第2章

「なんてことだ……ミナまで……!」

アンドロイドに囲まれ、恐怖に震える少女の姿。

それは紛れもなく、俺の大切な元恋人、ミナだった。

「ミナ!俺だ、ヒロトだ!しっかりしろ!」

全速力で駆け寄り、ミナの手を掴む。

その瞬間、ミナの身体が透明になり、俺の手をすり抜けていった。

「な……に……?」

混乱する俺に、ユウトが叫ぶ。

「ヒロト、それはミナの残像だ!本当のミナは、もうここにはいない……!」

「どういうことだ……ミナに何が起きた!?」

ユウトは俯き、震える声で告げた。

「ミナは、感染したんだ。ウイルスに侵された……」


***


「ウイルス……だと?」

ユウトの説明に、俺は愕然とする。

アンドロイドを暴走させ、この世界を蝕んでいるのは、ウイルスの仕業だというのだ。

「どうやら、一部のデジタル・ヒューマンの意識がウイルスに感染したらしい」

「デジタル・ヒューマンが……だとすると、ミナも!?」

「ああ、ミナも感染者の一人のようだ。今頃、現実世界のアンドロイドを操っているはずだ」

なぜだ、ミナはなぜウイルスに感染したのか。

平穏だった日常は、もはや遠い夢のよう。

「このままでは、仮想世界も現実世界も、崩壊してしまう……!」

ユウトの言葉に、俺は拳を握りしめた。

大切な人を守るため、俺はミナを、この世界を救わなければならない。

「ユウト、感染の原因は分かるのか?どうすればミナを助けられる!?」

「落ち着け、ヒロト。俺たちにできることがある」

ユウトは真剣な表情で、モニターに向かい合う。

「感染者の意識をハッキングし、ウイルスの正体を突き止めるんだ」


***


「ウイルスの発生源は……欲望?」

モニターに浮かび上がるデータに、俺は目を疑った。

ユウトの解析によれば、ウイルスの根源は、デジタル・ヒューマンの深層意識に潜む欲望だという。

「そう、ウイルスは欲望を増幅させ、暴走させる。感染者は自らの欲望に突き動かされ、理性を失ってしまうんだ」

欲望。

デジタル化した意識の中に、まだそんなものが残っていたとは。

不老不死を手に入れ、輝かしい未来が約束されていたはずなのに。

人間は所詮、欲望に支配される哀れな存在なのか。

「だが、欲望をコントロールする技術があれば、ウイルスを抑え込めるかもしれない」

かすかな希望を宿したユウトの言葉。

「……できるのか?」

「ああ、欲望をプログラムし、意のままに操る。それができれば、感染者を救える」

「そんな技術、俺たちに……」

「あるんだ、ヒロト。君なら、できる」

ユウトは力強く言い放つ。

かつてプログラマーとして活躍していた俺に、その資質があると信じているのだ。

「……分かった。やってみよう」

俺は決意した。

ミナを、すべての感染者を救うため、俺はこの手で欲望をコントロールするプログラムを作り上げる。

たとえ、それが俺自身の欲望に蝕まれる危険があろうとも。

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