第7話 実践ゲーマー五人組vs東大族①ヤーポン戦略基地
全宇宙の支配を目論む独裁軍とこれに対抗する連邦軍。この連邦軍は自由、平和、博愛を旗じるしに結集した者たちで構成され、悪への強い抵抗と正義の絆で結ばれていることは随所で述べてきた。
さて、ビッグバンの起点から遠く離れた天の川銀河。その直径およそ10万光年の銀河の核から、約2万5千光年の距離を置く太陽と呼ばれる小さな恒星とそれを巡る10個余りの惑星の一つで、又も独裁軍と連邦軍の代理バトルが勃発しようとしていた。
「ペック提督、太陽系の中の緑の三番惑星アース―――その中の海洋国ヤーポンで起こりつつある独裁軍の侵略実験は、かの国引いては全宇宙の高校生たちの未来と宇宙を巡る銀河観光の将来にとって放置できないことであります。早急に手立てを講じなければ、太陽系はおろか銀河系にまで独裁軍の侵略結果が及び、独裁軍手先がアースのアフリカ大陸で行っている女子や子供に対する民族同化策という名の、殺戮と虐待を手段とする残虐無比な手法、これが恒常化してしまう結果につながりかねません」
連邦軍本部基地の情報担当ボンド中佐が、銀河のかなた―――アースのヤーポンをピンポイントで捉えた特大スクリーン、この海に囲まれた小さな島国に目を凝らす提督に進言する。紫煙も出ず、そのぶん健康被害はゼロと言われていたスペース・シガーさえ妻オードリーに禁じられ、しかも癇(かん)に障る部下のバリトン。提言を聞く提督のイライラは傍目にもマックスだった。
「しかし中佐。おかしいではないか。独裁軍が何ゆえにそんな最果ての地アースで、しかも宇宙を巡る銀河観光と若者―――特に高校生の試験制度に絞ったモデル実験をしようという理由が私には思いつかんよ」
「それは提督、少々理解不足です。現在、緑の惑星アースでは未知のウイルス・コロナが猛威を振るっており、これが全宇宙へ拡散することは必至と思われます。この流れの中で、連邦軍の潤沢な資金供給の源である宇宙観光産業。この観光産業を撲滅し、おまけにレジスタンスの抵抗戦士の供給元である若者―――この若者の代表格である高校生達への先制攻撃としての入試制度イジクリなのです。サヨウ、これらの策略が有効であるか否かを判断できる、まさにモデルとなる実験なのです。この実験をヤーポンで行えば、その結果次第では、独裁軍には容易かつ効率的な宇宙支配シミュレーションが出来上がることになります」
「なるほど。独裁軍がかくも怪しき遠大な策謀を巡らしていようとはにわかに信じ難いが、百歩譲って、君のその分析が正しく、かつ独裁軍が最果ての地で妙なモデル実験をする必要を認めたとしても、現在、数えきれない戦闘を強いられている連邦軍にとって、この移動本部基地から遠く離れたヤーポンへ送り込む戦士などおらんではないか」
「正にその通りで、戦士不足は各星雲間での戦いで劣勢に立つ、我が方の弱点を露呈しているところです。そこで今回は当方もモデルケースとして、レジスタンス登録がなされているヤーポンの極東支部長と少々ズッコケではありますが五人の高校生―――彼らを独裁軍の傀儡部隊に当ててみるのも有意義かと思うのですが」
ハンサムでダンディこの上ないボンド中佐が、シャープな提言をペック提督に送る。計画案の中身を語るボンドの笑顔にはバリトンの響きそのままの自信が漂う。
「しかし、そんな僅かな人員で、物量に富む独裁軍やその傀儡に対抗できるのか? 無謀ではないか」
「いや、提督。ここ一年ばかりの間、彼ら五人組の試行錯誤的といってよい課題解決過程を検証したところ、結構な課題処理能力ありとギャラクシーのスパコン(スーパー・コンピューター)もはじき出しています。もしこの戦いで高校生たちが独裁軍傀儡部隊を撃破することが出来れば、彼らを正規兵として採用し、劣勢に立つ戦場に派遣すれば全宇宙間戦争での大逆転勝利も夢ではないのであります。そうなればまさに一石二鳥ではありませんか」
「そうか、そこまで言うのであれば、君の思うとおりにやってみるがよい。計画書は出来上がり次第、私のところへ持参してくれればいいから」
ペック提督の了承で、今朝のブリーフィングは終了したのだった。
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