第9話 実践ゲーマー五人組vs東大族③勝者は何れか

五人のワープ(転送)先は正に東大族との代理バトルの戦場であるが、それは広範なエリアで、三市町にまたがるものであった。ヤーポンの観光文化発展の死命を制するとまで言われている、邪馬台国の女王・卑弥呼が眠っているお墓の確定。


そう、邪馬台国論争のホットすぎる畿内大和説と九州説の争いが、どうやら畿内大和説に軍配が上がりつつある現在(いま)、その注目の地は奈良県桜井市の箸墓古墳であった。


で、戦場は箸墓古墳のある奈良県桜井市と西に隣接する大和高田市、そして北に臨む磯城郡田原本町。この三市町が戦闘エリアであったのだ。


「チー司令官。敵は入試イジクリ東大族とのことですが、敵部隊はいずこにおりましょうや」

 

さすが姉弟というべきか、反応の早いこと早いこと。血は争えんのか、戦場に臨み、情報将校優一が真っ先に司令官の前にひざまづく。


「ユウ殿。そう急くでない、間もなく現れよるからして。官僚県のねつ造村、ここに卑弥呼が眠ると称し、邪馬台国全国一杯あるある説を主張して我が国の観光経済を薄めまくった独裁軍のパシリ・霞が関族。さよう、我が国の観光経済のジューシー、ではなくて、ワクワク濃厚テイストを、スカスカ超うす味もの足りない観光経済にしてしまった元凶。その彼らを完膚なきまでに撃破したのが卑弥呼が眠る箸墓古墳の住人―――畿内大和説族であった。その縁起の良い古墳近くの、この高台の陣地で待っておれば良いのじゃ」

 

ワープ移動した五人が高台に立つと、司令官は落ち着き払い敵の出現を待って戦略を練る気配であった。ゲーム世界でもそうだが、ツンととんがったロケット爆乳がボン、ボーン! と見る目に迫る、網目タイツたすき掛け仕様のセクシー鎧。この姿で馬上から長刀を振るい、兵士たちを指揮しながら最後はとどめの弾丸バレーボール弾を放つのだから、我が姉ながら優一は千加子司令官には本当に恐れ入ってしまう。


「司令官、入試イジクリ東大族が横三列縦隊で砂塵を巻き上げ、北から南下してきました」

 

斥候に出ていた赤鬼隊長・竜児が、レッドホースで舞い戻って千加子に敵情報を伝える。


「横三列縦隊とは分かったような分からんような隊列だが、ま、それはどうでもよいわ。ところで、確か入試イジクリ東大族指揮官は、タイムマシーンを使ってあの世から呼び戻した―――鉄の女宰相アイアン・サッチャーであったのう」

 

確認のため、のり子の差し出すタブレット画面に千加子が近視一杯の視線を落とそうとすると、


「それが司令官。バリバリの東大OGヤッシーが入試イジクリ東大族当主として自ら兵を率いて参っております」


「なに! ヤッシーとな! しかし彼女は不倫疑獄にのたうって、再起不能に陥っていたはずでは」


「それが司令官。美女は得をするというか、『このハゲー!』と、秘書をイジメ倒したトヨマユンとは同じ東大OGでありながら、天と地との差が生まれ、方や落選の憂き目を見たのに、ヤッシーは当主選に勝ち上がっての戦場復帰であります」

 

赤鬼隊長の報告に、


「どれどれ」

 

千加子が双眼鏡でゆっくりと敵陣を眺めまわす。


「しかし、さすがにやつれたのう。もっとも益々色気に磨きがかかっておるな。やや! ‥‥‥東大族当主ヤッシーの隣に控えし参謀は、ヤッシーと浮名を流した、例のイケメン弁護士ではないか。やりおるのう。二人仲良く、お手々つないで我が精鋭と対峙するというのか。ようし! 正義の倫理嵐を巻き起こし、不倫族を風のない谷間の、音なし風鈴地獄に引きずり落とすのじゃ! それ、のり子中尉。特大ブーメ、ではちょっとスケールが大きすぎるので、あの二人の周りだけでいいから、スモールスポットの風をかっさらい、風鈴すら鳴らん、不倫お手上げカーテン・ブーメで二人を包むのじゃ!」

 

いきなりの戦術決定は、不倫達人へのやきもちによるものか。千加子が訳の分からん〈不倫閉じ込め、風鈴鳴らん、風かっさらいブーメ作戦〉をのり子に命じようとすると、


「お待ちくだされ! 司令官」

 

慌てて赤鬼隊長が制止した。


「実は今回、入試イジクリ東大族には強敵美女軍団が助っ人についていて、中尉の〈不倫閉じ込め、風鈴鳴らん、風かっさらいブーメ作戦〉では勝利は覚束ないのでござる」


「それはどういうことじゃ」


「あの二人の周りを固める兵士どもを、とくとご覧あれ」


「‥‥‥ぬ。何じゃ、あの若くて美しすぎる美女たちは! まさか東大族プロパーというか、現役東大女子学生兵ではあるまいのう」


「いえ、最近でこそ美女学生も増えていますが、あそこまではまだ行っとりません。カムチャッカまがい半島の先っぽか、それとも付け根かよう分かりませんが、そこに位置する・コリン国。そのコリン国から借り受けた、お雇い兵であるとの噂ですが」


「どうじゃ、ユウ殿。赤鬼隊長は左様に申すが、情報将校はソチであるぞよ」


「は! いま連邦軍のデータベースにアクセスしたところ、経済制裁で追い詰められ失脚まぎわのミャンムー将軍が、外貨獲得にのたうって、とうとう虎の子の美人集団〈喜んで組〉を諸国へ貸し出しておるようであります」


「そうか、ついに伝説のブリッ子商法をパクりおったか。〈パンダ貸し出し一億エ~ン! おまけに生まれた子供もちょうだいねー!〉。この超高収益ぶりっ子商法の、喜んで組バージョンをミャンムーが思いつきおったか。しかしマインドコントロールが徹底された、いたいけな美女たちゆえ、攻略は難しいのう。何か良い戦略は思いつかぬか、情報将校」


「は! アホな国の狂気軍団には、最強シールズ(アメンリカ海軍特殊部隊)を咬ませるのが一番頼りになったのですが、今の総理とアメ国大統領とはかつてのロン(レーガン大統領)・ヤス(中曽根康弘総理)の関係とは程遠い状況で、下手に咬ませると、いつ何時、テポイドン・ミサイルに血迷い火の玉・大陸間弾道ICBM。これらがヤーポンに降り注ぎかねません。ここは頭脳戦で入試イジクリ東大族を壊滅するのが得策かと」


「しかし頭脳戦と言っても、頭でっかち入試イジクリ東大族をどう攻略すればよいのかのう。男どもは喜んで組兵たちにメロメロに絡め取られておるゆえ、付け入るスキがないではないか」


「チーちゃん。スキなんて一杯あるじゃない。喜んで組兵たちの虜(とりこ)で、骨抜きキャリア官僚男兵の妻達を使えば、簡単に解決することじゃない」


「おっ! さすが、のぞみ大尉。その手があったか。それっ! 仲間割れ作戦、というか、ウチらお休み・おばちゃん代理戦闘作戦開始じゃ! 用意―――始めっ!」


千加子の合図で、腑抜け男兵の妻たちへ、〈カチャ、かちゃ、カチャ〉。アルバイト兵も使っての、大量の情報発信。


おっとっとー! 何と甘く狂おしいメロデイーであることか。


♪ ふ倫理ーん、不りんりーん ♪


すず虫の羽音が奏でるごとき甘~い着メロに続き、妻たちのスマホ画面が、たちまち超リアルな不倫画像をキャッチ。


「コラー! ウチの、お父ちゃんを返せー!」

 

来るわ来るわ、怒れる妻たちが怒涛の如く戦場に押し寄せるではないか。


「おう、おう。間もなく世紀の会戦が始まりよるぞ。若きマケドニアの王アレキサンダーが、自軍の四倍近いペルシャ王ダレイオス率いる大軍を破った―――イッソスの戦いに匹敵するイクサになるやも知れん。じゃから皆も、このイクサから多くを学び取るのじゃ」

 

教育効果を意図した千加子の会戦談話に、


「試験制度改悪阻止のためじゃなかったら、単なる腑抜け男どもの連れ戻し目的。この低俗極まりない外見的イクサから、いったい何を学べって言うのよ!」

 

のぞみが心で本音を漏らす。が、戦闘場面での出来事ゆえ、ここでは司令官の顔を立てて、戦士の役割演技に徹しましょうね。そう、そうしましょ。


ということで、高台の五人に話を戻すと、大和郡山方面から押し寄せる入試イジクリ東大族全軍と大和高田から東進して来たキャリア官僚妻たち軍が田原本町で対峙し終えたシーンが、北を望む彼ら五人の目に飛び込んで来る。両軍の数、四万、四万の都合八万というところか。


「さすが、これだけ集まると雄壮じゃのう。しかし喜んで組兵達はピタッと合う戦闘服に身を包んでおるが、キャリア官僚妻達軍は雑多じゃのう。乳飲み子に乳を与えるヤンママから貫禄お腹の中年おば兵まで多種多様で形容に困ってしまうが、彼女らの上に淀む嫉妬怒り雲が一番不気味じゃのう。おう! 宣戦布告も何もなしに、乳飲み子おんぶママと抱っこママ兵達が、超美人美尻兵どもに飛びかかりおったぞ。美尻にかぶりついて離さんところが哲学的難題で、夫とられ怒りかそれとも美尻への嫉妬なのか? お! 今度は定年間近夫を取り込む美乳美人兵に、貫禄お腹の中年ママ兵が入れ歯とカツラを投げつけよったぞ。何と! あの入れ歯は生きておるのか? 喜んで組美女兵達のツンとんがり美乳に、次々とウグイスの谷渡りならぬ、噛み渡りをしよるぞ!」

 

まさに千加子の言うごとく、プラスチックにセラミック、金、銀、チタンにメタルボンドポーセレン(陶器)。これらの差し込まれた入れ歯が、硬く、甘く、強く、舌もないのに舐めるがごとく、生き物さながら美女兵のツンとんがり美乳を噛みしだくと、


「あッれー! 大将軍様のお乳がー!」

 

第一列目の精鋭美乳兵たちが隊列を崩し、たわわな乳房を両手で隠しながら後方へ逃れ去って行く。


「お乳フェチ将軍のマインドコントロール、よう効いておるのう。しかし、ミャンムーにここまで心酔し、敗者のこんな醜態までさらされると同性として悲しくなるわい。おっと! 戦場で感傷はNGであった。さて、次はなんじゃ? 老若兵というより、貫禄お腹の中年ママ兵達が、お尻を一斉に並べ二列目の敵美女兵達に向け発射準備をし出しおったぞ! ―――そうか、スカンク作戦じゃな。ではワチキも鼻をつままねばのう。風上じゃと申しても、有臭毒ガス兵器じゃからして。いや、防毒マスクの方が」


「チーちゃん。もういい加減にしてくんない。一体どこまでこの聞くに堪えない実況を続けるつもりなんだよ。そろそろ終わりにしないと読者の皆さん、キャリア官僚妻達軍以上の怒りをため込んじゃうんだから。さあ、こっから先は拙者が司令官になって、この戦場を仕切るから。な、みんな」


「何と! 司令官解任動議が賛成多数で成立してしまっていたのだ」

 

戦時中の戒厳令下で、クーデター(政権転覆)ではないか! と、千加子は叫びたい気持ちもあったが、少々悪乗りのダじゃれ噛ましが過ぎたのは重々承知であった。


「分かり申した。仕方がない。こっから先は、ユウ殿、貴殿が司令官じゃ。宜しくお頼み申す。共通試験が近いこともあって、焦りで平常心を失っていた様でアリンス」

 

やはり名司令官と言われるだけあってのことか、千加子は不思議なほど引き際が良く、戦時下の司令官解任という異常事態が、すんなりと正常に収まったのであった。


「ということで、これから先は、わたくし倉田優一が新司令官として指揮を執りますので宜しくお願いします。名付ければ〈田原本の会戦〉と呼ぶべきイクサは、のぞみ大尉の戦術提案でほぼ勝負が決まったのです。というのは〈喜んで組〉兵達、彼女らの大半は本国での食糧事情がすこぶる悪く、やせ過ぎか我が国へ来てからの食べ過ぎ太りかのいずれかで、キャリア官僚妻達軍と戦える状況ではなかったのです」


優一が司令官引継ぎの挨拶を述べ、戦況報告を続ける。


「さて、司令官としての私メの最後の仕事は東大族の敗戦処理ということになりますが、まず入試イジクリ東大族当主ヤッシーに関しては、捕縛に失敗いたしました。さすがと思わせる戦略対応で、神対応と褒めたたえても褒め過ぎではないのであります。キャリア官僚妻たち軍優位を読み切ると、イケメン弁護士参謀と共に馬を駆って戦場から好憲眠眠党本部への仮の逃げ切りを図りました。もちろん黙って見逃がす手はなく、すぐさま、のり子中尉に命じ超高速捕縛グライダーブーメを放たせました」


データベースに残される正式記録であり、優一は緊張を抑えるためもあって、佳境に入る前に一呼吸置き、ペットボトルからの水で喉を潤す。


「さあ、その捕縛ブーメですが。ブーメが馬上に近づくと、ヤッシーが振り向きざま『ほっと!』と悩まし気な熟女フェロモン吐息を漏らしたのです。桃の香りのする恐るべき有臭分子分解無色吐息でありました。すると何たることか、グライダーブーメは瞬時に凍ってしまい、サラサラっと粉になって地上に降り注いだのです。身の毛もよだつ凄わざで、深追いは禁物との判断をいたしおった次第です」


ヤッシー捕縛失敗の結論を述べたところで、から咳を一つ放って、優一は胸を張り威厳を持って最後の締めくくりを行う。

 

「独裁軍の意を受けた東大族の入試制度イジクリ。ヤッシーの捕縛には失敗したものの、敵将の逃走で我が方の勝利は明らかで、ここに暫定的ではありますが、連邦軍の勝利を宣言し、司令官の報告を終えるものであります」


以上のように、大学入試制度改悪問題については、レジスタンス部隊のズッコケ五人組が勝利をおさめ、独裁軍の傀儡部隊・入試イジクリ東大族は敗退の憂き目を見たのであった。


「なかなかやるではないか。やはり、あの五人組に登場願って正解だったな。さて、この結果を次の作戦に生かし、彼らのキャリアハイに繋げるべく、実績を積んで貰おう」

 

ギャラクシーの中佐プライベートルーム内で、ボンドは報告動画を閉じて決意を新たにしたのだった。テラスを守るためには彼女の出番を減らすのがベスト。そのためには五人組の出場枠を広げて彼らに頑張ってもらう。勝手な論理だが、父親の欲も多分にあって、マーヤへの誓いでもあった。

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