第8話『試験終了・煙託一終の終わらない過去』

 それではネタバラシ編。

 歌って踊れるオシャレで可愛い私が上空からの襲撃を成功させたトリックを教えよう。

 最初は分身を出し、踏み台にしてジャンプ。

 続いて飛びながら分身を空中に召喚。

 その分身を踏み台にさらに高いところに飛ぶ。

 分身が地面に落ちる前に分身を消して自分が落ちる前に足場用の分身を出しておく。それを踏み台にする。


 それを何度も繰り返すことで華麗な少女空中散歩を実現させるのだ。

 しかし分身が落ちなくても華麗な少女がスカートをはきながら空中散歩をしていたら、よほどの馬鹿でもない限り、普通は気づかれてしまうだろう。

 それではまずいのだ。私のやるべきことは美少女JCの空中散歩ショーではなく、美少女戦士の襲撃イリュージョンショーなのだから。


 だから、意識をそらすために分身に石ころを投げさせて処理に脳を使わせた。

 大胆な作戦を成功させるために微妙で地味な嫌がらせを繰り返し思考力を傾ける。


 出来のいい、褒められた戦法とドヤ顔する気はないが文句を言われる筋合いも一切ない。

 まあでもばれない自信はあった。煙託さんかなり自信があるタイプと見えるし、つい最近までカタギだった人間になんか負けないと過信するだろうし。


「もう傷治っている。身体能力の飛躍的向上に、科学が追い付かない異能こと魔法。そして圧倒的な再生能力。確かにこれで人間名乗るのは無理筋だなー」

 もう自分は完全に化物だという事をようやく認識できた気がした。

 別にいやではなかった。まあ人間の上位互換みたいなもんだし、別に人間しか食べられなくなるとかもないから実際問題、何一つ支障は無い。


「あのー朝ですよー。起きる時間ですよー。朝ですからねー」

 煙託さんの頬をペチペチと高速で叩く。

 百回ぐらいペチペチしたところでうんざりとした顔で起きてくれた。

「・・・・・・敗北を噛みしめさせてほしいのだが」

「マゾなんですか? 負けたことなんて噛みしめても嫌な気持ちになるだけでしょう」


 私の偏見であり、戯言でしかないのだが、見た目的に煙託さんはサゾに見える。意外とマゾなのだろうか。鞭と蝋燭持っていそうだが。能力も炎だし。


「奥の手を封じていたとはいえ負けたことは事実だから反省をしなければならない。命は別段惜しくないが俺にはまだやるべきことがあるからな」

「十歳以上年下の女の子相手に言い訳するなんて羞恥心は刺激されないんですか? それともあなたはマゾだから羞恥心苛まれるのは本望なんですか?」

「羞恥心などとうに無くなった。仲間を裏切った時からな――少し昔の話をしていいか? 長くなるが」

「いいですよ。友達の昔話を聞くのは当たり前ですから」

 昔話も長い話も、友達の話ならいくらでも聞くことにしている。


「俺を勝手にお前の友人にしないでもらおうか」

「では話なんて聞きません。話したいなら友達になってください」

「そんな態度では友人ができるとは思えないな。最初は皆他人なのだから」

 なるほど。今までの私にはなかった考えだ。参考になる。

「では聞きます。話してください。聞き終わったら私たちは友達です」

「・・・・・・まあいいだろう」








「俺は昔、英雄省に在籍していた。


「動機は唯一の肉親である妹の命を、そして妹の生きる世界を守るためと言う平凡な理由だ。


「そこで無二の友にも出会えた。五年前絶交してしまったが。


「妹は少し自信家だが――人を引き付ける魅力があったように思う。まだ中学生だと言うのに、女優活動もやっていた。


「あいつの為ならいくらでも頑張れた。どんな汚れ仕事だって苦ではなかった。

「俺の宝物だ。昔も今も、そして未来でも変わらず。


「そんな妹が犯されたのは、中学三年生の2月だった。

「あいつは全てを失った。



「最初に純潔を失った――初恋の人にあげたかったとあいつは言っていたよ。

「初めて手に入れたドラマのヒロイン役を失った。あいつは毎日毎日、誰よりも努力を重ねて、やっと手に入れた役だった。

「友も失った。汚らわしいものでも見るかのように、虐げられ、嘲笑されたと泣いていた。


「一切の非がない妹を、社会は攻撃した。ある者は、どうせ枕営業をやっていたのだから良いだろうと、ある者は、女優のような目立つ職に就いたのだから自業自得だと。



「夢も、努力も、過去も、未来も、友も、ついには命すらも妹は失った。

「妹は睡眠薬を使って自殺した。まだ15歳だった。俺がもう少し早く仕事を終え、帰っていれば救えたかもしれない。

「義務教育を修めてもいない、何も悪くない妹が――全てを失った。

「いや――奪われた。



「俺は妹の葬式を一通り終わらせた後、レイプ魔のいる裁判所に向かった。

「犯した理由は、未来ある妹への嫉妬と劣情だった。

「どうでもいい理由だ。仮にあいつを犯さなければ世界が滅んでいたと言われても、俺は同じことをしていただろう。


「動機を聞いた後、俺は――全員殺した。レイプ魔も、弁護士も、検事も、裁判長も、傍聴席にいる奴らも噴火鰻で、全員焼き尽くした。

「出来るだけ思考を残し、体から肉汁が出る感覚を与え、最後まで苦しめて焼き殺す技術を俺は知っていた。あの日初めて使ったし、あの日を最後に使っていないが。


「妹の全てを奪った奴が死刑以外の罪になることが――そして、それを当然のこととして考えている奴らのことを、俺は許せなかった。

「無論妹の通っていた中学校にも行き、全員殺した。

「まだ殺す必要があった。妹を庇わなかった、妹を助けようともしなかった、妹を殺した社会を滅ぼすまで殺し尽す必要があった。

「たとえそれが、無二の親友を失うことになったとしても。

「そして俺は魔王軍になった。全てを殺し尽す為に」







 重い話だった。ちゃんと嫌な話だ。

「辛い思い出みたいですね。トラウマになっているみたいですし」

「その辛さの本質を理解することはお前に――いや、誰にだってできない。自分の痛みや苦しみを他人に分けることなどできない。痛みが減ることはない」

「痛みを幸せで塗りつぶすことはできますよ。それが友達の良さでしょう」

「塗りつぶせなかったのが俺だ。親友の存在だけじゃ俺は耐えられなかった。・・・・・・俺が守れなくなった後、守ってほしい奴がいる」


 そう言うと何やらロケットペンダントを取り出した。

「中を見ろ」

 私は鍵を外して中を見る。

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