第4話 復讐のソード①遅すぎた暗号レター
人型AIロボ大量製造で宇宙支配を有利に進める独裁軍と、それに反抗する連邦軍の戦い。独裁軍は宇宙の中心―――第1話でも述べたが、現在の宇宙科学では宇宙の中心なる概念は否定されているのだが、ここではビッグバン説が正しいと仮定して、そのビッグバンの起点を宇宙の中心と呼ぶと、その中心から三万光年離れたエンパイヤゾーン。ここに、独裁軍はアームスターと名づけた巨大円盤宇宙基地を建造し、この基地を拠点に征服のための軍を宇宙各所に送り込んでいた。
対する連邦軍は寄せ集めの集団ゆえ、固定本部基地を持たず、旗艦空母ギャラクシーが反抗作戦の中枢を担っていて、唯一の本部基地といえるものだった。ギャラクシーを本部とするのは、軍事力で圧倒的優位に立つ独裁軍の攻撃からの避難容易性を考慮してのことだった。
連邦各国の評議員により選ばれた代表が提督で、作戦会議の議を経て、独裁軍への軍事行動を決定するのが原則であった。ペック提督は七代目で、四年の任期を三年残していた。
「お早うございます、提督。先ほど入った報告によると、アームスターの北部エリア九番ゾーン第七施設、この約1000ヘクタールある施設の第五研究棟。ここで昨夜から独裁軍の人型攻撃ロボの大量製造が始まり、総製造予定数は50万体とのことです」
いつもの様に情報担当ボンド中佐がハンサムな容姿に相応しいバリトンで、午前九時キッカリにギャラクシーの作戦ルームでブリーフィングの幕を開ける。
「50万体だって! そんなに多くの攻撃ロボが製造されると、ただでさえ戦士不足の我が方にとって、ジワジワっとボディーブローダメージどころか、ダイナマイトパンチでノックアウト。そんな最悪結果がもたらされかねないじゃないか。特に来月末に開催予定の、宇宙民主会議本会議場に決まっているカニ星雲の観光惑星フェニアン。そこへ大量の攻撃ロボット兵を送られると、我が連邦軍の被る痛手は筆舌に尽くしがたいものになるだろう」
「その点に関しては報告に添付したメッセージが興味深いもので、大群相手の戦略を高校生がゲームでシミュレートしていて、その戦勝過程が非常に参考になるかと思われます」
「ほう、それは面白い。どんな内容かね」
「たびたびブリーフィングに出てきて恐縮ですが、銀河系内の緑の惑星アース、ここのヤーポン国に住む高校生たちが作成したゲーム及びその実践結果ですが、これらが特に惑星フェニアンへの独裁軍の攻撃対策に示唆的かと思われます」
高校生たちが住むヤーポンでは、大学入試制度に見えにくい陰謀的改変が繰り返し加えられていて、それが独裁軍の傀儡たる東大族の画策ではないかと、高校生たちは疑っていた。
「五人の高校生たちは退学を余儀なくされた一人の仲間を救うため、全員で新天地へ転校したという結束の強い、少々ズッコケですが、面白いキャラの持ち主達です。最年長は18歳の倉田千加子で、提督お気に入りsexyボインの、バレーボールアタッカーです。ゲーム内では、ウルトラサーブや弾丸スパイクで敵を苦しめる司令官の役回りです。大尉は稲垣のぞみで、ダーツ矢を武器とする、キュートでセクシーな才女で千加子の弟優一の恋人です。中尉は西田のり子で、クリーニング店の娘であることから、改造布団ばさみをブーメランさながら自在に操る丸ぽちゃ美人です。あ、最後に男子ですが、優一はサッカー弾の十連キックが得意技の、情報担当将校です。また、のり子の恋人竜児は白バイ顔負けの七半レッドホースを乗りこなし、別名赤鬼隊長と呼ばれ、ロケット飛び後ろかかと蹴りが決めわざの一人隊長です」
「ほう! 登場人物の説明を聞いてるだけで、アクション満載を期待させるもので、独裁軍をコテンパンにやっつけたい私には夢中になりそうで、ゲームに耽ったりすると、妻オードリーにタイムロックを掛けられそうだな」
「ええ、ゲームに登場する入試イジクリ東大族を独裁軍の傀儡に見立てると、限りなく実益を伴ったものになり、惑星フェニアンでの紛争解決も見えて来て、ゲームの楽しみが倍加するでしょう。ゲーム終了後、実戦形式での彼らの活躍を評価されるのであれば、連邦軍レジスタンス戦士としてリクルートをかけると戦士不足解消策の一つにもなり、まさに一石二鳥の拾い物です」
ボンドは提督説得のツボをよく心得ていて、自分が描いた戦略方向へ、提督が引き込まれつつあることを確信していた。
―――計画の第一段階は、ほぼクリアしたな……。
連邦軍士官になって初めて、ボンドは軍規に反する、というか中佐の使命を離れ、私怨を果たす決意をしたのだ。ほん9日前のことだった。かつての恋人マーヤから、19年振りに暗号レターがボイス添付で届いたが、内容は驚天動地だった。
「ボンド、お願い! あなたと私の娘を助けて! 今、独裁軍の手先と思われる刺客に追われているの。私はもうだめだけど、娘はヤーポン人に託すから、私の形見のフラッシュソードで彼女を見つけ出して。きっとよ! 愛するボンドへ」
僅か五秒でタブレット画面から消え去ったが、ボンドの脳裏に永遠に消えないメッセージと三人が写るフォトが焼き付けられてしまった。
―――ああ、神よ! 何てひどいことを……。
マーヤを挟み右にボンド、左にはヤーポンからの技術指導員ワタルが写っていた。19年前に撮られた写真を見て、ボンドは空白のすべてを悟ったのだった。そう、一枚のフォトに、19年の全てが焼き付けられていたのだ。
連邦軍士官として惑星オーフュースへ派遣されたボンドとの恋は、当時、頑なに中立を維持しようとするマーヤの父テミア王ガリによって禁じられた。傷心のマーヤはワタルとの結婚に救いを求め、ヤーポンで新生活を送ったと聞いていた。が、このとき、マーヤのお腹には私の子供が宿っていたのだ!
「許さん! 絶対に許さん! そして、必ず我が娘を守って見せる!」
最愛のマーヤを殺害した現王ロネは、憎んでも憎み切れないのだ。バルカニア人のボンドには、民族の掟として長老の許可を得れば、タリオ(同害報復)が認められていたが、今回は許可を得る時間的余裕も精神の許容もなかった。
そんな切迫感と焦りに苛(さいな)まれるボンドに、
「中佐。たった今、独裁軍への無線を傍受しました」
直属の部下で無線分析担当のアダム中尉が、ロネから独裁軍への緊急無線の印字コピーをボンドに手渡したのだ。
「提督。傍受緊急無線によれば、フェニアンでの連邦軍民主会議を阻止すべく、テミア王ロネが50万体人型攻撃ロボを率いフェニアンへ総攻撃をかけるとのことです!」
「何だって! あの実の兄の先王を殺した、殺人王ロネが指揮官だって!」
ボンドからの伝達に、ペック提督は呆然と立ち尽くしたが、時間の無さにボンドもほぞを噛む思いだった。
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