第3話 魔王城ドーム
「こら、さっさと起きんか!」
僕はマオーPにたたき起こされた。
既に日は高く昇っていて、窓から差し込む光に目がくらむ。
「やれやれ、もう昼だぞ?!」
「そんなこと言ったって、昨日っていうか朝まで徹夜でマオーPに色々と叩き込まれていたんじゃないですか!」
僕の言葉に彼は呆れたように肩を竦める。
昨日、僕は彼と共に世界を獲るために頑張るを決意をした。
しかし、その直後、僕がこの世界の常識について、あまりにも知らないことが多かったため、彼が朝まで徹底的に講義をしてくれたのである。
そのこと自体は有意義だったし、ありがたいのだが、睡眠時間を削ってまでやるのは勘弁して欲しかった。
「やれやれ、世界は待ってくれんのだぞ! 走り出すと決めた以上、全力で走り続けなければならん!」
「いやいや、半日くらい休ませてくださいよぉ」
僕は半分寝ぼけながら、彼に懇願する。
「しかたないな。だが、もう昼だぞ。とっとと支度しろ。まだ眠かったら馬車で寝ればよかろう」
マオーPは意外とスパルタであった。
しかし、苦難の連続である可能性を知りつつ、この道を選んだのは僕自身であったため、疲れの抜けきっていない体に鞭打って準備を整える。
そして、宿の外に出ると……。
既に豪華な馬車が乗り付けられていた。
「これで行くんですか?」
「当然だろう。ワシらは世界を獲るのだ。このくらいの虚勢を張れなくてどうする」
そう言って、彼は僕を馬車に詰め込んだ。
「うわー、みんな見てる……」
「この程度で慌てるな! 世界を獲るのなら、この100倍以上の観客の前でステージに立つことになるんだぞ! そしてお前の力をもってすれば、不可能な話ではない!」
彼の言葉を聞いて、僕は馬車の外の100倍の人数の前でステージに立つ姿をイメージした。
しかし、そんな自分をうまく想像することはできなかった。
「それは無理そう……」
「まあ、焦らなくともよい。一朝一夕に観客など増えていかんからな。地道に増やしていくのだ。無理と言うことにはならんだろう」
その彼の言葉に安堵していたが……。
「だが、バズらなければな! バズったら、一瞬で観客は数十倍になる。そうすれば、ワシらの勝利は約束されたも同然だ!」
僕の安心を返せと言いたかったが、普通はそうそうバズることなど無いと聞いて、胸を撫で下ろした。
「ところで、どこに向かっているんですか?」
「魔王城だ」
「えっ?! 魔王城?」
魔王城ってラスボスの魔王がいるところじゃないか、と僕は考えていた。
「いやいや、魔王城なんて……僕は弱いんですよ。行ったらすぐに死んじゃいますって!」
「何を言っておる? ホームに行くと言っただろうが。ワシらのホームは魔王城――正確には魔王城ドームだ!」
「え?! でも、魔王城って魔王がいるんじゃないんですか?」
「何を言っているのかわからんが、問題ない。ワシが魔王だからな」
「……。もしかしてマオーPって魔王なんですか?!」
マオーが魔王って、自分でも何を言っているのか分からなかったが、今までの話を総括すると、そう言う以外になかった。
「何を当たり前のことを言っているんだ? 最初から魔王と言っているではないか」
「まさか僕を助けてくれたマオーPが悪の親玉だったなんて!」
僕の言葉に彼は顔をしかめる。
「悪の親玉って、もしかして、あの
「あっ! そう言えば確かに……」
僕は彼が普通に宿に泊まって、酒場でスカウトしようとしていたことを思い出していた。
「あの国の偉い連中は、かつてワシらに戦争を仕掛けて、返り討ちにされて領土を奪われたことを恨みに思っておるのだ。しかも、その領土は瘴気が発生するような場所だったのだぞ? ワシらにとっては喧嘩売られた挙句、ゴミを押し付けられたようなものだ。もっとも、その代わりとして広さはあるから不満はないがな」
喧嘩をふっかけて、返り討ちにされたら恨むとか、どんだけ酷いんだよ、と僕は思った。
「とりあえず問題は解決したか? それならホームに着くまでの間に名前を決めてしまおうか」
「いや、僕には夜明満月という名前が……」
「喝ッッッ! そんなチープな名前で世界が取れるわけがなかろうが! ふむ……、お前の名前はルーナ・アウローラでいくぞ!」
「ルーナ・アウローラ……」
「ルーナは月の女神の名前、アウローラは暁、夜明けという意味だ。どうだ、いい名前だろう?」
予想以上に彼のネーミングセンスは良かった。
僕にはそれ以上の案が思いつかなかったので、彼の決めた名前を使うことにしました。
「わかりました、これから僕はルーナ・アウローラって名乗ります!」
「待てぃ! せっかく女の子なんだから、僕ではなく私にせよ」
「……」
彼の言っていることはもっともであった。
しかし、まだ完全に自分のことを女性として見れていないところがあるため、何となく抵抗感を感じていたが、これも必要なことと割り切ることにした。
「何を難しい顔をしておる。そんな可愛い顔しているのだ。女の子っぽい口調の方が似合っとるぞ!」
「えっ?! 可愛い?」
唐突に、彼から可愛いと言われて、僕は――私は顔が火照るのを感じた。
「そうじゃ、世界を獲るには外見に相応しい言葉遣いも大事だぞ!」
彼の言葉の中に、私に対する優しさを感じられるようになって、嬉しさが全身に広がっていった。
「まあ、いきなり変えろとは言わんよ。ただ、少しずつ意識をしていくようにな」
「はい! 頑張ります!」
そうして馬車は国境を越えて、魔王城へとたどり着いた。
魔王城は――ドーム型だった?!
「魔王……城?」
「ああ、びっくりしただろ? プロデューサーになるにあたって、元々あった魔王城を取り壊してドームにしたのだ」
「え? ええ?!」
「やはりライブ会場の最高峰と言えばドームだろう」
東京ドームも真っ青な大きさのドームである。
驚かない方がおかしいというものであった。
「まずは、このドームを観客で満員にするのが最初の目標だ!」
いきなり、マオーPはとんでもないことを言い出した。
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