第9話『初心の終身』

「この人って凪音さんですよね」


 ギターを持ってピースを取っている美人の女の人。アゲハタトゥーもあるし間違いない。凪音心さんだ。


「俺は死ぬのが怖くない。復讐のためにこの命を燃やすことができたなら。だが――仲間の中で一番精神が危うい、あいつを残して死ぬかもしれないのだけは

看過できない」

「あの人そんなに危ういんですか? どっちかと言えば姫ちゃんのほうが壊れそうな感じですが」

「あいつはあれで問題ない。ああ見えて生存欲求はあるし、エゴイストだ。他を破壊しても自分を生かすことができる。お前と同じ人種だ」

「ちょっと待ってください。私は極限まで利他的な――」

 煙託さんは私の言葉を無視して続ける。


「だが凪音は違う。一見強靭な狂人に見えるが根本的な所はどこまでも常人だ。狂いきれない。それゆえ、自暴自棄になりただでさえ破滅的な行動が加速する恐れがある」

 あれは狂っていないのか? と言う無粋な質問は引っ込める。発狂にも強弱や種類があるのだろう。


「いつか、俺がいつかあいつを守れなくなった時に、あいつを支えてくれる奴をずっと求めていた」

「なるほどつまり私に凪音さんを支えてほしいと言うわけですね」

「噛み砕いていえばそうなる。お前以外の仲間ではあいつがどん底に落ちた時助けられない。人間性に問題があるからだ。お前の人間性も問題しかないが、しかし友情への異常な執着と普通の会話ができるだけの知能。あいつを託すにはうってつけの人間だろう」

 褒められた程度で照れるような素直な性格ではないがやはり嬉しいは嬉しい。


「褒めたつもりはない。消去法でお前しかいないだけで本当はお前に託すことなど絶対に避けたい」

「どうでもいいですよ。私に託してくれたという事実こそが大事なのです」


 これを足掛かりに一人また一人と友達を増やせる。頑張った甲斐があった。

 伏線回収もされたし、良いことだらけだ。

 最初に言っていた初めてと言っていた。

 あれは初めての友達と言う意味だ。



 不純な意味は何もない。

















 私たち二人は激闘の末友達になると言う古のヤンキー漫画のようなことをした後。

「お腹が減りました。おすすめの店を教えてください」

「パックビーツと言う美味い洋食屋がある。ハンバーガーが最高だ」

とスムーズな会話を得て早めの夜ご飯を食べているわけだ。

 例によってふわふわ浮遊している店舗なのは知らんぷりをするとして、美味そうな洋食屋らしい小奇麗さが見て取れる。

 出てきたバーガーもとても美味しく、私は大いに舌鼓を打つことができたのだが――。

 

「やはりここの飯は美味いな。いくらでも食える」

 

煙託さんは仮面を外して渋めのイケメンな素顔を惜しげなく晒し、ぱくぱくと山盛りのチキン南蛮バーガーを食べていた。

 ・・・・・・ていうかやっぱ仮面はただのファッションか。

 顔に大きな傷があるとかじゃないのか。


「いやーそれにしてもすごいですね。あの火の龍。禍々しいし神々しいし、見とれちゃいますよ。使い方もうまかったし。なんですかあの防御の仕方、熱くないんですか?」

「素人に馬鹿にされるような技術では生き残れはしない。まして俺は、あの殺人鬼を除けば21部隊で最も強い」

「それで相談ですけど魔法の上手い使い方を教えてくれませんか?」

「・・・・・・なぜだ?」

 煙託さん


「友達を作るまで死ねないんですよ。私は命懸けでかかってくる相手を、命を懸けずに安定して殺さないといけませんから」

 ん? なんで目の前にいるイケメンはゴーヤを生で1㎏食べたような顔をしているんだ?


「都合がいいことを言いすぎだ。そんなことが出来るわけがないだろう」

「死ににくくすることは、できるはずですよね? それに私が死んだら凪音さんを守れませんから」

「わかった。教えてやる。魔法での戦い方を」

 チキン南蛮バーガーをタレすら余すことなく全て食いつくし仮面を付け直し、足を組み、話し始める。


「まず、忘れているかもしれないが俺たち自身の肉体も化物じみている力を持っている。その拳は軽自動車をスクラップにし、その蹴りは電柱を折る――ほとんど能力を使わず徒手空拳だけで戦闘をする奴もいる。つまり相手からすればお前を相手にするという事はかなりの脅威なわけだ。なにせ13人の化物を同時に相手どらなければいけないという事だからな」

 まあじゃなきゃ分身を足場に空中散歩など、出来るわけはない


「なるほど――という事は私の能力は最強という事ですか? 数の差を押し付けるという面において」

「カタログスペックだけは立派だが、本体のお前が荒削りすぎる。」

「荒削りでもベテランを倒せる私は才能の塊じゃないですか。余裕ですよ余裕」

「馬鹿なことを言うな。だいたい俺は先の戦闘でかなり手を抜いている――」

 まあ実際問題今の私がただ囲んで殴ったとしても、あまり効果的ではないだろう。私はカラテにも一切精通してないし。


「それはともかく、お前はまだまだ自分に合った戦法を確立できていない。俺の場合はとにかく近接に持ち込ませずに噴火鰻で仲間の援護や高火力の押し付けに徹すると言う、ある程度の定石が存在する」

「定石、ですか」

「お前の能力、『分神』はお前自身を完全に反映する分身を生み出す。さてお前はこの特徴からどんな戦法を思い浮かべる?」

「今までにないバリエーションと言うなら――爆弾特攻での運用とかですかね」

 自分そっくりの分身を出して、相手を攪乱しつつ自爆攻撃。


 近接戦を仕掛けてきた相手へのカウンターとしてもいい。不意を打って一撃必殺を狙うのもいいし、乱戦状態に崩しを入れるのも、普通の先頭に織り交ぜるのもいい。地形破壊だってできる。

 とにかく汎用性が高いだろうし、当面の火力も確保できる。


「八十点の答えだな。百点満点中。具体的な装備や爆弾のことが何一つ考えられていない」

「いやそんな――」

 そんなこと言われても私は魔王軍に入ったばかりできちんとした装備の入手方法も何も知らない――と言おうとしたところで閃いた。


「じゃあ教えてください。武器だけと言わず魔王軍のことを、全て」

「俺がか? 六十点に下降だ。そういうことは殺人鬼のゴミに聞いた方がいい。あいつは生かしてはいかない邪悪だが、あいつのほうが魔王軍のことはよく知って――」

「なに言ってるんですか。あなた以外にこんなこと頼めませんよ」


 あんな男になにかを頼むなんて屈辱を受けたくないという事もあるが――なにより。

「友達じゃないですか、私達」





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             第一章終了です!

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