第3話 コラップス(宇宙圧壊)③オイエン原発の攻防

「任務ご苦労様です。どうぞあちらへ」


肩に少尉の階級章をつけた、細身だが精悍な面立ちの青年将校ヤニスが、三人をメイン滑走路上に駐めた軍用ジープへ誘(いざな)う。


「エッ! 任務って!」


テラスはようやく只ならぬ事態を察知するが、タケルと同じく動揺することは無く、直ちに戦闘モードに突入する。キワムに鍛え上げられていて、この程度の緊迫はむしろ何時でもウエルカムなのだ。


「原子炉建屋への侵入を企てる敵軍の数は多く、軍隊を投入できない隘路(あいろ)での攻防ゆえ派遣駐留軍は身動きが取れない状況です。目下のところ、レジスタンス部隊から派遣された、オリンポス家のアポロン真田とその妹ヘスティアによって辛うじて建屋内への敵部隊侵入が阻止されている状況であります」


「エッ! アポンとヘスもいるの!」


赤外線暗視ゴーグルとスコープを受け取った、テラスとタケルが同時に声を上げ、笑顔がはじける。こんなに早く二人に出会えるとは思いもよらなかったのだ。


海岸線に沿った細い、三叉路へ続く脇道前で、三人はジープから山岳タイヤを穿いた軍用バイクに乗り換え、月明かりの中をイチジクやオリーブ、ナツメヤシが混在する杣道(そまみち)を走り抜ける。15分ほど南下して海岸線沿いの舗装された生活道に入ると、三人はバナロンの砦と海に面したオイエン原発の中間でバイクを止めた。目の前の高台に戦略拠点を設けることにしたのだ。


「あっ! あそこにアポンとヘスが」


防護壁への侵入を企てるアマゾネス族の一団が遠目に見え、それを阻止すべくトルコ松の枝に登り背中の矢筒から手際よく矢を放つアポン。当然アポンを狙って鎧に身を包むアマゾネス族兵士が迫る。指揮を執る巨体の司令官は、女相撲で鳴らしたエロイカだった。


「兄上、危ない!」


松の木を囲みチン毒が塗られた矢を射かける兵士に向かい、ヘスがオリーブの木影から短い投げ槍アコンションを立て続けに放つ。


「アポンにヘス、待ってて!」


赤外線スコープで正確な距離を測り、即座に戦略を立てると、テラスとタケルは二手に分かれ原発への細い坂道をかけ下りる。原発包囲の雲霞(うんか)のごとき敵兵排除。緊急至上命題で、一人でも原発敷地内へ入れると汚染水がゲーエ海へ流れ込んでしまう危険があるのだ。


「それっ、タケル! 脱力催眠ブーメを受け取れ!」


キワムが足元の武器袋から、催眠振動勾玉ブーメを取り出し原発へ駆け降りるタケルに投げ渡す。


「OK、ジイジ」


受け取ったタケルはダブル・トリプル・クワドラプルひねりをブーメに加え、原発壁に張り付く敵兵の上に、甘く悩ましげな脱力音波を投げ落とす。


「アポン、助けに来たわよ!」


樹上のアポンに呼びかけ、テラスは母愛用のフラッシュソードでトルコ松を囲む敵兵をなぎ倒して行く。


「オー! テラス! どうして君がここに?!」


「それは後で。取り敢えず一緒に原発を守ろう。行くわよ!」


これ以上の敵兵侵入を阻止するためアポンに断り、テラスは隘路を駆け上り司令官エロイカと部隊長ドラキュボン打倒を図る。二人を倒せば、敵兵の撤退につながると考えたのだ。


「何をこしゃくな!」


エロイカは現役力士さながらの巨体で立ちはだかって、両刃剣クシポスを手足のように自在に操りテラスに打ちかかる。同じくドラキュボンは片刃のマカイラを槍とジャックナイフさながらに使いこなし、エロイカと呼応して前後からテラスに打ちかかる。が、いずれも母愛用フラッシュソードの敵ではなかった。


「何て使いやすいの! それっ!」


「アウッチ!」


テラスに両刃剣と片刃剣を一瞬の内に叩き落され、鋼鉄ブラ鎧まで切り取られると、


「あれー!」


二人は巨乳を両手で覆い、一目散に巨体もろともバナロンの砦へ逃げ帰った。


「あー! テラス。この日をどれだけ待ち望んでいたことか!」


アポンはテラスを抱きしめ唇を重ねようとするが、


「ダメよ、アポン。まだ戦いは終わってないんだから。それに知りたい事が一杯あって、この戦いの意味を理解するまでそっちはしばらくお預け」


テラスがアポンを宥めていると、


「助けてー!」


原発開閉口からタケルの悲鳴が上がる。アマゾネス族全軍はエロイカとドラキュボン敗走につられ砦へ逃げ帰ったはずなのに、一体どうしたのか? とテラスとアポンが訝しみながら現場へ駆けつけると、


「待っててタケル。あ! 私のタケルによくも!」


怒りのヴーナスさながらヘスが象牙の肌を真っ赤に染めて、タケルに覆い被さる限りなく全裸に近い三人の美女兵に挑みかかろうとしていた。


「待ちなさいヘス! 君では太刀打ちできない!」


キワムが慌てて大声でヘスを制止する。この褐色肌の美女兵がコマンドー軍団所属であることはキワムには予備知識として与えられていた。先遣隊として試験的に派遣されてきた三人で、全軍派遣がなされていたら完全に原発はチャン国の支配下に置かれていたであろう。


「ヘスをお願い」


バイキング刀で左上腕を打たれ苦痛の表情に歪むヘスをアポンに委ね、テラスがコマンドー兵に対峙してゆっくりとフラッシュソードを右下段に構える。


「よくも弟に子種絞りをかけようとしたわね。お前たちは絶対に許さない!」


ヘスの関与が無かったら、タケルは齢(よわい)100歳を刻む、老化池の住人しわがれアメンボウにされていたところだったのだ。


「新選組の真似まね殺法・必殺三人攻撃で来るぞテラス! 正面だけ倒すのだ。右はわしが、左はアポンに任せよ!」


キワムの声と同時に彼の手から勾玉手裏剣が飛び、アポンの右手が弧を描いてマーブル礫(つぶて)が敵美女を襲う。


「ヤ―!」


フラッシュソードを使うまでもなく、激しいテラスの念術で正面の敵は吹っ飛んでしまい、ここに当面の危機は去ったのであった。


翌日、ヤニス少尉から転送された戦勝報告と記録動画をギャラクシーの正面スクリーンに再生したボンドは、


「エッ! あの娘が持っているフラッシュソードは? ・・・・・・一体、何という取り合わせなんだ!」


驚愕の表情を浮かべ、フラッシュソードを持つ娘の姿に、恋人マーヤの面影を食い入るように探し求めたのだった。

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