第29話『人脈の矛、鍛錬の盾』
「さて。君が僕の所に来たという事は凪音の問題は解決して、やりたいことができたという事だね?」
不愉快なペドコン殺人鬼は話をそう切り出した。
「・・・・・・要件は一つだけです。それ以上は話したくありません」
「冷たいなあ。もしかして僕のこと嫌い?」
「はい。嫌いです――冷たいってなんですか。いろんな幼女を凍らせているくせに。て、そんなことはどうでもいいんですよ」
私が話したいことは一つだけだ。それも、仕方なく離さなければいけないだけである。
「私が強くなるための、道を教えてください」
「ふむ? しかしそれなら金庫坐のほうが要領がいいと思うよ? 色々小技持ってるし――」
「断られました。なんか顔悪くしていたので、多分疲れているんだと思います。そこであなたに声を掛ける事にしました」
「なぜ。金庫坐に断られても凪音とか――」
「凪音さんにも声を掛けましたが、あなたに師事するように言われました。なので、ここに来ました」
「何で僕なんだい? 確かに僕はそれなりに優秀な働きをしている自負はあるけれど――」
そんなことは重要ではない。問題にもならない。
大事なのはただ一つだ。
「あなたが部隊長クラスの権限を持っているからですよ。あなたの権限を使えば魔王軍の施設や機密の8割に自由にアクセスできる。魔王軍は色々ブラックボックスが多いらしいですからね――私の調べられる範囲の外にある、すごく早く、すごく強くなれる特訓。そういうものを知りたいし、やりたいんです」
棺は首をかしげた。
「確かに当ては何個かあるけれど――どれも碌な物じゃないよ。ものによっては死ぬかもしれないし」
「かまいません。死にませんから」
「何で急に強さを求めだしたんだい? 君ってそんなキャラじゃなかったと思うんだけれど」
「怖いんですよ。友達をまた失うと言う想像を一瞬でもするだけで――すごく苦しくなるんです」
そう――私はただ、怖いのだ。
自分以外の全てを失うことも、自分が守れたかもしれなかった存在を守れないのも。
「あの時は確かに煙託さんを守れた可能性なんて欠片も無かったかもしれません。でも、もしかしたらもう少し強ければ煙託さんと一緒にいたかもしれない、そうしたら守れたかもしれない」
「そんなことはないよ。きっと君がいくら強くても君があそこにいることはなかっただろう」
「そう言う事じゃないんです。あの件に関して言えば、私は悪くありません。しかし、次も私が悪くないと誰が言えます?」
「ほう」
私が一番怖いことは友達が死ぬことじゃない。
最も殺意や悲しみ、憎しみを覚える事なら、あるいはそうなのかもしれないが、今は違う。
私にとって一番怖いことは、私自身の無力で友達を失う事だ。
「友達を守ることができない友達なんて、友達失格じゃないですか。私は格を失いたくない。胸を張って友達になりたい」
「・・・・・・歪んでいるね。しかしまあ、そういうところを買って君をスカウトしたんだ」
棺は背を向け、歩き出した。
「WTMCプログラム。鈍を業物に変えることが出来る程度には鍛錬できるプログラムだ。君ならきっと、才能ない人間なら油断しても勝てる程度にはなれるだろうね。そのかわり――確実に面倒でキツイプログラムだよ」
「かまいませんよ」
心の底からそう言えた。
「友達がいるのに心が折れるなんて、変じゃないですか」
棺に連れてこられた場所はそこまで変なものではなかった。
ただありきたりなグラウンド。四角いドッヂボールコートと、7つのマネキン以外にさして変なものもなかった。
「今回やる修行はずばりドッヂボールだよ」
「ドォッチボオルゥ?」
そりゃあまあ健康優良な日本の中学女子だったのだから、ドッヂボールぐらいは知っている。昔クラスメイトから集中砲火されてカウンターで五枚貫きをしたりしていた。
が、あんなものはしょせんオリンピック競技にもなっていないスポーツで、そんなもので修業になるとは到底思えないが――。
「君は一回ドッヂボール協会の人に殴られてきなさい。まあ、普通のドッヂボールじゃあボールが一瞬で壊れちゃうからね。今回使うボールはこれだよ」
そういうと棺は人の頭部程度の大きさの砲丸を取り出した。黒い武骨な砲丸で、ボウリングで使うものにも似ている。
「ちなみにこれは特殊金属性だから。50㎏有る」
「ははあ。つまり今回の修行と言うのはドッヂボールではなく、あのマネキンを使ったボウリングということですね?」
「いや? これを使ったドッヂボールだけど?」
何を言っているかわからない私をよそに、棺はボールを指で回しながら言う。
「君がやる修行は題して『砲丸ドッヂボール』だよ。膂力、脚力、体力、防御能力、反射神経、判断能力、戦略的思考、その他戦闘に必要な全ての要素が含まれた完全万能修行だよ」
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