第4話 顔合わせ

「とは言っても、いきなり満員にするのは無理だろうな」


私は、何を当たり前のことを、と思いながらも、マオーPの次の言葉を待った。


「だが、最初からあきらめるのは良くないよな? というわけで、一週間後にドームでライブだ!」


「無謀ですよ! そもそも知名度ない上に宣伝もなしでどうやって人が集まると?!」


「そこは心配するな。お前がやるのはライブの前座だ。一週間後にドームで行われる『ゾディアック48』のライブがある。その前座をお前がやるのだ! だが、前座と甘く見るなよ。実際のライブと同じクオリティが要求されると思え!」


「う……。まあ、頑張ってみますが……。ところで『ゾディアック48』ってなんですか?」


私の言葉に、彼がわざとらしく驚いてみせる。


「なん、だと?! 『ゾディアック48』を知らないのか?! こいつらは、かつてワシの側近だった12体の魔族によって結成されたユニットじゃよ。この国では知らぬものがおらんほど有名なんだがな。それに、時々近隣の国にも出張ライブにいっておるぞ」


でも、そんな話、三日間過ごしても、まったく聞かなかったですけど……。


「王国ではライブやってないからの。あそこは王家や貴族連中がアレだからな。ライブの許可が下りないのだ」


みみっちい王族もいたものである、と私は思ったが、彼も同じ考えのようなので、あえて言う必要はないと思い、黙っていた。


「そう言えば、なんで12人なのに48なんですか?」


「えっ?」


「えっ?」


「なんかユニット名に48って付けるのが流行っていると聞いたから付けただけだが?」


「誰の情報ですか?! そもそも、あれは48人いるから48ってつけてるだけですよ!」


「ワシ情報じゃ。かつての勇者に訊いて、ワシが判断した」


単なる勘違いだった。


「まあ、いまさら変えられん。どうせ知ってる人間もおるまい。とりあえず、今日のところは顔合わせと行くぞ!」


そう言って、マオーPはドーム――の隣にある建物に入っていった。


「ここは練習用のライブハウスだ。普段はここでライブをしておる」


「なるほど」


私が見回すと、ステージの上には3人の魔族っぽい女性が歌ったり踊ったりしていた。


「あれが、そうですか?」


「そうじゃ。右からアリエス、ヴァーゴ、アクエリアスだ」


「3人とも、そんなに違うようには見えませんね」


「何をいっているのだ。当然だろう。お前は桜子って名前の人間は桜の木みたいな姿だとでも言うのか?!」


「確かに、ただの名前ってことですね」


「もちろんだ。全員ワシのつけたステージネームだぞ。どうだカッコいいとは思わんか?」


まるでマオーPが独自に考えた名前のように言っているが、どう見てもパクリ(?)であった。

しかし、彼の機嫌を損なうと面倒くさくなりそうだったので、とりあえず頷いておくことにした。


「はぁ、そうですね。カッコいいです」


しかし、心の籠っていない返事だったためか、彼の表情が曇る。


「ぐぬぬ、まあいい。まずは、あの3人と顔合わせに行くぞ!」


意気揚々と控室へと向かう。

あまりの声の大きさに、観客の一部が私たちの方をじっと見ていた。

思わず恥ずかしさのあまり、速足になりながら舞台裏にある控室へと向かった。


「ちわっす、新人さんDEATHね?! アリエスでっす。DEATH!」


「……どうも。ヴァーゴよ。よろしく……」


「ふふふ、また可愛い子を連れてきたわね。魔王様も罪深い人ね。よろしく、私はアクエリアスよ」


見た目はあまり変わらないが、性格は3人とも違うようだった。

アリエスはメタル好きなのだろうか、語尾が違う意味に聞こえる……というか、何で言い直したかわからなかった。

ヴァーゴはおとなしめの性格のようで、口数は少ないようだ。

アクエリアスはお姉さんっぽいキャラなんだけど、私とマオーPの関係を誤解してない? してないか。


とりあえず、私も彼女たちに倣って自己紹介をしようとしたが――。


「喝ッッッー!」


突然、マオーPがキレた。

訳もわからず、私はあたふたしていたが、彼女たちは慌てている様子がなかった。


アリエスは、あちゃー、とでも言うかのように顔に手を当てて上を向いていた。

また、ヴァーゴは半眼で睨んでるように見えた。

そして、アクエリアスに至っては舌をだして、テヘペロ、とか言いそうな雰囲気であった。


「魔王様じゃない! ワシのことはマオーPと呼べと何度言えばわかるのだ! まったくアクエリアスめ。毎回毎回――」


私の自己紹介を放り出して、延々とぐちぐち文句を言う彼を激しく揺する。


「ん? なんだ?!」


「ちょっと、私の自己紹介がまだですよ! 文句を言うのは後にしてください!」


「ああ、すまんね。いいか、ワシの名は――」


「マオーPですよね?! これでいいですか? じゃあ、この話はおしまいで!」


私の強い主張に、彼は少ししょぼくれた様子だったが、 今がチャンスと思って自己紹介を始める。


「私は、ルーナ・アウローラです。女の子になって、まだ1週間も経っていません! マオーPに拾われて、この世界に入りました! まだまだ未熟ですが、よろしくお願いします!


「「「女の子になって……?」」」


私の自己紹介の中の「女の子になって」に一斉に食いつく3人だった。

そして、3人は少し考える様子だったが、一斉にマオーPの方を向き直る。


「ちょっと、また変な魔法を作ったの?」

「ふふふ、男の子を女の子にするって、そこまで飢えていたのかしら?」

「……魔法を使ってまで男を手籠めにしようとするなんて、サイテー……」


一瞬にして、彼の評価がマイナス方向に天元突破していた。

慌てて、僕は彼のフォローに回る。


「あ、違うんです! 私、勇者召喚で別の世界から呼び出されて、その時にもらったスキルの影響で女の子になっちゃったんです!」


「勇者召喚……敵? しかも、変態さん……?」


彼をフォローしたら、ヴァーゴに敵&変態認定されていた。

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