e01g.ファスター・ザン・ライト
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「まったく、隕石よりも手酷いですわね」
戦艦のシールドと艦殻を貫いて、火花を散らせて着地を決めたヴェローチェの前に、またもやレーヤが立ち塞がる。
完全武装の、大勢の家来を連れて。
「オキャンがずいぶん偉くなったもんだぜ」
穴の開いた天井に72。倉庫か格納庫の番号か。穴をジェルが埋めているから、そんなに深くは食い込んでいない。
さてと、オキャンに構ってるヒマはねぇ。オレの単車は――。
金色が差し込んだ。
取り巻きどもの奥から、あのきんきらきんが押し出された。
目をまんまるにかっぴらいて、両手両脚どころか首にも枷を嵌められて、内向シールドの檻の中で身動きひとつ取れないよう縛られている。
金無垢の髪と、胸に抱くハンドガンがその存在を主張していた。
いったい何のためにこいつを?
「おわかりになりませんか、お姉さま! お姉さま、再会は運命だったのです! あなたはいま、ここで、わたくしの前に膝を折るのですわ!」
何人か、見慣れないライフルを携えた取り巻きがいる。銀色で、やたらとゴツい収斂機関と太いバレルがあって、まるで年代物。
なんだか知らないが、下らないことに付き合うつもりはヴェローチェには無い。
底をぶち抜いてやる。
「撃ちなさい!」
間に合わねぇよ。
が、脚が動かない。
おいこいつぁなんだ!
ヴェローチェの鎧に纏わり付いていたのは、金色の電撃。
「やりましたわ!」
電撃音に混じってレーヤの歓喜が響いた。
「セリエオロ実効兵器第九号ネグローニ・ブリランテ、大成功ですわ! ああジョロウ……わたくし、ご恩に報いますわ」
全身が動かせない、なにかに包まれているかのように。鎧の機能は無事だが、これは、エネルギーシールドが強制的なオーバーワーク。外部から過剰なエネルギーが注がれて……電撃か!
電撃の発生源は、あの古臭く見えたライフル。
マガジンとして差し込まれているのは、金の糸が浮いたカプセル。
金の糸。
きんきらきんの髪と同じ。
この子ども、鎧に備わるセンサーでは捉えられない、未知のエネルギーを宿している。
そんでもってレーヤ、いやジョロウグモはそれを活かした兵器を造っている。
いけ好かないのは、その兵器がオレの鎧に通用することだ!
「セリエオロ実効兵器群は必ずや、ジョロウグモを銀河の覇者へと導くでしょう!」
悦にいるオキャン。
「……そしてお姉さまは、わたくしのものに」
「オレが」
ヴェローチェは立ち上がる。
「
胸を張って、レーヤを睨む。
「なるわけねぇだろうが!」
「そんな! ネグローニ一基でも戦闘機を止める出力ですのよ!」
鎧のシールドパワーを下限まで下げてはみたが、それでも重荷には変わらなかった。全身の関節が錆び付いたボルトみたいに動かない。
なんてこたねぇ、後は根性だ。
「誰がお前に膝を折るって?」
「フ……フフフ、それでこそお姉さまですわ!」
レーヤが、背後に置いていた板状の塊を持ち上げ、展開した。
中折れ式の、背丈を大きく超える姿はカノン砲。
「今度はどんなオモチャだよ?」
「セリエオロ実効兵器第三号アペロール・スプリッツ。携帯式対艦砲ですわ」
「へえ。試してみろよ」
どちらにせよ逃げられねぇ。
それに、オレを屈服させたいなら動きを止めるだけじゃ無駄だ。
受けて、打破してやるよ。
「グラン・ソレラ! 本当にここで使うのですか!」
「艦内設備を犠牲にしてでも、お姉さまを得られるのであれば!」
レーヤは取り巻きの抗議には耳を貸さず、片手をきんきらきんの檻に突っ込んだ。
――ぶち。ぶちり。
開いた瞳孔が揺れる。
ヴェローチェは見逃さなかった。
「セリエオロの力が、わたくしたちを導くのですわ! 皆さん、お下がりなさい! アペロール・スプリッツ照射後、ネグローニは解放なさい!」
レーヤはむしった金無垢の束を、カノン砲のチャンバーにぶち込む。
「抽出開始」
金のエネルギーが巡り、機関部から光が漏れる。
ここまできても、エネルギーの正体を感知できない。対艦砲という名目、取り巻きどもが慌てて逃げ出していることから、生半可な威力ではないのは想像できる。
いいだろう。
「レーヤ」
久しぶりに、本当に久しぶりに名前を呼ぶ。
「な、なんですの? わたくしに――」
「撃てよ。もう酒呑める年なんだろ」
はっと息を吸って、唇を噛む。歓びと悔しさがはっきり見て取れるぐらいに。
ドレスのオンナは目いっぱいに涙を浮かべて、瞳の奥に過去を宿し、抱えた砲の引き金に指を掛けた。
「わたくしはあなたと一緒にいたいだけですのよ!」
はッ……知らねぇよ。
黄金の粒子が押し寄せる。
鎧の胸を打ち、尚も進もうとする大波。
ふと思い出す。
初めてエネルギープロジェクターの艦砲ビームを受けた時を。
並みの装甲服じゃあコンマ一秒と保たず消し炭。だから、やわなオンナを守る必要があった。天の川銀河で最も優れた鎧が艦砲射撃から守れるのは、オンナひとりが限界。
恐ろしいのは破壊力だけじゃない。超高温のプラズマ故に、微細な粒子の振動が鎧の機能に作用して、一時的なダウンにまで追い込まれる。そうなれば、生き延びたとしても相手の思うがまま。
こいつがオレの前に立って敵と向かい合い、オンナの強さを見せたのはあの時が最初で。
いまとなっちゃ、手の付けられないおてんば娘だがな。
カノン砲に真っ向から打ち克って叩き割ってやりたかったが、対艦砲を名乗るだけあって威力が凄まじい。このまま耐えていても周りが先に崩壊する。
そうしている間に、オキャンは再び檻へ手を伸ばしていた。
もし連射ができるとしたら。
だったら――。
「ちょっと失礼するぜ」
「お姉さま!?」
内向シールドの檻を破壊するのは容易い。
「すこし付き合ってくれよな」
ハーフマスクのヴェローチェを真っ直ぐに見つめる、小脇に抱えたきんきらきんにウィンク。
あの消える動きをせずだらりとしていて、言葉と仕草が通じているかも怪しいが、いまは人質になってもらう。
「返しなさい!」
「聞けねぇな! オンナの髪と単車に不埒なヤツの言葉はなぁ!」
そのまま壁にタックル。
進撃する。
イードラが格納された方向へ。
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