第12話 片思いしている義妹と、同じ屋根の下で過ごすことになった⁉

 パシャ――


「ご、ごめん! 汚れちゃったよね?」


 ある日の夜。

 高校二年生の登紀ときが片思いしている、美少女然とした彼女と、同じ二階の部屋で一緒に勉強していた時だった。


 乃蒼のあの手が、ノートが広げられているテーブルの上にあったコップに当たり、登紀の服の上に零れてしまったのである。


「いいよ、気にしてないから」


 ショートヘアな乃蒼は、昨日から登紀の父親との再婚で一緒に住むことになった、同世代の義妹である。

 彼女は焦った様子を見せながらも、近くにあったタオルで登紀の服の汚れを拭おうとしていた。


 ……きょ、距離が近いって。


 彼女の存在を近くに感じられ、どぎまぎしていた。


「い、一回洗えば何とかなると思うし」

「着替えの服はあるの?」


 昨日、乃蒼の家に引っ越してきたばかりで、まだ服が入っているタンスがなかった。


「じゃあ、どうする?」


 乃蒼は首を傾げていた。


「まあ、服は洗えばいいし」

「でもね、私の家の乾燥機が故障してて」


 色々と問題が立て続けにおきすぎている。


「あなたが良ければなんだけど。一応、男性用の服があるから、それであれば貸せるよ」


 登紀は驚きながらも、彼女の顔を見やる。


 乃蒼の服を着る?


「いや、それは……」


 嬉しいけど、恥ずかしかった。


「でも、それ以外に着れる服ないでしょ? あなたのお父さんも仕事で一週間ほど帰ってこないって」


 そう言って、乃蒼は押し入れから男性用の服を一式取り出していた。


「これ持って脱衣所で着替えてきて」

「わ、分かった、ありがと」


 登紀はお礼を伝えると、一旦勉強を中断して部屋から立ち去って行く。


 登紀は家の一階の脱衣所で一人になり、乃蒼の事を想像しながらも、貸してもらった明るい色合いの服へと着替えるのだった。

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