第23話 ジト目でミステリアスな彼女は、意外と気が強かったりする

 放課後。緑川武蔵みどりかわ/むさしは一人で教室に残り、日直ノートの白紙状態の報告欄と向き合っていた。


 今日は色々な出来事があった。

 放課後の掃除を押し付けられたり、課題を見せろと言われたりと――

 パシリみたいな扱いを受けていたのだ。

 だが、そんな事を直接的に書いたら、絶対にあいつらから後で仕返しされるだろう。

 別の事を書こうと思い立つものの、なかなか良い案が思いつかなかった。


 ため息をつきながら教室の席に座っていると、誰かの視線を背後から感じた。

 次の瞬間、誰かが椅子に座る音がした。

 驚き、振り返ると、斜め後ろの席に、とある子がいたのである。


 彼女はクラスメイトの美少女――熊田優羽くまだ/ゆう


 ミステリアスで無気力な言動が目立ち、あまり他人と交流を好まない子である。

 その上、ジト目である事。

 それが優羽の特徴だった。


「まだ、帰ってなかったんだな」

「……悪いの?」


 優羽はジト目で武蔵の事を睨む。


「そ、そうじゃないけど……」

「あんたってさ、他人の顔色を伺ってて楽しい?」

「お、俺は別に」

「でも、そういう風に見えるんだけど。他人に合わせるんじゃなくて、自分の意見も持った方がいいんじゃないの?」


 ジト目な彼女から言われ、ハッとした武蔵は再び正面を向き、机の上に広げられた日直ノートの白紙の報告欄と向き合う。


 やはり、今日あった出来事を直接的に書く事にした。

 後で面倒なことになったとしても、自分らしく素直に生きようと思った。


 あいつらには、皆が迷惑をしているのだ。

 告げ口をしたとしても、その時はその時だと思う。


 武蔵は迷うことなく、ノートの上でシャープペンを走らせるのだった。

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