史上最強最悪の悪役JCが悪の組織で送る青春は、戦友と共に異能を使って敵を殺すことである

嘘宮ヨフカシ

1章

第1話『一人になった日』

 その日、私は母親を失った。そして、その一週間後世界を股にかける悪の組織の一員になった。



 帰路にクラスメイトの声が響く。

「やっぱかっこいいよね。英雄省の人。ねえ、あんたもそう思わない?」

「わかるー。イケメンの人多いよね。初任給も30万以上は確定しているらしいし最高じゃない?」

「魔王軍を命がけで倒して、私たち守ってくれるんだよねー。やっぱかっこいいわ」


 話している話題は魔法によるテロを対策するための組織。英雄省のことのようだ。

 私も話の輪に入りたいが・・・・・・難しいだろう。

「私付き合うなら英雄省の人がいい!」

「無理でーす。あんたには見合いませーん。万が一結婚できたとしても確か英雄省って殉職率やばいんでしょ? 付き合えてもすぐ死んじゃうよ」

「魔王軍を殺すための名誉の死でしょ? 誉れじゃん」

「そもそもあんな暴虐の限りを尽くした魔王の部下なんて――」


 私は最後までクラスメイトのお喋りを盗み聞きしなかった。

 これは別に話を聞くのが嫌になったとかではなく単純に自分の住むマンションに着き、家の中に入っただけだ。


「私も友達が欲しいなーやっぱ」


 誰にも言うでもなくアパートの駐車場の前で呟いてしまう。


 ぶっちゃけた話家にはあまり帰りたくない。

 だからと言って学校はとても居心地がいいとは言えないし、生きる為にも帰宅するしかないが。

 階段を上り『美翠』と書かれた表札のある部屋のドアを開ける。

 外に流れるアルコールとつまみの臭い。


「あ、帰ってきたの。じゃあ酒買ってきて」

 臭いの元が言葉を発する。私をこの世に産み落とした女性は残念ながら肝臓を大事にしない。


「・・・・・・疲れているから嫌なんだけど。ママ」

「なに、あんたを産んだのはだれかわかってんの? あんた産んだせいで私は全てを失ったのよ?」


 母の言葉は間違ってはいない。

 17歳にして国民的女優だった母、美翠蓮香は13年前ヤクザの父との交際をスクープされた。


 ちなみにスクープの決め手となってしまったのは身ごもり、時期的に堕ろすこともできなくなった、幼いながら母そっくりな顔をした私、美翠水蓮だ。


 ヤクザは良くない。ヤクザと結婚するのもよくない。良くない事をした人を使い続けるのは良くない。この美しいほどスムーズな流れで母は芸能事務所から追放された。

 ここからならまだヤクザの新妻としてやって行けただろうし、実際ある程度そうしていた時期もあったのだが残念なことに私が生まれて6年後、父の所属していた組は壊滅した。


 当然のように畳の上ではない、銃弾のシャワーを浴びて死んだ父が残したものはヤクザの家族の汚名だけだった――。


 冷静に考えると実に自業自得と言うか、私は何も悪くないと言いたくなる話だ。悪いのはどう考えても母と父だろう。暴力団、ダメ、絶対。


「あなたが居なければ私は芸能界からいなくならず済んだ! だからあなたはおんをかえひへ!」


 ああ、またこのセリフか。辟易する。

 そもそも働かずに借金作りまくって生活して債務の山を築きあげているこの人に、私が返すべき恩なんてあるのだろうか。この人は私から恩を返してもらう前に自分の借金を返すべきなのではなかろうか。


「はっはとハイボールはってひへ!」

「はいはい。5本買ってくるから待っててねー」


 私は開けたばかりの扉を開けた。

 夜の澄んだ空気を吸って酒とつまみの臭いを中和しつつ、では行こうと階段の方向を見る。

 そこにはポツンと工具箱が置かれていた。

 別に珍しくない。隣の部屋の住人が大工で、酒を飲んだ日はよく忘れているのだ。

 しかしそこで私はふと考える。


「このままだとお母さんのせいで人生が詰んじゃう。で、だからと言って自殺はしたくない。死なないで友達を作ってみたい。歌って踊れる可愛い15の少女が金なし家出はまあ自殺行為だろう。私はお母さんがあまり好きではない。と言うか、かなり酷い目にあわされていて嫌いだ。そして私はまだ15歳。ここから導ける答えは――」


 物は試しと私はおもむろに工具箱を開ける。

 工具箱の中に入っているものは使い方がよくわからないものも多かったが、しかしそれでも、どんなものかぐらいは知っていて一番使いやすそうな金槌を取り出し、自分の住む部屋に戻り扉をそっと開く。


 母はスマホを見ていてこちらに気付いていない。酒で鈍くなっているだろうし気づかれても無理やり行けるだろうが。

 こっそり静かに私は母に忍び寄り、金槌を構え、狙いをつける。

 そして金槌を母のつむじに向かって――思いっきり振り下ろす。


 ガン!


 勢いのよい良い音が飛んだ気がした。気のせいかもしれない。


「あんた――」

 一撃でやれなかったか。仕方ない、痛いだろうが何回もやるしかないだろう。こんなでも一応親だし少しぐらいの親不孝は許してくれるはずだ。


 ガン! ガンガンガンガン!


 6発目でようやく母は死んだ。可哀そうに苦しんで死んだに違いない。

 まあ憐れんでいても事態は良くならないので、どうせ肝臓硬化で死んでもトータルでは同じぐらい苦しいだろうと開き直り切り替える。


 推理小説ならここからどうやって証拠隠蔽するか悩むところだが、私は証拠隠蔽する気がない。

 証拠を隠蔽して捕まらなかったら目的を達成できない。私の目的は少年院に入ることなのだから。

 罪が重くなるのは困るのでさっさと自首して減刑するに限る。


 少年法+現在の生活状況+初犯+突発的で悪質ではない犯行+裁判で涙ながらの訴え。

 これだけそろえば十年ぐらいで出られるだろう。孤児院はギリギリ入れなさそうだし、1人暮らしで頑張るよりは衣食住がでてきてそれなりに勉強もできる少年院のほうが良かろう。


 と、そんなことを考え始めたところで足に違和感を覚えた。

「ん? あ、痛たっ」

 足元を見るとお母さんが私の足をものすごい力で握っている。死ぬ直前ありえない程人間はパワーを出すと言うし、早く警察に来て外してもらわねば。骨、折れていないといいけど。

「まさか死後も足を引っ張られるとは予想もしてなかったよ。お母さん」

 私は大した感慨もなく呟いた。自分でもわかるほど嫌な台詞だった。









 私はなんて罪深い少女だろう。あろうことかたった一人の肉親を残酷に殺すなんて・・・・・・反省しています。神様どうか反省することのできるいたいけな少女の罪を赦してください・・・・・・。


 ・・・・・・ヒマだからと言って、思っていないことを祈ってもしょうがあるまい。

 私は反省などするわけはないし、自分のことを善良などと思っていないのだから。



 さてこのように私が独白している素敵な場所がどこかと聞かれれば留置場の狭い部屋としか言えない。

 閉じ込められているのだ。私は。

 あれから一週間たち、私の裁判の為にいろんな大人の人が頑張っている。

 凶器や家庭環境、事件時の状況や目撃証言。その他いろいろな物を集めたり、国立弁護士を呼んだりご苦労なことだ。

 私のような小娘を裁くためだけにいい大人があくせくしているというのは、一国の王女様になったようでなかなか悪い気分じゃない。本当税金様様だ。



 問題は当分シャバには出られないことだが、なにも外の世界だけが世界じゃない。塀の中も裁判所の中も立派な世界で社会だ。せいぜい社会勉強しよう。そして友達を作ろう。精神が限界の子を狙い囲えば比較的簡単に懐柔できる――。


 そんなことをつらつらと考えていると部屋のドアが「トントトトン!」と鳴った。

 畳の上に寝転がっていた私は珍しいノックの鳴らし方だなと思いながら、柵の方向を見る。


 オールバックの壮年の男がたっていた。紳士的な雰囲気に白いスーツと黒いコートのコントラストが良く似合う。


 が、私が一番に注目したのはそこではない。

 男は血に塗れた長い十字剣を持っていた。

 その長い刀身は、まるで次は私を切り裂く番だとでも言いたげに、血に濡れた刀身を鈍く、獰猛に光らせている。


 私が困惑している所にその男は語りかける。

「こんにちは。美翠水蓮君。僕は君を魔王軍第21戦闘部隊にスカウトしに来たよ」



 反社会的組織とは父親の関係で繋がりがあり、何度も見たことがある。危ないハーブや銃火器を見たことは一度や二度ではない。


 しかしそんな地元ヤクザとは規模が違う。

 魔王の眷属、秩序の敵、世界の破壊者と言われ日本中から嫌悪されている反社会的組織の中の反社会組織。世界中を敵に回す組織の一つ。

 それが魔王軍のはずだ。

 そんなところから私にスカウトが来るなんて、にわかには信じられない。


「というか、今思い出しましたけど、あ、貴方って・・・・・・」

「僕の名前は棺悟ひつぎさとるという」


 その瞬間私は思いっきりのけぞった。

 棺悟。男。年齢はたしか30代ぐらい。

 幼女専門の殺人鬼。幼女の死体をバラバラにして無茶苦茶にくっつけて氷漬けにし、芸術と言い始める。猟奇殺人鬼。


 作品の例として、

 四肢をもいだ裸の幼女に、違う幼女の手で作った翼をくっつけた『凍てつく天使』


 自作セーラー服を着せた幼女の周りに十個ほど幼女の目を漂わせ凍らせた『いつまでも変わらない最大のアイ』


 私が知っている有名どころはこれぐらいだが総作品数は百以上。被害にあった女の子は六百人以上と言う恐るべき殺人鬼。

 あんまりニュースを見ていない私でも知っているくらい有名な殺人鬼だ。まあいつの間にかコンプライアンスの都合で全然見なくなったが・・・・・・。

 すると私の考えなんて読んでいると言いたげに棺は微笑みながらしゃべり出す。


「魔王軍のスカウトが来てね。OKを出したんだ。今は魔法のおかげで作りやすくなった作品で幼女の美しさ可憐さを追求しつつ、魔王軍第21戦闘部隊隊長兼スカウトをやっているよ」

「正気の人事とは思えませんけど・・・・・・あなたみたいな殺人鬼に勧誘やリーダーを任せるなんて」


 私は思わず突っ込んでしまった。殺人鬼相手に。

 しかしそこは見た目通り紳士な男で、にこやかに微笑みながら話を進めてくれた。


「いや、自分でも人を見る目やカリスマはないと思っているよ。でも僕は第21戦闘部隊の中で、一番大人でまともだからね。しょうがないんだ・・・・・・と言うか僕以外は殆ど少年兵か気狂いばかりだという話なんだけど」

「そんなところに健全極まる少女を勧誘するんですか?」

「君が健全? 少なくともこの国では親殺しは凄く不健全だと思うんだけどね」

「しょうがないでしょう。あのままだと高校にも行けなさそうだったんですし、あのぐらいの状況ならそりゃ殺すのが最善手ですよ。違いますか? 実名報道もされないんですよ?」


 本当にしょうがない。どうにもならなかった。持っているカードで勝負しただけだ。


「仮に君がそう思っているとしても君の行動は唐突すぎる。調べた限り、その日は本当にいつも通り、――なんならいつもと違って暴力後一つないのにいきなり親を殺すなんてあまりに不自然だ」


「なんなんですかその諜報能力は。どうやってそんな情報を得ているんですか?

 まあ良いじゃないですか別にあんな人死んだってきっと誰も悲しまないでしょ。一番悲しんであげるべき娘が言っているんですから間違いないです」


「自分で殺しておいて酷い言い草だね。しかしまあ、悪くない。衝動性とどす黒い精神性を買って、僕は君をスカウトしに来たんだから。正直君は予想以上だったよ。親を殺して少しも感情が動いてないなんて、普通は親を殺すというのは+であれ-であれ感情が揺れ動くはず――」


「言っておきますけど、あんなところに入るつもりは一切ありませんからね。魔法は英雄省の人以外が使ったら無期懲役、と言うか地下で人体実験されるのが確定。端的に言えば人権剥奪。そんな目にあいに行くなんて正気の沙汰じゃないでしょうに」


 どうも私が特別視されているらしいので普通のことを言って中和する。

私のような平凡な善人、お呼びではないだろう。


「確かに正気の沙汰じゃない。それは認めよう。でも、このスカウトは決して正気じゃない君にとって、悪いものじゃないんだよ」

「意味が分からないですね。日本中を敵に回して手に入るメリットがあるとは思えません。私の理想の生活はそれなりに安定している職に就き、インターネットで配信を見ながら美味しいものを食べ、時々エステやサウナ、温泉に行く。そんな生活がしたいんです」

「インターネットは使えるよ。エステティシャンは最高なのがいるし、サウナも風呂も極上だ。組織専属の料理人は最低でも星1つ以上の腕は保障する」


 一筋縄ではいかないが騙されてはいけない。砂糖のように甘い言葉の裏に青酸カリが塗られていたらどうする。


「戦闘部隊と言いましたね。つまり英雄省に人と戦わないといけないわけですよね? 嫌ですよ命がけの仕事なんて」

「確かに危険は付きまとう。君が二十歳になる前に命を落とす可能性のほうが高いだろう」

「ほら、やっぱりやばいじゃないですか」


「しかし医療スタッフは完備しているし福利厚生も充実しているよ」

「いや別にそれって二十歳になる前に命を落とす可能性のカバーになっていませんよね? なんなら医療スタッフが充実しているのに二十歳になる前に命を落とす可能性が高いって言っているようなものじゃないですか」

「・・・・・・・・・最後に聞こう。君は仲間が欲しくないかい?」


 誤魔化しやがった。

 しかし、かなり興味深い質問でもある。私が求め続けた課題。

「――欲しいです」

「なら僕たちが仲間になろう。それで――」

「なので、少年院で作ります。あなたたちの手を借りる必要性は皆無です」

「無理だね」


 棺は私の言葉を即座に否定した。

「まともな環境で、君に仲間ができるはずがない。君は確かに劣悪な親の元に、劣悪な環境で生まれ、劣悪な環境で育った――が、君がもし普通の親の元に、普通の家庭に生まれ、普通の環境で育ったとしても君が普通に育ったはずはない。君は生まれる前から業を背負った、普通の環境に決してなじめない、生粋の反社会的人間だ」

 少年院は比較的まともではない環境だと思うが・・・・・・。


「つまり私に友達ができないのは私のせいだと言いたいんですか?」


 真実だとしても非常に腹が立つ発言がなされた。ここから続く言葉次第では蛮勇をふるい、特攻覚悟で殺しにかかろう――。


「正確には君に合う人間は君の周りにいなかった、と言うのが正しいね」

「だからなんだと言うんですか? いい加減私への愚弄を辞めないと――」

「吊り橋効果」


 棺は言った。

「君が仲間を作れるとしたら、これしかないだろうね。命懸けの状況で、君と同様に歪みを背負った奴らと力を合わせて、育まれる友情。それ以外に君に選択はないだろう」

「――正気ですか? 吊り橋効果なんて胡散臭い効果を信じろと?」

はヤクザとして仁義と友情を手に入れ最後は仲間を庇い死んだのだったね。きっと君の性格は父親譲りなんだろう――。ならば君が友を作るべき場所も今現在正当な世界ではない――魑魅魍魎の蠢く、暴力と計略、そしてが全ての魔の世界だ。違うかい?」


 どこからそんな情報を、とは聞けなかった。

 親が二人ともろくでなしなのに、子供の私にまともな人格を持った仲間ができるわけはない。

 きっと異常な状況でしか友達ができない。


 その論理に納得してしまったから、反論などできなかったのだ。

 自分に自分で言い訳をしているだけなのかもしれない。もしかしたら、努力したら何とでもなる問題なのかもしれない。本質から逃げているだけなのかもしれない。

 だが、仮に私に友達ができるとしたなら――


「入ります」

「ん?」

「私は、美翠水蓮は、魔王軍に入ります」


 狂気の中にでも 狂喜乱舞して入ってやろう。

 私が悪の組織で送る青春は、戦友と共に異能を使って敵を殺すことである。





・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

【あとがき】


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