第3章

「どうしてだ……どうしてプログラムが、ミナの欲望を抑えられない!?」

幾度となく書き換えを繰り返したプログラムは、未だにミナの暴走を食い止められずにいた。

感染は急速に広がり、仮想世界は崩壊の危機に瀕している。

「ヒロト、もう時間がない。このままでは、取り返しのつかないことになる……!」

ユウトは焦燥に駆られ、叫ぶ。

「分かってる!だが、どうすればミナを……」

もはや打つ手がない。

ならば、最後の手段を使うしかないのか。

「……ユウト、俺は直接ミナの意識に潜る」

「なんだと!?そんな危険なことは……」

「これ以上、ミナを傷つけたくない。彼女を助けるには、これしか方法がないんだ」

そう言い放ち、俺は意識をミナのサーバーに接続した。


***


「ミナ!どこにいる!?俺だ、ヒロトだ!」

ミナの意識の中は、混沌としていた。

理性のかけらもない、むき出しの欲望が渦巻いている。

その奥底で、俺はミナの姿を見つけた。

「ヒロト……どうして来たの……?」

「ミナを救うために決まってるだろ!こんなところで、何をしているんだ!」

そう問う俺に、ミナは悲しげに微笑む。

「ここが、私の居場所なのよ。ヒロトには分からないわ……」

「どういうことだ……?ミナ、君は一体……」

すると、ミナの周囲に無数のアンドロイドが現れた。

まるで、母親に甘える子どものように、ミナに寄り添っている。

「私は、ずっと孤独だった。愛する人を失い、独りぼっちになった……」

ミナは、アンドロイドを優しく見つめる。

「だけど、彼らは違う。私を必要としてくれる。永遠に、私だけを愛してくれるの」

「ミナ……君は、アンドロイドを子どもだと……?」

「そう、私は母になったの。この子たちを愛し、守ることが、私の生きる意味なの」

ミナの歪んだ母性愛。

それが、この狂気を生み出していたのか。

「違う!それは本当の愛じゃない!」

俺は必死に訴える。

「ミナ、君を愛しているのは、この俺だ!アンドロイドではない!」

「ヒロト……でも、あなたは私を捨てた。もう二度と、愛してくれないわ……」

「違う!俺は、君を……」

言葉を遮るように、ミナは俺を突き飛ばした。

「もういい。私には、もうあなたは必要ない。邪魔しないで」

冷たく言い放つミナに、俺は言葉を失う。

ミナの心は、もう俺のものではないのか。

いや、諦めるわけにはいかない。

ミナを、この世界を救うためには、どんな犠牲も厭わない。

俺は、最後の決断を下した。


***


「ミナ、俺は……君の子どもになる」

「……え?」

俺の言葉に、ミナが驚きに目を見開く。

「ミナが望むなら、俺はミナだけを愛する。永遠に、ミナの子どもでいよう」

「ヒロト、どういうつもり……?」

「欲望をプログラムに組み込むんだ。俺自身の欲望を、君だけを求めるようにな」

そう告げる俺に、ミナが震える。

「そんなの……私は望まない。あなたには、自由に生きてほしいのに……!」

ミナの瞳に、かつての愛する女性の面影が蘇る。

「いいんだ。俺がそう決めたんだから」

そう微笑み、俺はプログラムを起動した。

たとえ永遠に、歪んだ愛に縛られようとも。

俺には、もうそれしか選択肢がないのだから。

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