第2話『魔王の正体と魔王軍入軍試験』
「ここが魔王軍本部に行くための秘密の扉だよ」
「いやどう見てもただの公衆トイレですよね?」
棺と一緒に脱獄した私は(脱獄の際犠牲なった警備員さんの惨状は割愛しよう)警察や英雄省が出てくる前にさっさと逃げ出して、棺がいう魔王軍の本拠地につながる場所に来た。来たのだが・・・・・・。
「なんで今時センサー式でもないおんぼろ公衆トイレに来たんですか?」
「失礼だよ。こういうトイレどころかトイレも使えないところに住んでいる人もいるんだから」
「まさかトイレに引きずり込んで私の純潔を奪う気ですか? 私はロリコンの毒牙によって純潔を奪われるんですか?」
ロリコンは別に勝手にどこかでやっていればいいが、私を巻き込まないでほしい。
「君の脳細胞の色は灰色じゃなくてショッキングピンクなのかい? それとも僕がそんなひどいことをする男に見えるのかい?」
「あんな芸術品を作る人がどんな男に見えるかは一目瞭然でしょう」
「あんな美しい物作る人は人格も優れている? ははそんなことはないよ。作者と作品は別だからね、混合してはいけない。僕はただのどこにでもいるしがない芸術家だよ。僕の作品は幼女の魅力を最大限出しているだけで、僕の力は微々たるもの。美しいのは彼女たちだ」
「皮肉をうまく伝えることは難しいですね。・・・・・・で襲うつもりじゃないならなんだっていうんですか?」
「さっき説明したとおりだ。ここから魔王軍の本拠地に行く」
それだけ喋ると棺はトイレにくっついてる水を流すボタンを押し始めた。
まず一番右端のボタンを二回。続いて左から二番目のボタンを三回。最後に右から数えて二番目のボタンを三回押した。
「なにをやって――」
「さあ行くよ!」
私の言葉を遮り一番出口に近い個室トイレの扉を勢い良く開け、私をトイレの中に引きずり込んだ。
一瞬呆然としてしまった私の隙を突き、棺は鍵を閉める。
・・・・・・やはり変態か。
なかば諦めに近い感情を持ちつつそれでも私はこのケダモノから身を守る方法を考え――
「――あれ? 襲ってこないんですか?」
「違うとさっき言ったはずだけど? そんなことより着いたよ。魔王軍本部に」
なんだって? 着いたって? そんなはずはない。だって私はトイレから一歩も動いていないはず――。
考え込む私を放って棺は扉を開ける。
扉の向こう側の景色は私の熟考を介抱するのに十分な景色だった。
高さ300mはあるであろう柱を多種多様な扉が埋め尽くし、そんな柱が何本も連なっていた。
空中には鳥のような物や、雲のような物。コンビニの建物をそのまま浮かせたようなものまで、多種多様なオブジェクトが浮かんでいた。
横長のドーム状の形をした透明な屋根の上にはすべてを飲み込んでしまいそうな暗闇を内包した深海が広がっていた。
一言でいうなら――圧巻だった。
「あのトイレはねいわゆる魔道具が仕込まれていて、特定の便器の水を流して特定の個室に入り鍵を閉めることで瞬間移動できるんだ。消耗品で同じところでは3回も使えないけどまあ便利な魔道具だね」
「なるほど。次は2つ目の質問です。ここって水の中であっていますよね?」
「うんその通り。僕たちはわれらが魔王軍が誇る超巨大潜水艦メタホエール号に乗っている。魔法と科学の粋を集めて作られているから核爆弾が直撃しても沈まないだろうね」
「なるほど。少なくとも海のモズクになる可能性は殆ど排除されたというわけですね?」
さて私たちがどこで話しているかと聞かれれば反抗期で思春期な私は『世界のどこか』とひねくれた回答をしたいところだがそうはいくまい。
ただ事実を淡々と巨大潜水艦の中と答えてもいいが、いささか味気なく親切身に書ける。そこで詳細にわかりやすく解説すると私たちは今『巨大な紫色の赤ベコ』に乗りながら会話をしているのだ。盛大に矛盾しているが問題ない。この程度のダブルスタンダード人生で何度あったことか。
だいたい赤ベコが紫色なのだからそう表現するしかあるまい。紫ベコだとでもいえばいいのか? 語感が悪すぎるだろう。
そんな紫色の赤ベコに乗りながら私はロリコン殺人鬼の上司と語り合っているわけだ。
「今から君は魔王様に血を貰い魔法を使えるようになってもらう。それは何十年にも渡って世界に牙をむく『魔王』の眷属になるという事。すなわち君は世界に反逆するというわけだ。その覚悟はあるのかい?」
「どうせなら魔法少女がいいですね。私少女ですから」
「君の年齢はもう少女じゃないと思うけどね」
「いくらなんでも15歳は少女ですよ。それともあなたのストライクゾーンじゃないってことですか? 安心しました」
「いや僕のストライクゾーンは幼女。幼女は3~7歳まで。少女と呼べるのはその名のとおり小学生までかな」
「気持ち悪いので殺していいですか?」
本当に気持ち悪い。普通に今すぐ死んだほうがいいと思う。
「なにをだい?」
「害虫ですよ。世界にとっての」
「虫を怖がるなんて、君にも人間らしさがあったんだね」
「悪い冗談ですね。あなたが人間らしさを語るなんて」
「でも君はもうすぐ人間をやめなきゃいけない。それを君は自覚しているのかな?」
棺は見透かしたような視線をこちらに向ける。かなり不愉快だ。
「親を殺しているのに何も反省していない時点で畜生でしょう。人間なんて恐れ多くて名乗れませんよ。なら生物学上も人間を辞めた方が健康的です」
「わかった。ただ覚悟はしておいたほうがいい。少なくとも一ヶ月以内に人を殺さなきゃいけないんだから」
「一人殺したら殺人者でも10万人殺したら何とやらですよ。後99999人殺さなきゃいけないんですから忙しくなりますね」
「後輩がそんなこと言ってくれるなんて先輩として頼もしいよ。安心して作品作りに没頭できる――着いたよ」
10分ほど飛び回っていたがやっと到着したらしい。
「ここが魔王軍の心臓。心臓の間だ」
個人的感想としては大したことがないと言うか・・・・・・。
むしろ今までの景色が異世界じみていたのでその反動もあるだろうが、しかしそれにしても普通の場所だった。
見た目を簡潔に説明するなら木と煉瓦とガラスでできたキリスト教の教会のようで、そりゃあ立派ではあるのだが普通の街にもありそうな平凡な建物だった。空中に浮いているのが唯一の疑問点にはなるのだが。
「じゃあ開けるよ」
棺は平凡極まる個性1つない鍵を差し込み、何一つ疑問の余地すらなくいたって普通にドアが開いた。
中も何一つ面白味のない教会の風景だった。奇も衒いもない宗教画に十字架。ありきたりな、どこにでもある教会だった。
ただ一つを除いて。
「・・・・・・だから心臓の間で、魔王軍の心臓なんですね」
「簡単で捻りの無い。それでいて良い部屋だろ? この部屋を見て僕は『むき出しの小さな心音』を創ったんだ」
そこにはたった一つしかし無視出来ようもないそれだけで普通の教会の全てを異常にするものがあった。
十字架の下には台座があった。
台座の上には心臓が置かれていた。
ドクンドクンと心臓から湧き出る血が床を赤く染め上げている。
「魔王の心臓。死んで心臓だけになり、それでも魔法を人間に不相応な力を与え、争わせ、世界を混乱させる。これが魔王様の正体さ」
魔王が今どんな状況になっているかはまだ世間的には公表されてなく、国家秘密にも指定されていたはずだが・・・・・・まさかこんなグロイことになっていたとは。映画ならばR15以上の要求は間違いあるまい。
まさか心臓だけでドクドク動いているなんて・・・・・・。
「ちなみに心臓は増やそうと思えば増やせるよ。ひとかけらの細胞があればそこから増やせちゃうし――それはともかく、じゃあこの心臓から出ている血、あるよね?」
「はい」
「それ飲んで」
「はあ?」
何を言っているんだこのロリコン変態殺人鬼は。頭おかしいのか? 頭がおかしくなければあんなものを作るわけはないが・・・・・・。
「はあ? と言われてもね。飲んでもらわないと魔法が使えないし」
「え、ちょっと待ってください。まさか、これを飲むことで初めて魔法が使えるようになると言うんですか?」
「うん」
「じゃあせめて、せめてこの空間には、血をくみ上げるためのコップ的なものはないんですか?」
「直だよ。直飲み」
「嘘でしょ?」
人生で一度もここまで怖気づいたことないぞ? 生理的嫌悪がすごい。生理の時の嫌悪よりも全然すごい。私そんなに重くないし。
「飲む勇気が無いのかい? 良いよ。別に飲まなくても。飲んでもらえないなら邪魔だし死んで貰わないといけないけどね」
「飲みますよ!? そんなこと言われたら飲まないわけにいかないでしょう!?」
私はおそるおそる心臓を持ち上げ、血が湧き出る大動脈を口に持っていく――
血が一滴舌に触れた瞬間。視界が深紅色に暗転した。
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