第13話『私達VS拳法家①』

「分身は――多分全滅していますね」


 逃げた先の階段の影で私はそう切り出した。

 後だし情報になってしまったが私は分身の状況が分かる。

 能力に組み込まれていると言うよりは肌感覚でわかる。もっと言うと『なんとなくわかる』。現在地と、負傷具合、死んでるか生きているか程度の情報ならまあ誤差をほとんど出さず知れる。


「逃げ切れたわけはないでしょうし、どうせすぐに来ますよ。あの爺さん。あの時姫ちゃんが銃を当てていればこんなことには・・・・・・」

 丁寧に布石を敷いておく。弱みに付け込んでみよう。

「すみませんごめんなさいもうしませんゆるしてくださいおこらないでください」


 ゾーンが来た。いけるはず。

「私に許してほしいなら条件があります。それを満たしてくれるなら大抵のことは許しましょう」

「うう、それってなにぃ?」

 そして私は最後の一押しを加える。

「私と友達になることです」


 姫ちゃんは一瞬すごく嫌そうな顔をした後、しょうがないように頭を下げた。

「ううう・・・・・・わかりました。友達になるぅ」

「言質とりましたからね! もう取り消せませんからね!」


 しゃあこら! 友達ゲット! 希望の未来へレディーゴー!

 押してダメなら引いてみろ。しかしこれは逆パターンもあり得る。引いてダメなら押してみろ、だってままあることだ。


 これで友達も二人目。最高に愉快な気分だ。歌でも歌いたい。

 しかし残念なことに今は歌っている場合ではないのだ――命より大事な友達作りはやれる時にやるべきだが、歌って踊れるオシャレで可愛い私は別に歌手でもアイドルでもないので普通に歌より命が大切だ。


 仮に私がアイドルでも大切な友達の命もある。ここからは本気でやろう。

 友達の金庫坐さんがいつのまにか目の前から消えた私が言ったらダブスタになるかもしれないが。


「じゃあ姫ちゃんを許して友達になったところで作戦を立てていきましょう。使えるカードを把握するためにも姫ちゃん、能力を教えてください」

 姫ちゃんは声を震わせながら能力を語り始める。


「姫の能力『そして誰もいなくなった』は構築型で銃を作り出せるの・・・・・・銃弾を当てると一定時間経過で能力発動、相手は死んじゃう。銃弾自体には一切の殺傷能力はない、しいて言うならペイント弾に近いよ・・・・・・無効化条件は一応あるけど多分踏まれないと思う・・・・・・無効化条件は――」

「言わないでください。うっかり無効化したりするわけでもないんですよね? 盗聴されている可能性を考えると最低限の情報だけ出すのがベストです。私の能力も発動条件等の詳細は伏せますが――」

「やっと追いついたぞ。小娘ども」


 私が能力を説明する直前、階段の上からしわがれた声が聞こえた。

「12人」

 もう同じミスはしない。声が聞こえた瞬間に振り向くよりも先に能力を使わせずに畳み掛ける。


「ぼかーん」

 十二人の分身は階段の上に飛び跳ねると一斉に爆発する。煙託さんと一緒に考案した友情の即死コンボ。

「殺ったあ!?」

「多分行けたはず――」

「効かんの」


 爆風の中から、声が聞こえた。

 姫ちゃんは即座に銃を構え、立ち上る炎と煙によって姿の見えない敵に向かい弾丸を放つ。


「当たらぬよ。この儂、音越山彦の仁天拳法にとってその程度の攻撃もはや攻撃とは呼べぬ」


 爆炎が消える・・・・・・視界がクリアになっていく。そうしたら敵の姿を認識できるはずだし攻撃も当たる――いや。その想定は余りにも甘い。攻撃は避けられ、出し抜かれ、不意打ちされ続けてきた現状を考えるとそんなのは作戦として成り立っていない。


 油断していた親を殺した程度の殺人経験しかない私に二手三手先を読む力は残念ながらない。

 でも私には友達の煙託さんと一緒にやった模擬選経験がある。だから一手先なら――。


「12人。味方以外の人を見つけて襲って」


 『分神』のメリットとしてあっちからのテレパシーで情報収集みたいな真似はできないが、命令をしたらほぼオートで動いてくれることがある。わざわざ追加指示をしなくても勝手に戦ってくれるのだ。

 しかしオート行動による問題点がある。――基本的にプログラミングしたこと以外は追加で指示を出さなければそんなに考えて行動しないことだ。


 だが知能が低いことよるメリットがないわけではない。

 なぜなら――

「ぐうっ!」


 それは先入観や慢心すらも知能と共になくなり、ただ愚直に周囲を見渡し、敵を探すロボットして運用できるだからだ。

 後ろを見る。


 裾の長いカンフー服を着た、長くて白い髪と髭を持つお爺さんが私の分身によって突き飛ばされていた。

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