくは意図的に造られた隙なのかもしれないが、東北東マネキンは一瞬フリーズした。
それでもかなり速いスピードで反応し、マネキンは抱え込むように砲丸を掴む。
しかし、砲丸はマネキンの胸の中で暴れ狂い――遂に、マネキンを吹っ飛ばした。
「いやーやっぱり君才能あるよねえ・・・・・・16日で修業をマスターしちゃうなんて」
ペドコン殺人鬼はそう私を評価する。殺人鬼に評価されることほどゾッとすることはこの世にどれだけあるのだろうか。
「この修行の本質が殺気の具現説明とその察知、並びに力の受け流しが本質だと気付いてからはまあ、とんとん拍子でレベルアップできました」
「じゃあその本質とやらを教えてもらえる? 今のがマグレだと困るしね」
棺はニヤニヤと笑い問う。
勿論。私は簡単に説明することができる。天才だから。
「殺気とはズバリ、空気の変化です。どんな存在でも0から100の速度をいきなり出すことは不可能。一定の加速がなければ高速を生み出すことは出来ないです。加速による微弱な空気の流れの変化。その微弱な変化を読めば理論上はどんな攻撃でも予測可能です」
「防御は?」
「力を横にずらすイメージですね。拳や剣、銃弾。勿論砲丸もですが――世の中の八割の武器はエネルギーの前後左右上下、一方向のベクトルが存在します。そのベクトルに真反対ではなく少し角度をずらすように撫でたり押したりすることで攻撃はあらぬ方向へ飛んでいきます。こちらは少し苦手ですね・・・・・・」
と言っても分身による肉壁もあるし、総合的には悪くないぐらいだろう。
16日の時間は、歌って踊れるオシャレで可愛い、しかも天才な私には物足りなくなる時間だった。もう少し早くできなかったことが悔しいぐらいだ。
「適当なことを言うなよ。今日までに二十二回死にかけてボロボロになってたじゃないか。君は確かに優秀だけど、身に余る傲慢は自分の身を滅ぼすよ?」
「地の文で語れば分からないんですから真実を言うのはやめてください」
「地の文ってなんだい? 君なんかが主人公になれるとでも?」
「主人公は私ですけど?」
閑話休題。メタな話は止めておこう。メッタメタに言われそうだ。
「しかしまあ、予定が間に合ってよかった」
「? なんか予定があるんですか? もしあなたの作品鑑賞会などと妄言を言うのなら、修行した私の肩慣らしに付き合ってもらうことになりますけど」
ペドコン殺人鬼は首を振り残念そうに微笑む。
「残念ながら違うよ。今回は二択でもなく、一択。バトル展開だけだ」
「なんですか? もうどんな任務が来ても驚きませんよ? 敵の本拠地に乗り込むより危険な任務なんて――」
「前よりはマシかもね。まあ、T都で大規模テロをやるって、噛み砕いて言えばそれだけの話だし」
「ほへぇ・・・・・・そりゃあ相手の懐に入り込んで人を攫ってくる前回よりはましかもしれませんが――ちなみにT都のどこを、どんなメンバーで攻撃するんですか?」
「二十三区全部。魔王軍全部隊の内、六割を投入する」
「え?」
「人数に直すと――八千人は居るんじゃないかな」
「ええと・・・・・・つまり?」
「あっちもまあ、英雄省の戦力の全て。合計四千人は全部出しきらないと勝つのは難しいだろうし――二階級特進。しないといいね」
という事で急激にクライマックス!
超スピードの極限展開! 勝つのは魔王軍か、それとも英雄省か!
正義対悪の、ありふれた大戦争! 未来無き未来に、悪意無き悪に、それからめいいっぱいの友情に、ありったけの絶望と祝福を!
日本終焉友情編始動!
最高の友情、見せてやる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
第三章終了です!
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