第21話 俺の事が大好きな専属メイドがフレンドリーすぎる

「あきらー、夕食が出来ましたよ」


 明るい声が聞こえてくる。


 夜の七時を過ぎた頃合い。

 大富豪の家系の瑠璃川彰るりかわ/あきらは屋敷のレストランフロアにいる。

 今、長いテーブルの前の席に座り、正装した状態で食事を待っていた。


 屋敷で働いている専属メイドなのに、山田詩やまだ/うたはフレンドリーすぎるのだ。

 彼女とは同年代であり、共に高校生。できれば落ち着いた感じに話してほしいと、日頃から思っていた。


「あきら、元気ないですね? どうかしましたか?」


 白と黒のメイド服姿の彼女は、長い黒髪を紐で縛ってポニーテイルスタイルにしている。

 詩は料理が置かれた配膳台を押して、ここまでやって来た。


「いつも言ってるけど。その話し方はどうにかならないのか?」

「気軽に話しかけられるのが嫌なんですか?」

「そうだよ。君は俺の立場を理解しているのか?」

「はい、未来の社長ですよね?」

「わかってるのかよ。だったら、なんで」

「私はあきらには元気になってほしいから、普通に話しかけようって決めてたんです」


 詩は持論を展開していた。


「あきらって、いつも怒った顔ばかりで楽しそうじゃないので」

「しょうがないだろ。いつも忙しいんだから」

「私。あきらが楽しめる時間を少しでも作りたいから。これからも元気に接しますからね!」


 詩は変わる気配がなかった。


 だが、考えてみれば、いつも将来の事ばかり。今を見ていなかったのかもしれない。


「あきらの笑顔は、私の幸せでもありますからね!」


 配膳台からテーブル前に置かれた、高級な色とりどりな料理の数々。皿には綺麗に盛りつけられている。

 食事する時こそ唯一安らげる時間なのだ。


 しょうがないか。


 今くらいは、彼女のフレンドリーさを受け入れようと思うのだった。

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