【第一章完結】ルーナ・ワールドツアー~勇者召喚されたけど、ハズレ職「踊り子」により王国から追放されたので、魔王プロデュースでデビューしたら聖女と呼ばれるようになっていて、追放した王国が崩壊しました~

ケロ王

プロローグ フィナーレ

ルーナ・アウローラ――歌と踊りの聖女。


そう呼ばれている私は、今、全国ワールドツアーを終えて、その総決算としてホームである魔王城ドームのステージの上にいた。


スポットライトはステージの上に立っている私だけを照らし、ドームを埋め尽くす大勢の観客は私の姿に釘付けになっていた。

観客から発せられる歓声が私の身体を包む。

それはまるで素敵な男性に抱擁されているような快感(なお、実際に抱擁されたことはない)を全身に伝えているように感じられた。


「Shine on! Shine up! 闇を振り払い♪ Shine on! Shine up! 今、光あふれる♪」


その歓声を浴びながら、私は全身全霊を込めて歌い、そして踊る。

それに魅了された観客の歓声がさらに大きくなり、私の心を一層高揚させる。


「みんな! 今日も応援ありがとう!」


クライマックスへと向かって、私と観客が高みに上っていく。


舞台袖にはマオーPが、私のステージを涙ぐみながら見守ってくれていた。

手に握りしめられたハンカチは、既に涙と鼻水にまみれていた。


「ちょっと、汚いなぁ」


そう思いつつも、私のことを思っているのを感じて、彼に微笑む。

彼は、それに気づくと手を振って応えてくれた。


ステージの最前列には、私と一緒に王国に召喚された陽キャグループのメンバーが立ってサイリウムを振っていた。

追放された私と違って、彼らは最後まで勇者として魔王討伐を目指していた。

そんな彼らが、なぜ敵地であるはずの魔王城ドームに来ているのかと言うと、いろいろとあって、王国の経済が破綻し、勇者を雇用し続けることができなくなったからである。


全国通貨基金(AMF)によって経済を立て直すにあたり、軍事費は真っ先に削られた。

当然ながら勇者の雇用も継続することができず、追放同然に契約を解除されてしまった。


その頃は『歌と踊りの聖女』として、それなりの収入があった私は、彼らの窮状に見かねて、彼らに資金を援助してあげた。

そこから冒険者として成り上がり、今ではAランク冒険者というトップクラスの冒険者として、困難な依頼をこなしている。


そして、その中の一人である白崎治美しらさきはるみは、今では私の恋人である。

元々、彼女は私(当時は男性)のことを好きだったようで、その想いは女性になった今も変わらなかった。

一方、女性になってしまった私は、突然の変化に多くの悩みを抱えることとなった。

そんな時に私を支えてくれたのが彼女だった。

彼女から想いを告げられた時、私はいろいろなことを彼女に助けてもらったこともあって、彼女の想いに応えることにした。

今でも、私と彼女はお互いに悩みを共有しあう仲である。


一方の王国はと言えば、AMFに援助された資金の返済に狂った税金を課すようになった。

しかし、王家や上位の貴族連中は国民の窮状をよそに、そこそこの生活をしていたことから、革命が起きる寸前であった。

そのことを危惧したAMFが王家と革命勢力の代表とで話し合いを行ったが平行線を辿っていた。

万策尽きたAMFが私に聖女として地位を確立しつつあった私に仲裁をお願いしにきたのも必然であった。


私は、その会合に参加し、私のスキルを使って国王や貴族たちに体で稼いでもらってはどうかと提案した。

結局のところ、王国の政治は別に国王や貴族がいなくても回らない状態であったことから、当人を除いて賛成多数で可決された。


私のスキルによって女性に変えられた彼らは、AMFの職員によって、各地の勤務先に配属されて行った。


そして、コンサートが終わり、観客たちは熱気冷めやらぬまま、それぞれの居場所へと帰っていった。


私たちは、それを最後の一人まで見送る。


そうしていると、ふと私の頭をマオーPは優しく撫でてくれた。


「もう、くすぐったいよぉ」


私は恥ずかしそうにはにかみながら、彼に微笑みかけた。


「よく頑張ったな! これでワシたちは、この世界の支配者となったのだ!」


最初に決めた、私とマオーPとの目標――全国制覇は今、成った!


「だが、安心するのはまだ早い。ワシらはまだ高みに上らねばならん! それだけではないぞ。海の向こうには、まだワシらの知らない世界がある。ワシらの世界征服の野望は始まったばかりじゃぞ!」


「ふふふ、わかりました。でも、ここまで頑張ったんだから、しばらくはゆっくりお休みしましょうよ」


「そうだな。ちょうど、帝国テレビから温泉めぐりの仕事をもらってあるぞ!」


「えぇぇぇ、結局仕事ですか……」


「良いではないか。ここまで有名になったのだ。お休みと言っても気は抜けん。ならば仕事ついでに羽を伸ばすのも悪くないだろう。仕事とは言いつつ自由時間はたっぷり用意してもらったからな!」


「ふふふ、悪いプロデューサーですねぇ」


「魔王なんだから悪くて当然だろ? さぁさぁ、帝国に向かうぞ」


そう言ってドームの外に待たせてある馬車に向かって歩き出した。


「しっかし、いろいろあったなぁ」


私は王国のあった方を見ながら、ここに至るまでの出来事に想いを馳せていた。

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