第26話 そこには美少女の寝顔があった

 昼休み時間。志筑愛智しづく/あいちが普段から好意を抱いていた子が、そこにはいた。


 誰もいない校舎の裏庭で、その子がベンチに座りながら目を閉じ、すやすやと休んでいる。


 昼休みの時間になると、教室にいなくなることが多かった。

 彼女は普段から、ここで過ごしているらしい。


 そんなに眠いなら、ちゃんと家で寝てくればいいのにと思う。


 愛智は彼女がいるベンチから少し離れたベンチに腰掛け、先ほど購買部で購入してきたパンの袋を開ける事にした。


 パンを手にしている愛智は、食べるのを一旦やめ、その場所から彼女の休んでいる光景を眺めていた。


 彼女の寝顔が可愛らしく見える。

 その存在に惹きつけられてしまう。


 睦月結良むつき/ゆらは、元から美形寄りの顔立ちで、黒髪のロングヘアが良く似合っている。去年のミスコンでもランキングする事もあったくらいなのだ。

 そんな彼女の寝顔を見れている事に、幸せを噛みしめられていた。


 本当は以前から告白しようと思っていたが、なかなか勇気を出せず、声をかける事すらできなかった。


 結良の事を知ったのは、去年のミスコンの時。


 彼女の表情や話し方。それから趣味も同じだった事もあり、それがきっかけで意識するようになった。


 今年から同じクラスになっても、一向に隣同士の席になれない事を悔やんでいたが、ようやく愛智は、自分なりの密かな幸せを手に入れられていた。


 欲を言えば、眺めているだけではなく彼女と付き合いたい。

 その想いを伝えたかった。


「……んッ」


 刹那、寝ていた結良が動き始めた。

 少し背伸びをした後、丁度、愛智と視線が合う。


 絶好のチャンス。

 だが、愛智は自分から話しかけることができず、ただ俯き、手にしていたパンを無言で食べ始めるのだった。

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