第1話 捨てる王
僕の名前は
テストを受ければ全て平均点、麻雀をすれば常にプラマイゼロ、過去に彼氏も彼女もいたことない、というごくごく平均的な男子高校生である。
あまりに平均的過ぎて、存在すら忘れられることも多く、ドッジボールをすればいつも最後まで生き残り、バスケやサッカーでは常にノーマークな上、ボールを持ってもパスカットすらされず、野球では盗塁し放題という有様である。
そのため僕がいるチームは、何故か誰も活躍していないのに勝ってしまう。
お陰で「立ってるだけでいいから」と言われて、助っ人を頼まれることも少なくなかった。もちろん全部お断りしているが。
僕自身としては全力でやっているのだが、結果として、その努力が認められたことは一度たりともなかった。
「一度でいいから目立ってみたいな。スポットライトが当たるような派手な感じだともっといいんだけど……」
ふと、そんなつぶやきが漏れてしまうほど、誰かに認められたいという願望があった。
この日も僕はいつも通りの時間に教室に入り、朝のホームルームの時間を静かに待っていた。
そんな僕とは対照的に隣の
清楚系でおしとやか、誰とでも分け隔てなく接する彼女は、男女共に人気である。
今日も彼女の取り巻き――陽キャグループのクラスメイトたちが彼女を囲んで歓談していた。
僕と世界の違う彼女たちの談笑を聞き流しながら、僕は仮眠を取っていた。
とはいえ、まともに眠れるわけでもなく、ほとんど寝たふりであった。
そんな状態で、いかにも陽キャな会話を聞いていると、隣の席からまばゆい光が発せられた。
慌てて目を開けると、隣の席の下に光の魔法陣のようなものが描かれていて、白崎さんを含むグループの人たちが光に覆われていた。
「うわっ!」
「なんだ?!」
「きゃああ!」
「なにこれ?!」
光に覆われながら、彼女は僕と目が合う。
そして、助けを求めるかのように僕に手を伸ばしてきたので、反射的に僕も彼女に向かって手を伸ばしていた。
そして、僕と彼女の手が触れそうになった瞬間、僕たちは光に包まれて意識を失ってしまった。
僕が目を覚ますと、石壁に覆われた部屋の中にいた。
近くには隣の席にいた4人が同じように床の上にへたり込むように座っていた。
僕は情報共有のために白崎さんに訊いてみることにした。
「えっと、白崎さん。ここどこかわかる?」
「えっ?! どちら様ですか?」
僕が白崎さんに話しかけると、何故か知らない女性の声が聞こえた。
さらに白崎さんは、僕のことをまるで知らない人のように訊いてきたのである。
「いやいや、僕だよ! 夜明満月!」
「夜明くん……? いや、でも……。女の子だけど」
「えっ?!」
白崎さんの言葉に、僕は思わず自分の体を見回した。
とっさのことで気づいていなかったが、僕の背丈は何故か白崎さんよりも低くなっていた。
それだけではなく、僕の胸のあたりから慎ましいながらも女の子らしいふくらみがシャツの間から覗いていた。
慌てた僕は反射的にズボンの中に手を突っ込み、あるべきものを求めてまさぐった。
しかし残念ながら、僕の手はあるべきものを見つけることができなかった。
その代わりとして、僕の指先は一本の溝のようなものを捉えていた。
確かめるべく指を動かすと、全身の肌が逆立つような奇妙な感覚に襲われた。
「ひゃっっ!」
その感覚に驚いた僕は、慌ててズボンの中から手を引っこ抜いた。
「嘘……、僕が女の子になってる……」
もはや、現実を信じざるを得なかった。
召喚された5人のうち、僕だけが女の子になっているのである。
「ようこそ、エンジョー王国へ。勇者様方、私は宮廷魔術師のヨーク・ミエールです」
そう言って、いつの間にか僕たちの背後に来ていた老人が恭しく礼をする。
「まずは、国王の元へまいりましょう。そこで詳しく説明させていただきます」
そう言って、ヨークは僕たちを国王の前に連れていくと、詳しい説明をしてくれた。
国王は僕たちの様子を見ると、厳かに話し始める。
「よくぞ参った。魔王を討伐する使命を背負った勇者たちよ! 儂はエンジョー王国第10代国王、ムノー・デ・エンジョーである」
その言葉に続いて、ヨークが詳しい説明をしてくれた。
どうやら、僕たちは魔王侵略の危機に陥った王国を救うために勇者召喚の儀式で呼び出された勇者とのことであった。
そして勇者召喚で呼ばれた者は、本人の秘められた願いに相応しい力を授けられるというものである。
「僕が女の子になったのも、僕の秘められた願い……」
その事実は、僕が密かに変態だったと言われているようで複雑な気分になった。
仮に、それが相応しい力だとして、魔王討伐するという目的に、女の子になることが全く結びつかなかった。
「まずは、諸君に授けられた力を確認するとしよう!」
そう国王が言うと、ヨークが僕たちの能力を鑑定し始めた。
鑑定と言っても、見るだけでわかるらしく、僕たちは何もする必要がなかった。
鑑定の結果は以下の通りである。
スキル:【剣術】、【攻撃魔法】、【回復魔法】
スキル:【斧術】、【盾術】、【完全防御】
スキル:【回復魔法】、【蘇生魔法】、【強化魔法】
スキル:【攻撃魔法】、【魔法強化】、【魔力強化】
彼らの能力を聞いた国王は感嘆の声を上げる。
「なんと、此度の勇者はみな素晴らしい力を持っておる! これならば、あとの一人も期待できよう!」
嫌が応にも国王の僕への期待が高まっていく。
そして、最後の鑑定が行われ、結果は以下の通りだった。
スキル:【歌う】【踊る】【女体化】
「ああああぁぁぁぁ?!」
僕はその結果を見て絶望した。
国王も信じられない、と言うような表情をして、ヨークを問い詰める。
「踊り子? 踊り子だと?! しかもスキルが【歌う】と【踊る】は……百歩譲って良いとしよう。だが【女体化】とはどういうことだ?! ヨークよ、ふざけているのか?!」
「滅相もございません! 天地神明に誓って、この結果に間違いはございません!」
「ぐぬぬ! どうやら、ふざけているのはお前の方だったようだな! こんなふざけたスキルを持つ者が勇者のはずが無い! 即刻この城から出ていけ!」
絶望していた僕の身体を左右から衛兵が支えて、城の外に放り出す。
「国外追放でないだけ良いと思えよ!」
衛兵たちは侮蔑の笑みを浮かべながら、そんな言葉を吐き捨てた。
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