第7話 無口なヒロインが、俺にこっそりと本心を見せてくれる

 体育でダンスの授業があった日の放課後。

 普段は目的もなくゲーセンに行ったりするのだが、佐藤史人さとう/ふみとは今から彼女の家でダンスを教えてもらうという約束をしていた。


 急に体育教師がダンスをすると言い出し、史人と同様に余った、その彼女とペアを組むことになったのである。しかも、来週、皆の前でダンスを披露しなければならないのだ。


 ペアになった彼女――神楽衣織かぐら/いおりは地味で無口。ショートヘアスタイルで、前髪で目元まで隠しているような陰キャ風な女の子。


 そんな彼女でも、ダンスにある程度自信があるようで大丈夫と言っていた。

 が、自分のような下手さ加減だと彼女に恥をかかせてしまう事になる。

 だからこそ、体育の授業終わりに、教えてほしいと衣織に懇願していたのだ。


 彼女の方は早めに帰宅し、すでに自宅にいるらしい。

 史人はその一時間後に下校し、学校から自転車で三〇分ほどかけて向かっていた。


「ここが、神楽の家か……結構、大きいな」


 史人は彼女の家の敷地内に自転車を止め、衣織の家のインターフォンを押す。

 すると、扉から顔を出してくれた。


「……えっと、誰ですか?」


 史人はポロッと、そのようなセリフが口から零れた。

 本当に誰なのかわからなかったからだ。


「なに、言ってるの? 私だけど」

「え……え⁉ 神楽⁉」

「うん」


 今、扉にいるのは、衣織の母親でもなく、姉でもなく、妹でもない。彼女本人だった。


 学校にいる時よりも顔の表情が明るい。

 今の衣織は前髪を上げ、目元がハッキリとわかる。

 学校にいる他の子よりも美少女に見えてしまうほどに、可愛らしかったのだ。


「じゃあ、入って」


 衣織から促され、史人は変貌ぶりに驚きながらも家に上がることになった。

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