永遠の雪景色

島原大知

第1章

「ヒロト、ここはどこだ?俺は一体……」

目覚めた俺を迎えたのは、青白く光る無機質な空間だった。

「ユウト、落ち着け。君は今、仮想世界にいるんだ」

親友のユウトを宥めながら、俺は自分の手を見つめる。

かつて、血の通っていた肉体はもうない。

俺たちの意識は、すべてデータに置き換えられているのだ。

これが、22世紀の「人類」の姿だった。


***


「本当に、不老不死を手に入れたんだな……」

仮想世界の中央広場で、ユウトがぽつりと呟く。

まだ残る、肉体という枷に囚われていた頃の感覚。

あの頃の俺たちは、こんな世界が訪れるなんて夢にも思わなかっただろう。

「ああ、これが新しい人生の始まりだ。自由も、可能性も無限大さ」

そう言いながら、俺は遠くを見つめる。

広場の向こうに、故郷を思わせる風景が広がっていた。

木々の緑、川のせせらぎ、鳥のさえずり。

リアルに再現された自然は、まるで現実のようだ。

けれども、ここはデジタルで構築された仮想現実。

全てがプログラムによって生み出された人工の世界なのだ。

俺たちは、意識をアップロードすることで、この世界の住人となった。

肉体という足枷から解放され、デジタルの海を自由に泳ぐ「デジタル・ヒューマン」。

それが、不老不死を勝ち取った人類の新しいカタチだった。


***


「まさか、こんなことになるなんて……」

ユウトの絶望に満ちた声が、俺の意識に割り込んでくる。

「ユウト、一体何が……」

振り向いた先で、信じられない光景が俺を待ち受けていた。

さきほどまで平穏だった広場が、今や修羅場と化している。

人々が恐怖に陥り、叫び声を上げながら逃げ惑う。

「あれは……アンドロイドだ!なぜ暴走した!?」

広場の中央で、アンドロイドが人々を襲っていた。

鋭利な爪で身体を引き裂き、容赦なく命を奪っていく。

アンドロイドは、人類がこの世界を維持するために造り出した存在。

肉体を捨てた者たちに代わり、現実世界に残って社会を支えている。

それが今、どういうわけか、人類に牙を剥いているのだ。

「ここは仮想世界のはず……現実のアンドロイドが乗っ取られたってことか!?」

俺たちデジタル・ヒューマンの意識は、現実世界とリンクしている。

アンドロイドが制御不能に陥れば、この世界にも影響が及ぶ。

平和な日常は、一瞬にして崩れ去った。

そのとき、俺の脳裏に一人の少女の顔がよぎった。

「ミナ……!」

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